勇者「ほう、貴様が魔王か…よくぞ我が元へと辿り着いた。」

魔王「お前が勇者かっ!!」

勇者「いかにも。我が城の兵達を屠り、この部屋の扉を開くに至った事…まずは褒めてやろう。」

魔王「…確かにお前の部下達は強かったさ。特に四剣聖に囲まれた時には死すら覚悟したよ…だけど、俺は最後の最後まで決して諦めなかった!」

勇者「ほう…流石は魔王といった所か、なかなかに殊勝な心掛けだ。」

魔王「どんなに晴れた空だって、諦めなければいつかは必ず雨が降る。それに…色んな人の想いを俺は背負ってるからな。」

勇者「人の想い…ねぇ。」



魔王「そうさ。平和な世に憧れ、幸せな暮らしを望む世界中の人達…そんな皆の想い、踏みにじらずにはいられないだろっ!!」

勇者「人の想いを踏みにじるだと?何をくだらん事を…希望に満ち光溢れる世界こそ美しいのだ、何故貴様にはそれが理解できぬ?」

魔王「つくづく悪趣味な奴だな…お生憎様、お前達人間の歪んだ考えなんてわかりたくもないぜ。」

勇者「…ならば問おう。貴様は、実際に苦痛に悶え息絶えゆく者を間近に見た事があるか?」

魔王「ああ…あるさ。この城に辿り着く直前にも、魔物に襲われ大怪我を負った行商人を看取ったんだ。未練がましく涙を流しながら、『最後に娘に会いたかった 』と言っていたよ…」

魔王「俺は彼の無念を決して忘れない…そして改めて誓ったんだ!少しでも多くの人を絶望の底に突き落としてやるって!!」

勇者「…ふん。魔王といえど、所詮は貴様も低俗で愚かしい魔族の1人に過ぎんという事か。我が崇高な理念に共感を求めたのが誤りだったようだな。」

魔王「ふざけるな、何が崇高な理念だ…!!お前はこの10年で自分のしてきた事がわかっているのかっ?!」

勇者「無論わかっている。国を治め、民を守り…法を整え、学問を広く知らしめた。全ては我が計画通り。」

魔王「け、計画だと…?」

勇者「秩序ある社会を形成し、人間共を充実と幸福へ導く…それこそが我が千年の悲願!!封印されている間、我はそんな輝かしい未来ばかりを夢想したものだ…ひどく懐かしいな。」

勇者「千年の封印は実に長かった…いや、封印を解いてからこそが本当の戦いだった。魔族が跋扈するこの乱世に、泰平の旗を掲げるのは果てしない道のりだ…しかしそれも今日で終わる!今こそ貴様を葬り、希望に満ちた完璧なる楽園を実現してみせようぞっ!!」

魔王「…か、完璧なる楽園だと?!狂ってる…!!」

勇者「ふははははっ!!何がおかしい?人間共の心からの笑顔、そして幸せに身を委ねる姿…それらが我が力、生きる糧となるのだ!疑いようもない安寧に包まれた眩き楽園こそ、我が千年描き続けた理想郷!」

魔王「許せない…例えこの命に代えても、お前だけは倒してみせるっ!!」

勇者「勇ましい事だな。貴様のように強き心を持つ魔族など見た事もない…だからこそ、貴様のその鋼の意志が折れ、我が希望の前に改心する姿を想像するだけで胸が踊る。」

魔王「黙れっ!!俺はお前なんかに屈したりはしないっ!!」ギリッ

勇者「威勢がいいのは結構だが…貴様1人でこの我に打ち勝てるなどと本気で思っているのか?我は人の子を束ねる光の王だぞ?」

魔王「1人じゃない…」

勇者「何?」

魔王「俺に村ごと滅ぼされた人達、俺に必死に命乞いをした人達、俺に殺されるよりも自らの手による死を選んだ人達…数え切れない人達の想いが俺を強くするんだ!」

魔王「皆が俺にくれた絶望を無駄にしない為にも…絶対に負けられないっ!!」

勇者「…ククク、さぁ始めようか。いざ見せてみろ…貴様のその忌々しき闇の力、譲れぬ想いとやらをっ!!」ズオッ

魔王「望むところだ!もう誰も笑う事のない…皆が恐怖に怯えながら暮らせる世界を俺は掴み取ってみせるっ!!」バッ

−−−

勇者「…想像以上にやるな。たかが魔族風情と侮った非礼を詫びよう。改心させるのもどうやら不可能なようだ。」

魔王「くっ…あれだけの攻撃でも殆どダメージを与えられないのか…。」

勇者「しかし…」ビュッ

魔王「ぐはぁっ?!」

勇者「…やはり我に戦いを挑んだのは無謀としか言いようがないな。更生の見込みがないとわかった以上、こちらとて手段は選ばん。」

魔王「うっ…」

勇者「ほう、まだ息があるか?これは驚きだ、確かに心臓を貫いたはずだが…」

魔王「…残念だったな。」ジャラッ

勇者「…なんだそれは?」

魔王「へへっ…旅立ちの日に俺が八つ裂きにした町娘から奪い取ったペンダントさ。こいつが俺を守ってくれたんだ。」

勇者「…」

魔王「町娘、まさかお前に助けられるなんてな…足がすくんで俺から逃げる事もできなかったくせに。ありがとう…お前と同じように、皆が苦しんで死んでいけるような世界を作ってみせるから…だから、もうちょっとだけ空の向こうから見守っていてくれ。」

