【ポケモン】しんのすけ「アローラ地方を冒険するゾ」その3【クレしん】
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【ポニ島編】
…… …… ……
ポニ島 海の民の村
しんのすけ「おー、お船ばっかりー」
グラジオ「ポニ島……暮らす人もほぼいない、自然豊かな島だ」
ロトム図鑑「裏を返せば田舎、ということだ」
グラジオ「しまキングを訪ねろ。しまキングでありながら、伝説のポケモンにまつわる祭壇の番人も兼ねるという。なにか聞けるといいがな」
リーリエ「にいさま……ありがとうございます! ただ……にいさまがヌルさんとエーテルパラダイスを出たあと、かあさま、大変だったのですよ! ビッケさんがいてくれなかったら……」
グラジオ「悪かったな……。大事な時にそばにいなくて。オレもヌルを守るので必死だったんだ……」
しんのすけ「お?」
グラジオ「お前は子供だろうが、3つの大試練を乗り越えた1人のポケモントレーナーだ。島巡りとリーリエのサポート、両方やってみせろ」
しんのすけ「オラがサポート……。ま、リーリエちゃんはオラがいないとすぐ道に迷ったりしますから」
リーリエ「しんちゃん。もうわたし、困っていませんし、迷いません。やること、わかってますから! それに……おかしな話ですけれど、ドキドキもしています」
しんのすけ「フッ、やっとオラのみりんに気がつきましたか。リーリエちゃんも男というものがわかってきましたな」
リーリエ「そういう意味でドキドキしてるワケじゃないです。それにみりんじゃなくて魅力、です」
グラジオ「それじゃ、任せるぞ」テクテク
しんのすけ「船酔いする人には相当きつい村だね」
リーリエ「船に住んでいる人たちは、平気でしょうけれども……」
???「よう来たな!」
リーリエ「ひゃあ!」ビクッ
しんのすけ「ひゅうひょう!」
リーリエ「ど、どなたでしょうか」
海の民 団長「わし? 海の民をまとめてる団長や!」
しんのすけ「あーキミキミ、次の日出れる?」
ロトム図鑑「ごめんなさい。その日用事があって……」
しんのすけ「困りますなー、商品の品出しできる人がいないじゃないかー」
団長「そりゃバイトをまとめる店長やろが!」
団長「そや! 周りの船、船、船! なんやと思う。海の民は長年かけて世界の海を渡りゆき、不思議という不思議を求め! 珍しいものをみつけては、アローラで交換しとるんや」
しんのすけ「んー男のマロンがあっていいですな」
リーリエ「ロマン、です」
団長「他の島にある港は立派になったんで、なんとなくポニに来るんやな」
団長「で、キミらなにしに来たん? わしらみたいにきのみ集めか?」
リーリエ「はい! わたしたち、しまキングさんを訪ねるのです!!」
団長「しまキング? ハプウちゃんところかいな。まあ、ポニにある家は一軒だけやし、そこやろな!」
しんのすけ「おーハプウちゃんかー懐かしいですな。ここに住んでたのか」
団長「ああ、ハプウちゃんの家、ごっついバンバドロがおるから、一発でわかると思うで!」
リーリエ「団長さん、ありがとうございます!」ペコリ
リーリエ「しんちゃん、ハプウさんやバンバドロさんに会えるといいですね!」
しんのすけ「うん、でもオラ、ひとつ心配事が……」
リーリエ「なんですか?」
しんのすけ「ここにおねいさんがいるかどうか、そこがちょっと心配で……」
リーリエ「やっぱり……さ、行きましょう」
しんのすけ「リーリエちゃーん、オラ疲れちゃったよー」
リーリエ「なーに言ってるんですか? 置いていきますよ、しんちゃん」
しんのすけ「それはそれでなんか心配。またリーリエちゃん迷っちゃうんじゃない?」
リーリエ「むっ……! しんちゃん、わたしはゼンリョクを出したんです。今までは、自分に何ができるのかわからなかったから、迷っていたんです」
リーリエ「ですけど、やりたいことは決まってますから、道にも、自分が決めた目標にも、もう二度と迷いません!」
しんのすけ「じゃあ、もしオラがいなくなったら?」
リーリエ「え……?」
リーリエ「……」
リーリエ「やってみせます。その覚悟をしてゼンリョクを出したんですから!」
しんのすけ「ほうほう、じゃあリーリエちゃんに期待しますかー。リーリエちゃんが無事独り立ちしてニート生活から脱却できるかを!」ビシッ
リーリエ「なんか質問の意図が違ってきてませんか……?」
ガサガサッ
デカグース「ぬっしゃぁぁっ!」ドスンッ!