勇者「ククク、泣かせる話じゃないか。だが強がりはやめておけ…今の攻撃を凌いだところで、貴様に勝機などありはしない。ほんの少し生き長らえただけだ…次の一撃で終わる。」

魔王「…それはどうかな。」ニヤッ

勇者「…何を企んでいる?」

魔王「俺にはまだ奥の手がある…下手したら俺自身も危ない諸刃の剣だけどな。」

勇者「面白い、この期に及んで一体何をしようと言うのだ?」

魔王《おいっ!!聞こえるかっ!!》

勇者「?!」

魔王《魔法の力を使って皆にこの声を届けてるんだ、聞こえたら頭の中で返事をしてくれ!》

勇者「まさか…世界中に呼びかけているのか?」

魔王《実は俺は今勇者と戦ってるんだが…正直言って分が悪い状況だ。それでも俺は最後まで可能性に賭けたい…だから少しずつでいい、皆の力を俺に貸してくれっ!!》

−−−

村人「ま、魔王の声だ!!ひぃぃぃぃぃっ!!」

女の子「死にたくないよー!!ママー!!」

神父「か、神よ…どうか我らをお守り下さい…」

おじいさん「変な声が聞こえるのぅ…どうやら、いよいよワシも駄目なのかもしれん…。」

船乗り「やめてくれぇぇぇ!死ぬ時は陸で死にたいんだよ俺は!」

スライム「誰が力なんか貸すかー!!ボク達をいじめてコキ使う魔王なんて、勇者に倒されちゃえー!!」

エルフの王「こ、これは悪しき魔王の声…!!皆の者、耳を傾けてはいけません!」

踊り子「いやぁぁぁぁぁんそこはらめぇぇぇぇぇぇぇぇ」ビクンッ

関所の門番「ゆ、勇者様ー!!お願いです、どうかそのまま憎き魔王を倒して下されっ!!」

−−−

魔王「…見えるか?この馬鹿でかい負のエネルギーの結晶…怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖…世界中の闇を集めた天をも穿つ黒い瘴気が。」バチバチ

勇者「…確かに凄まじい邪悪な気だ。しかし、果たしてそれ程までの巨大な力を貴様に操れるのか?」

魔王「さぁな…この力を放つのに耐えきれず俺の体が砕け散るか、当たったお前が砕け散るか…2つに1つだ。」

勇者「なるほど…文字通り命懸けの最後の策という訳か。」

魔王「そういうこった…いくぜ、世界の命運を賭けた一世一代の大博打っ!!」ゴオオォォォッ

勇者「ぬ、ぬぉぉぉぉぉ…!!」

ドカーーーン!!

魔王「…はぁっ、はぁっ…」

勇者「…」

魔王「ど、どうだ?!」

勇者「.…ククク。」

魔王「だ、駄目…か?」

勇者「…実に見事だ。」ボロッ

魔王「!!」

勇者「よもや人の王である我を討ってみせるとは…この世の如何な賛辞を以てしても、貴様を賞賛するには値せぬだろう…」バタッ

魔王「や、やった…俺はやったんだっ!!ついに勇者を倒したんだっ!!」

勇者「…だがこれだけは覚えておけ。例えこの身が朽ち果てようと、我が魂は永遠に不滅であると。一筋の光さえあれば、人は常闇さえも照らす事ができる…希望を願う人間共の意識の中で、いつの世も我は生き続け、るの…だ…」ガクッ

魔王「…」

魔王「…終わった。」

魔王「いや…まだ終わっちゃいないな。勇者は倒したけど、今なお希望を信じる人達は世界中にいるんだ。」

ガラガラガラ…

魔王「…勇者の魔力が消えたから城が崩壊を始めたのか。とにかくこれ以上ここにいても仕方ない、後の事は帰ってから考えるとするか。」ダッ

−−−

母「ま、魔王っ!!お帰りなさい!」

妹「お兄ちゃんお帰りー!!」

魔王「…ただいま。」

母「…どうしたの?浮かない顔して…勇者を倒したんでしょ?」

魔王「それはそうなんだけど…やっぱり2人の顔を見たら虫酸が走るって言うかさ。さっきまでの晴れやかな気分も一気に吹き飛んだよ。」

妹「そ、それはこっちの台詞よ!勇者を倒した事を褒めてあげようと思ってたけど、お兄ちゃんの声聞いた瞬間に言葉にできない程の不快感に襲われたんだから!」

魔王「ははは、酷い暴言だな。最高にイライラさせてくれる…流石は俺の妹だ。」

母「本当、どうしてあなた達のような子を生んでしまったのかしら…。後悔してもしきれなくて、なんとも心地よい気分だわ。」

魔王「よかった…母さん、俺も同じ気持ちだよ。母さんから自分が生まれたんだって思うと反吐が出る。」

母「それで…魔王はこれからどうするの?戦いは終わったんでしょ?」

魔王「いや、1人でもこの世に平和を願う人がいる限り俺の戦いは終わらないよ。これからは自由に各地を旅して、勇者は俺に敗れたっていう事実を広めて回ろうと思う。もう希望なんて一欠片も残されていないんだってわからせてやらないと。」

妹「えー!お兄ちゃんは勇者を倒してもう十分役目を果たしたんだから、そこまでしなくていいじゃん!」

魔王「そうは言ってもなぁ…」

母「こら妹、お兄ちゃんを困らせないの。お兄ちゃんなんかを困らせる暇があるなら私を困らせなさい。」

妹「やだやだぁ!これからはまた一緒にお兄ちゃんと暮らせると思ったのに…昔みたいに毎日お兄ちゃんが家にいる事に憤慨しながら過ごせたら、どんなに素敵だろうって…!!だから私、ずっと待ってたのに…!!」グスッ…

魔王「…ごめんな。」ガシッ

妹「…お兄、ちゃん?」

魔王「俺がいない間、お前には本当に寂しい思いをさせたと思ってる…。だからどうか、もっともっと泣いてくれ。お前の憐れで醜い泣き顔を嫌と言う程見せてくれ。」

妹「ふ、ふんっ!!別にお兄ちゃんなんかいなくても平気だもん!そんな言葉で私の機嫌を損ねようとしても無駄だからね!」

母「…はいはい、仲直りしないの。それより魔王、お腹空いたでしょう?」

魔王「あ、ああ。」

母「長旅の後だものね。何でも食べたい物を言ってごらんなさい。」

魔王「じゃあ…オムライスがいい。」

妹「私も私もー!!」

母「妹、あなたは昨日の晩もオムライスをリクエストして食べたじゃない。二日連続になっちゃうわよ?」

妹「えへへー。ママのオムライスってゲロみたいな味がして、こんなの食べるぐらいなら死んだ方がマシだってぐらい糞不味いから、毎日でも食べられるもん!」

魔王「だな。久しぶりにあの地獄を味わえるのか…楽しみだ。」

母「ふふふ、言ってくれるじゃない…今すぐ2人共血祭りにしたいぐらい憎くてたまらないわ。そういう事ならいつもより気合い入れちゃうから期待してて。2人共1週間は下痢になるかもよ?」

魔王「ははは、それは待ち遠しい。」

妹「お兄ちゃん、腹ペコだからっていつかみたいに私の分まで取らないでよー?」

魔王「へっ。取られる方が悪いんだ、隙だらけな自分の無能さを嘆け。無能のくせに食い意地だけは一人前とか一族の恥だぞ?食べる割に乳もないし。」

妹「むっかー!!お兄ちゃんなんか勇者に殺されて晒し首にされちゃえばよかったのにー!!首から下は馬のエサがお似合いだよ!!」

母「…もう、あなた達っ!!近所迷惑だから喧嘩するならもっと大声でしなさい!!」

こうして光の王勇者は闇の英雄魔王の手により討たれ、暗黒の時代が幕を開けた…かに見えた。

−−−

妹「おはようお兄ちゃん。」

魔王「おはよう妹。」

妹「お腹が痛すぎて早起きしちゃったよ…。」

魔王「奇遇だな、俺もだ。」

妹「…絶対昨日のオムライスのせいだよね。」

魔王「ああ、母さんはもう生かしておくべきじゃない。」

妹「…珍しく気が合うね、お兄ちゃん。私もイライラが限界突破して今にも気が触れそうだよ。」

魔王と妹の瞳には殺意の炎が宿っていた。
だが焦ってはいけない、確実に母を仕留めるには、まず腹痛を治す事が必要不可欠である。
2人は襲い来る執拗な便意に耐え忍びながらも、どうにか最寄りの病院へ辿り着いた。

−−−

院長「ではお大事に。」

魔王「…」

妹「…」

院長「お帰りはあちらですよ?」

魔王「…」

妹「…」

やっとの思いで薬を受け取った魔王と妹だったが、その苛立ちは一向に収まらない。
2人は母との戦闘に備えたウォーミングアップとの建前で、ついに病院へと火を放つ事を決断する。

魔王兄妹の強大で兄妹な魔力により燃え盛る炎は、大きな病院を丸ごと包み込む大規模な火事へと発展した。
消火に駆け付けた街の自警団や、野次馬目的の近隣住民などによって、瞬く間にできあがる人集り。
所狭しと肩を寄せ合うその集合体は、まるで巨大な1つの生き物かのような錯覚すら見る者に与える。

その喧騒は三日三晩止む事はなく、振る舞われる酒と豪勢な食事…そして歌と踊りに皆が時を忘れて酔いしれた。

この宴に終わってほしくない…口にはしなかったが、誰もが同じ想いを抱いていた。
あえて口にしなかったのは、実際に言葉にすると、きっと宴の終わりをより意識してしまいそうで憚られたから。

手を取り合う老若男女…そこには魔族と人間という種族の壁すらもない。
もはや火を囲んで踊る事に理由なんていらなかった。

人は思い出していた…ただ魔族を恐れるばかりではなく、時には理解しようという勇気も必要である事を。
魔族もまた思い出していた…人を力で支配するのではなく、その存在を許し認め合う共存の道がある事を。

かくして、人と魔族は争いを止め同じ道を歩む事を決意したのであった。
それはかつて勇者が望んだ、平和の楽園の実現への第一歩。

後にこの動きのきっかけとなった火事により死亡した病院関係者達の墓が建てられ、その地は平和の丘と呼ばれるようになる。

−−−

魔王「あー今日も空が青い。窓からの風は気持ちいいし…のどかな暮らしは最高だな。」のびっ

妹「お兄ちゃんもすっかり変わったよね、人間を惨殺する事が唯一にして最大の娯楽だって力説してたのにさ。」

魔王「はは、やめてくれ。もうすっかり昔の話じゃないか。今ではボランティアが趣味さ。」

母「お喋りもいいけど、2人共準備はできてるわね?今日が何の日かわかってるでしょ?」

妹「当たり前じゃん!もうバッチリだよ!」

魔王「ああ、年に1回の大イベント…参加しない手はないさ。」

人と魔族が共存を始めて早10年。
今では平和記念日が制定され、当日には各地から集った人や魔族が平和の丘を徹底的に荒らし、跡形もなく墓石を破壊しては再び墓を建造するという行事が毎年恒例化されている。

−−−

ガヤガヤ…

魔王「さて、到着したはいいけど…今年も凄い数の人と魔族だな。」

妹「皆墓を荒らしたくて仕方ないんじゃない?私達みたいな家族連れはもちろん、個人で参加する人だって多いみたいだしね。それになんたってたって、カップルで行きたい理想のイベントランキング5年連続1位だもん!いつか私も彼氏ができたら一緒に来たいなー。」

母「ええ、本当に素晴らしいイベントよね。平和を謳うと同時に、日頃の鬱憤を発散できる…それに墓石屋さんも毎年儲かっているでしょうし。」

ゴブリン「壊れろ、壊れろっ!!」ドカッ

戦士「そんな体当たりじゃ壊れねーよ。ちょっと俺に代わってくれ。」

男の子「僕はこの看護婦長の墓をションベンまみれにしてやるんだ!」ジョボボボボ…

ネコマタ「あちしのスーパーネコネコキックを食らえー!!」バババッ

踊り子「あはぁぁぁぁぁぁんもうおかしくなっちゃうぅぅぅぅぅ」ビクビクンッ

ゴーレム「墓石ノ一部、持ッテ帰ッテ俺ノ体ニスル」

魔王「盛り上がってるなぁ。今年はどこから始めようか?」

母「やっぱり1番大きな院長先生のお墓がいいかしら?」

妹「えー、楽しみは最後に取っとかないと!でものんびりしてたら先に誰かに壊されちゃうかなぁ…」

魔王「ははは。じゃあとりあえず、この目の前にある名前もない奴の墓から…」

???「…せん…」

魔王「あれ、なんか今変な声が聞こえたような…」

妹「え?私は何も聞こえなかったよ?」

ゴボォッ!!

皆「「「!!!」」」

シスター「きゃーっ!!」

武闘家「な、なんだっ?!土の中から…」

魔王「こいつは一体…?!」

???「許せん…貴様ら、断じて許せん…!!」ガシッ

サキュバス「や、やめてっ!!離してっ!!」バタバタ

???「滅びよ…滅びよ…!!」ギュッ

サキュバス「ひぎゃああああああ!!」グチュッ

インキュバス「サ、サキュバスを…サキュバスをよくも殺したなっ!!これでいくらか気は済んだだろう、俺は見逃してくれ!!」

???「足りぬ…全ての生きとし生ける者に罰を与えねば…!!」オオオォォ…

皆「「「…逃げろぉぉぉぉっ!!」」」ダダダダダッ

母「…な、何が起こっていると言うの…?!」

妹「お兄ちゃん、怖いよ…」ブルブル

魔王「…」

???「…私は院長。」

院長「焼き殺され、死してなお幾度なく弄ばれ…安らかな眠りにすらつく事すら許されぬ、世を呪いし怨霊なり…!!」ゴゴゴ…

魔王「院長…だと?」

院長「そうだ。正確には、病院関係者達の魂が院長の人格を中心として1つに融合したものだがな。」

妹「魂の融合…!!禁じられし太古の魔術…!!海底に眠る黄金の都…!!」

院長「…いいから話を聞け。貴様らに私のこの猛り狂う憤怒がわかるか?もちろん殺された事自体そうだが…何故私が死んで宴が開かれるっ?!そしてそれを皮切りに人と魔族が共存の道を歩むっ?!更には私の墓を作っては荒らし作っては荒らすっ?!」

魔王「…」

院長「答えろっ!!」

魔王「…きっかけや理由なんてどうだっていいさ。大切なのは…今この世界に生きる誰もが、日々を笑って過ごせているという事実だ。」

院長「いやおかしいだろうっ!!私が一体何をしたと言うのだっ?!こんなに簡単に人と魔族が共存できるなら、もっと早くにしていればよかったではないか!!私が死ぬ必要がどこにあったっ?!」

母「…必要があるとかないとか、そんな事は果たして誰が決めるのでしょうね。偉い人?それとも神様?今となっては無駄に思える過去の出来事だって、当時は何らかの意味を成していたかもしれない。運命って…そういうものの連鎖なんじゃないかしら?」

院長「黙れ黙れ黙れっ!!もっともらしい御託を並べおって…とにかく全部全部ぶっ潰してやるからな!!」

妹「…なんて悲しい目…。痛かったよね?苦しかったよね?辛かったよね?けど…もう大丈夫。もう誰もあなたを傷付けたりしない。だから自分の世界にお還りなさい…ここはあなたのいていい世界じゃないの。そしてどうか、安らかに…」

院長「やかましいっ!!安らかに眠ろうとしてたら墓を何度も何度も何度も荒らしたのは貴様らだろうが!!一体どの立場から物を言っているんだ?!貴様らは自分が正義だとでも思っているのかっ?!」

魔王「どうだろうな…正義とか悪とか考えた事もなかったよ。でも、俺は家族が好きだ。仲間が好きだ。そして…この世界に生きる人と魔族が好きだ。だから、何が正解かなんてわからないけど…俺は全てを守りたい。」

魔王「お前なんかに、絶対に壊させやしない。」

院長「こしゃくな…!!まずは貴様らを殺し、その後でゆっくりと世界中の人も魔族も等しく死に至らしめてやる!私の死を踏み台にした平和など許さん!霊界で培った呪力を舐めるなよ!!」

母「霊界…ですって…?!」

妹「ママ、知ってるの?!」

母「え、ええ…。まず今の私達が暮らすこの『人間界』。そして数十年前に荒れ果て…住む事も叶わなくなり、移住を余儀なくされた私達魔族の故郷である『魔界』。」

母「更には、魔族とは異なる生態系を持つ竜の一族が暮らす『竜界』。最後に、他種族との干渉を嫌う妖精族が結界で作り上げた『妖精界』。」

母「隔てられた4つの世界だけど、それらの世界に生きるありとあらゆる命の魂が、死後行き着く先はどれも同じ…。全ての終着点、それが『霊界』よ…。」

院長「その通り。すなわち霊界とは四界のエネルギーが流れ集う中心地…そこで魂となった私は莫大な力を得て、強い恨みにより現世に蘇ったのだ!今の私にとっては、魔王だろうが竜王だろうが妖精王だろうが敵ではない!!」

魔王「…もうやめないか。恨みや憎しみからは何も生まれない…誰にどれだけ復讐をしたところで、時計の針は戻せないし誰も救われやしない。お前達の墓がストレス解消の道具として使われ続けてきた事実も変わらないんだ。」

院長「きぃぃぃぃぃぃっ!!死ね死ね死ね死ねぇっ!!」バシュウッ

妹「…お兄ちゃん危ないっ!!」バッ

グサッ

魔王「!!」

母「!!」

妹「え、へへ…お兄ちゃん、大丈夫…?」ヨロッ

魔王「い、妹ぉぉぉっ?!俺なら大丈夫だ、それよりお前…!!」ガシッ

妹「いい、んだ…。どうせ私じゃ、この化け物を倒せない…。」

母「い、妹…あなた…!!」

魔王「違う!!どうしてお前、俺を庇って…!!」

妹「…私ね、お兄ちゃんの事が大好き。だから、子供の時からずっとお兄ちゃんを絶望させてあげたくて、罵倒ばっかりしてきたけど…今では私も、絶望より希望の方が素敵だなって思えるようになったから…。お兄ちゃんを守って死ねるなら、私…」

魔王「…駄目だっ!!お前のいない未来に希望なんてないっ!!」

妹「あの時、お兄ちゃんが勇者を倒して帰ってきた時…本当は涙が出る程嬉しかったのに、酷い暴言吐いちゃったりして…ごめんなさい…」

魔王「そんな昔の事どうだっていいっ!!死ぬな…頼むから死なないでくれっ!!死んじまったら、もう母さんのゲロみたいなオムライスも食べられないんだぞっ?!」

妹「えへへ、いいよ…。もうあんなゲロみたいなオムライスで絶望するより、お兄ちゃんは生きて…私の分まで、美味しい物を、食べ…て…」ガクッ

魔王「…妹ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

母「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!」

院長「ふふん、くだらん茶番は終わったかね?」

魔王「…あ?」ゴゴゴゴゴ

母「よくも私の娘を…!!院長だか怨霊だか知らないけど、もう許さないわ!!」

母「何度も何度も人の作った料理をゲロゲロ言いやがって!!霊界の果てまで送り返してあげるっ!!」ギリッ

院長「待て待て待て!!それは冤罪にも程がある!!」

母「お黙りなさいっ!!私だって本当は美味しいオムライスを食べてほしかった…だけど、いくら練習しても上手くならないのよ!!ずっと頑張ってきたのに…この報われない気持ちはあなたにはわからないでしょう!!」

院長「…わ、わかるぞ!!私も世の為人の為と、必死に医術を学び…寝る間も惜しんで誰かを助ける事に生涯を捧げたつもりだ!!だが、その結果どうだ?!余りにも…余りにも救われないではないかっ!!」

母「!!」

母「あなたも…あなたも私と同じだったのね…?」プルプル

魔王「母さん?!何を言ってるんだ?!」

院長「そ、そうだ!!貴様…いや、君は私と志を同じくする同志であるはずだ!このようにいがみ合っているべきではない!」

母「…ええ、私は間違っていたわ。院長、ごめんなさい…これからはあなたの隣に立たせてもらえるかしら?」

魔王「?!」

院長「ああ、もちろんだ!共にこの腐りきった世を滅しようではないか!」

魔王「くそっ…どうやったら確実にこの2人を殺せる?妹ももういないのに、俺1人で一体どうすれば…」

母「まぁ怖い怖い。敵なった途端、母であろうと一切の容赦なく殺すつもりなのね?」

魔王「わかりきった事をいちいち聞くなっ!!丁度いい機会だ、前から口の利き方が気に入らなかったからな!!でも考えろ俺…2対1のこの状況を打破するには…」

???「…ククク、正に絶体絶命といったところか。」

魔王「そ、その声は…まさか勇者っ?!」

勇者「久しいな、魔王よ。それにしても…まさかあの貴様がまるで別人のように改心し、人間と共存を図るとはな…霊界から見ていた時は何度も涙を流しそうになったものだ。いやはや、すっかり丸くなりおって。」

魔王「そ、そんな事よりどうしてここに…?!お前は俺との戦いで死んだはずじゃ…?!」

勇者「うむ、確かに我は貴様に敗れ、死を迎えたと同時に魂は霊界へと運ばれた。しかし…そこの院長とやらにできる芸当が、この我にできぬと思ったか?」

魔王「!!」

院長「!!」

母「!!」

踊り子「!!」

勇者「現し世還りなど容易いわ!我は光の王…平和に仇なす全ての愚か者共の敵、勇者であるぞっ!!」

院長「ふ、ふざけおってぇ…!!」

母「キィィィィ!!まとめてなぶり殺しにしてくれるザマス!!」

魔王「勝手に言ってろ!霊界で力を得た勇者が来てくれたからには百人力だ!まずはなんか人格の変わったオバハンから消してやるっ!!」

院長「れ、霊界で力を得たのは私とて同じだ!!この恨みの力で勇者をも凌駕してみせるっ!!」

母「ザマッスゥゥゥ!!」

勇者「…やれやれ。死人らしく、霊界から大人しく世界の行く末を見守っているつもりだったのだがな…。ようやく泰平の訪れた世に、再び荒波を立てようとするとは…院長、貴様を見過ごす事はできん!」

院長&母「「死ねぇぇぇぇぇっ!!」」

魔王&勇者「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」

かつての仇敵である魔王と勇者の夢の共闘、そしてその魔王の母と平和の礎であったはずの院長という異色コンビ。
この戦闘は人間界での有史以来最大規模のものとなった。

世界を守る為に命を投げ売ってまで魔王サイドに加勢する者、面白半分で院長サイドに加勢する者、戦いに参加する事なくただその雌雄の決する時を待ち見守る者。
連続最高絶頂回数の自己新記録に挑む踊り子。
多数を巻き込みながら繰り広げられる激闘は、双方の力の均衡のせいで終わりの見えないものとなった。

響き渡る爆音、煌めく閃光、誰かの悲鳴…それらは三日三晩収まる事はなく、振る舞われる酒と豪勢な食事…そして歌と踊りに皆が時を忘れて酔いしれた。

この宴に終わってほしくない…口にはしなかったが、誰もが同じ想いを抱いていた。
あえて口にしなかったのは、実際に言葉にすると、きっと宴の終わりをより意識してしまいそうで憚られたから。

手を取り合う老若男女…いがみ合っていたはずの両陣営さえ、気付けば肩を組み合い盃を交わしている。

魔王は思い出していた…病院に火を放った、かつての自らの許されざる過ちを。
院長もまた思い出していた…ただ純粋に人を救いたいという熱意だけで、がむしゃらに医者の道を志していた頃を。

勇者は思い出していた…いつか思い描いた平和とは、このような醜い争いの果てに生まれるべきものではないという事を。
母もまた思い出していた…どんなに不味いオムライスだろうと、いつも魔王達は一口も残さずに食べきってくれた事を。

かくして、双方は争いを止め同じ道を歩む事を決意したのであった。
それは訪れかけた危機が去り、世界の平和が守られた事を意味していた。

−−−

バンバンバンッ!!

???「なァァァぜェェェだァァァ!!」バンッ

???「何故だ何故だ何故だァ?!どうしてこうなるゥゥ?!」バンバンバキッ

側近「お、落ち着いて下さい!破壊神様!机が壊れてしまいました!」

破壊神「机など壊れてもよい、むしろ全ての物は壊す為にある!!」

側近「と、とにかく一旦冷静に…」

破壊神「これが冷静でいられるかァァァ!!せっかく人間界が破滅へ向かおうとしても、いつも急に訳のわからん方向に事態が進み、結局平和になってしまうではないかァ!!」

破壊神「森羅万象を破滅へと導くという、オレ様達『破界』の民の願いが一向に成就せんだとォォォ?!」

側近「人間界、魔界、竜界、妖精界、そして霊界…下界の者達にはこの五界しか知られていないが、実は上位には更なる世界が存在する…その1つこそが、ここ第6世界『破界』。そんな破界の君主たる破壊神様のお力を以てしても、たかが人間界ごときすら破滅へと導く事ができないなんて…何かがおかしい…」ブツブツ

破壊神「そんな解説臭い独り言を言っている場合かァ!!とにかく異常事態だ、人間界滅亡などほんの肩慣らしのつもりだったのにィ…ぐぬぬぬぬぬゥゥゥ!!」

側近「…破壊神様がもたらす破滅の因果を捻じ曲げてしまう程の力が、下界の者達にあるとはとても思えません。」

破壊神「…となるともしかしてェ、オレ様達と同じ上位世界のヤロウ共の仕業かァ?!」

側近「よくよく考えてみると、いつも歴史が不自然に動くタイミングにはある法則があります。とある出来事が起こる事により、唐突に争いは収まり歴史は平和へと歩み出す…その軸となるポイントは…」

破壊王「軸になる出来事…そうか、わかったぞォ!あのふざけた『宴』だっ!!」

???「…ピンポポーン。」ヌッ

側近「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!いつからそこにっ?!」

???「およよー。まさかこんなに早くカラクリに気付かれてしまうなんて、ボクちんびっくりだよよーん!」

破壊神「…相変わらずウゼェ喋り方だぜ。全部てめェの仕業かァ、宴会神っ!!」

宴会神「そんなに怖い目でボクちんを睨まないでよよーん。ボクちんはただ宴の楽しさを皆に知ってほしいだけだよ?第8世界『宴界』の長としてね。」

破壊神「はァん?!宴会したいだけなら、宴会で世界が破滅するように仕向けりゃいいだろォが!!なんで宴会で平和にしちまうんだよ!!」

宴会神「わかってないなぁ…滅んじゃったらもう宴会も開けないだろろーん?宴会をたくさんしてもらう為には、ある程度の数の知的生命体を生存させ続けなければならないんだよよーん。」

破壊神「イカれてやがるぜ…宴会さえできれば何でもいいのかよ。とてもオレ様と肩を並べる上位世界の支配者の1人とは思えねェ。」

宴会神「そういうキミこそ、ただ本能のままに己の破壊衝動に従っているだけなんだろろーん?壊した後の事なんてなーんにも考えてない、はた迷惑な脳みそ筋肉君じゃないかー。」

破壊神「んだとコラァっ?!てめェ…2度とその口利けねェようにバラバラにしてやる!!」

側近「破壊神様、微力ながら助太刀いたします!」

宴会神「いいよいいよ、いざ争おうよ!!そして…ボクちん達も死闘の果てに宴会で仲直りしようよよーん!!」バババッ

破壊神「…殺すっ!!」ドドドッ

破壊神と宴会神…上位世界を束ねる最高指揮者同士の争いは、筆舌に尽くし難い程に熾烈を極め、その余波は界壁をも超越して各下位世界に大地震を引き起こした。

破壊神「ケケケ!!これ以上戦い続けると、宴会もできねェ程に下の世界はボロボロになるぜ!どするゥ?!なァどするゥ?!」バリバリィッ

宴会神「…そうだねぇ。」ガガッ

側近「流石は破壊神様!単純な力比べでは勝てない相手だろうと、頭脳戦によって勝利を勝ち取るのですね!」

破壊神「うるせェ!!こうなったのはただの偶然だ!それに俺は力でも宴会神なんかには負けねェ!!」ゴンッ

側近「ひぃぃぃ!!ごめんなさいっ!!」

宴会神「…ボクちんはまだ諦めないよよーん。」キュイーン

何か策があるらしい宴会神は、一切攻撃の手を休めようとはしない。
破壊神はついに破界に住まう自らの下僕を大量に召喚し…対する宴会神も宴界から精鋭中の精鋭、『宴会してもええんかい』を緊急招集した。

正面からぶつかり合う大軍と大軍。
2つの上位世界を跨ぎ、また下位世界までをも巻き込んだ超大戦。
その熱は三日三晩鎮まる事はなく、振る舞われる酒と豪勢な食事…そして歌と踊りに皆が時を忘れて酔いしれた。

この宴に終わってほしくない…口にはしなかったが、誰もが同じ想いを抱いていた。
あえて口にしなかったのは、実際に言葉にすると、きっと宴の終わりりりりrr

きッと宴 のオワr

宴のoWaaaAA

NooOOo

ギュイーン

−−−

Oo

勇者「ほう、貴様が魔王か…よくぞ我が元へと辿り着いた。」

魔王「お前が勇者かっ!!」

勇者「いかにも。我が城の兵達を屠り、この部屋の扉を開くに至った事…まずは褒めてやろう。」

魔王「…確かにお前の部下達は強かったさ。特に四剣聖に囲まれた時には死すら覚悟したよ…だけど、俺は最後の最後まで決して諦めなかった!」

勇者「ほう…流石は魔王といった所か、なかなかに殊勝な心掛けだ。」

魔王「どんなに晴れた空だって、諦めなければいつかは必ず雨が降る。それに…色んな人の想いを俺は背負ってるからな。」

−−−

今まさに戦いを始めようとする魔王と勇者。
その光景が映し出された不思議な珠を、瞬き1つせずに鼻息荒く見つめる女性。

???「きゃははっ。ねぇ見てよメイドちゃん!こいつら台詞どころか、句読点の場所や口の開き方、表情やポーズまでパーフェクトよっ!!」

メイド「はぁ、いつもの事じゃないですか…」

???「巻き戻しの時に一瞬バグみたいになるのさえなければ、もっとスマートでビューティフルなのになー。ほらほら、せっかくの魔王と勇者の1215回目のデュエルなんだから、メイドちゃんも一緒にウォッチングしようよー!!…あれ、1216回目だっけ?」

メイド「…違います、1217回目です。私はもう正直飽きました。」

???「えーなんでー?だって勝負のリザルトもその後のフューチャーも全部決まってるってのに、勇者も魔王もこんなに必死なんだよー?」

メイド「まぁ前回も…いえ、1回目からずっと全く同じですね。」

???「それでこの後、宴会が開かれて人と魔族がフレンドリーになって、でも院長が出てきて…ついには破壊神とかまで出てきて…あぁファンタスティックっ!!」

???「私の知ってるヒストリーがそっくり丸ままリピートされるなんて、ウルトラグレートワクワクだよー!!筋書き通りのシナリオとか、知り尽くしたエピソード程ドキドキするものってないよね!!キュンっ☆」

メイド「そ、そうでしょうか…私はたまにはいつもと違う物語を見てみたいとも思いますが。」

???「ひっどいなぁ…ぐすっ。私は悲しいよ、悲しすぎて涙がタイダルウェーブしちゃいそう。だったら私のメイドなんてやめて、他の世界の主にでも仕えればいーじゃん!ふん!」

メイド「いえ…確かにそういう興味に駆られる時もありますが、私は貴女に生涯お仕えすると決めているのです。貴女に拾われたこの命…朽ちるその時までどこまでも付いていきます。」

???「きゃは、メイドちゃんは今日もいい子だなぁ。プリティプリティ。」なでなで

メイド「もっとも…貴女にお仕えしている限り、『生涯』などという概念はあってないようなものですが。」

メイド「…そうでしょう?第92世界『再界』を統べる姫様。」

☆再開姫☆「てへぺろっ。私がいる限りメイドちゃんは死なせないからね。でも私をコールする時はちゃんと可愛く星をつけてってばー!」

メイド「…申し訳ございません、☆姫様☆。」

☆再開姫☆「ふふふん。『繰り返される時こそ最高のロマン』をモットーに!寿命に怯える外界の民を受け入れ守り、更には伝説的瞬間を永遠の額縁に飾っちゃう!美徳と博愛に満ちた再界のヒロイン、再開姫とはこの私の事っ!!今日も元気にあっちこっちでリセットフェスティバルよー!!」キラッ☆

メイド「…なんですか、その決めポーズは。」

☆再開姫☆「キュートでしょー?昨日考え…」

ピッ

メッセージジュシン

メイド「では姫様、さっそくですがお仕事のご依頼です。」

☆再開姫☆「え、タイミング悪ぅ!!喋ってる途中で届くなんてエアーの読めない通知ね!私の予知できない出来事が起こるなんて激おこアングリーだわ!『起こる』と『怒る』をクロスオーバーさせてみたんだけど、どうかな?!」

メイド「すごく回答に困ります。」

☆再開姫☆「…で、ミッションの内容は?」

メイド「えーと…第67世界『社界』に暮らす元サラリーマンの方から、リストラされる前の日付に戻してほしいとの事ですが…いかがなさいますか?」

☆再開姫☆「ふんふん、お安いご用よ!入社の日を起点に、何回トライしてもリストラされ続ける人生をエンドレスリピートさせてあげるわっ!!」

メイド「…ご依頼人様の意向とは随分かけ離れているように思いますが…まぁ当人はループしている自覚がない為に今まで1度もクレームが来た事もありませんし…」

☆再開姫☆「そうそう、つまりノープロブレム!!んじゃ、ハイスピードで社界の近くまでフライするからしっかり捕まっててよーメイドちゃんっ!!」ビューン☆

メイド「ひ、姫様ー!!目が回るぅぅぅぅ!!」

−−−

アルファ「…なんだ、この界域には100階層しか世界がないのKa。3日もあれば、俺とオメガだけでも界域ごと丸々制圧できるNa。」

オメガ「ふむ…しかしアルファよ、こんな辺境の界域に果たして利用価値があるのかのぅ?制圧した所で一体何の役に立つやら…単なる労力の無駄になる可能性も…」

アルファ「相変わらず無精だな、老いぼれMe。『塵も積もれば』という諺がある…こうして話している暇があるなら、僅かでも制圧を進めた方が効率的Da。」

オメガ「…それもそうじゃの。特に今は、少しでも動かせる界域の数を増やしておくべきじゃしな。」

アルファ「ああ…次の万時空杯までもう9億光年しかないのDa。流石に優勝は無理だとしても、せめて上位には食い込まなけれBa。」

オメガ「わかっておるわい。下位の時空への他時空からの扱いは聞くだけでも酷いからのぅ…ワシとて気持ちは同じじゃ。今年はどこの時空が覇権を取るのやら…」

アルファ「…大体、10000の時空を50億光年毎に争わせてその頂点を決するなど、およそ正気の沙汰とは思えないがNa。争わずに手を取り合っていたならば、きっとどの時空も今より数段発達できていたはずだろうNi。主催者は何を考えているのやRa…。」

オメガ「さぁのぅ…奴は万時空杯の時しかワシらの前に姿を現さぬ上、信じられん程のスピードで常に振動し続けておるせいで、その姿形すらまともに捉えられんときた。あれは果たして男なのか女なのか、神なのか悪魔なのか、あるいは…」

−−−

踊り子「うっふぅぅぅぅぅんいい、すごくいいわぁぁぁぁぁぁ」ビックン

踊り子「シビれるぅぅぅぅぅぅもっと早く…でもやっぱり焦らして…」ビクッ

踊り子「はぁん、本当に待ち遠しいわぁぁぁぁぁぁん」ビクビクッ

踊り子「…9億光年後が。」クスッ

−完−

踊り子「あなたの住んでいる街は、どの時空のどの界域のどの世界のどの星のどの大陸のどの国にあるのかしら?ひょっとしたら次の万時空杯の結果次第で、あなたの周りの生活環境もガラッと変わっちゃうかもしれないわよん。」

踊り子「ま、関係なかったかな?せいぜい100年生きれば長生きと言われるあなた達には。」

踊り子「…あら?あなた達はあなた達よ。この画面の向こうの、あ・な・た・た・ち♪」

これで本当におしまいです。
いつ終わるの?って思った人、俺もそう思いながら書いてましたw
それではまたどこかでー。 

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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:6Lwn8elt0編集削除
光年は時間の単位ではなく距離の単位やぞw
2 . @  ID:Ytq7MZf40編集削除
ジョーカー
3 . 嘘松  ID:OpnS5GxS0編集削除
ジョーカー
4 . 名無しさん  ID:HYc9I5LE0編集削除
こういうのってちゃんと最初から最後まで読む奴いるの?

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