リーリエ「きゃっ! で、デカグースさんっ!」
しんのすけ「ゆけっ、リーリエちゃん!」
リーリエ「私はポケモンじゃありませんっ!」
しんのすけ「あ、そ。じゃ、ボーちゃんレッツラゴー!」ヒョイッ
ミミッキュ『ボ!』ポンッ
デカグース「しゃあああっ!」ガアッ!
ドンッ!
ミミッキュ『……ボ!』カクンッ
リーリエ「わ……っミミッキュさんの首が……」
しんのすけ「ミミッキュじゃなくて、ボーちゃん。それにあれは首じゃないゾ」
ミミッキュ『ボー!』ジャキンッ!
ザクッ!
デカグース「しゃ、しゃーっ?!」
スタコラサッサ!
ミミッキュ『ボッ。去る者追わず……』フッ
しんのすけ「ボーちゃん、ごくろーさん」シュンッ
リーリエ「これが……ポケモンさん同士の戦いなんですね。何度も見てきましたが、改めてすごい迫力です」
リーリエ「トレーナーさんってすごいです。厳しい道だけでなく、ポケモンが傷つく姿も、ともに乗り越えて……」
しんのすけ「リーリエちゃん、トレーナーなる?」
リーリエ「そう……ですね。でも、まずはやらなきゃいけないことをやらないと!」
しんのすけ「よーし! じゃあ目指せ! トップアイドル!」
リーリエ「なりませんっ!」
リーリエ「いつのまにか、お日様も傾き始めてますね……」
しんのすけ「オラもう疲れたー有名人に送る手紙はファンレター」クタクタ
リーリエ「もう少しでハプウさんの家ですよ。頑張ってください」
しんのすけ「てゆうか、この道であってんの?」
リーリエ「大丈夫ですよ。人が通ってきた道そのまま歩いているので。トレーナーさんもたくさん見かけたでしょう」
しんのすけ「へええ……歩きたくなーい」
リーリエ「さんざん島巡りでたくさん歩いてきたのにですか? ほら、ひょっとしたら、しんちゃんが好きなきれいなおねえさんだっているかも……」
しんのすけ「甘い甘い。こーゆーところにいるのは、たいがいオバちゃんばかりだから」
ドンッ
しんのすけ「……お?」
バンバドロ「ムヒイウン!」
しんのすけ「よ!」
ロトム図鑑「フン……」
バンバドロ「ムヒヒン!」
ハプウ「おや、しんのすけに……それにリーリエか?」
しんのすけ「ハプウちゃん! 背ぇすごい伸びたね」
ハプウ「わしはラーメンではないぞ。一日や二日でそうやすやすと背が伸びるか」
リーリエ「ハプウさん! お会いできて嬉しいです」
ハプウ「見違えたのう……。なんだか、ゼンリョクを感じる!」
リーリエ「はい! やるべきことがありまして。わたしの全力の姿です!」
ハプウ「おお! がんばるリーリエ、いわば、がんばリーリエじゃのう!」
リーリエ「はいっ!」グッ
しんのすけ「ほうほう。……ふんばリーリエ」ボソッ
リーリエ「なにか言いましたか?」チラッ
しんのすけ「なんも?」
ハプウ「しまキング……? うーん、ポニにはおらぬのだ」
リーリエ「え……!? そんなことって……。どうしましょう、しんちゃん」
しんのすけ「じゃあ帰りますか」
リーリエ「そうもいかないですよ!」
ハプウ「ふむう……。今なら大丈夫かの。空の穴から出てきた、けったいじゃがかわいいポケモンの相手もしたしな」
リーリエ「それって……ウルトラビーストさんですか?」
ハプウ「ウルトラビースト? なるほど、あれはウルトラビーストというのかあ」
しんのすけ「ハプウちゃんの見たやつってこんなの?」ピコピコ
ロトム図鑑「ウツロイド、というぞ」
ハプウ「ふむう……。わしが見たビーストとやらはこんなものではなかったな。なにせ、写真すら撮っている暇がなくてな」
ハプウ「ま、ともかく、これから遺跡に行こうぞ! しんのすけたちもついてくるのだ!」
リーリエ「しんちゃん……。行くしかないですよね! ……って、トレーナーですものね。行くに決まってますよね!!」
しんのすけ「えー、また歩くのぉ?」
ハプウ「このまま道をまっすぐ行くと、ポニの荒磯という場所にたどり着いてな、地面の色も濃くなっていく。そこを先に進んだところに、彼岸の遺跡があるのじゃ」
リーリエ「いろいろ教えてくださって、ありがとうございます!」
リーリエ「彼岸の遺跡……。ポニの守り神である、カプ・レヒレさんがいるところですね。では、参るとしましょう!」ギュッ
しんのすけ「あーん、手ェ繋がなくっていいってばァ」
ハプウ「ふむう、ウラウラのときと比べると、ずいぶん2人の距離が縮んだように見えるぞ。まるで姉弟じゃ」
しんのすけ「オラたち……ひとつのベッドの上で忘れられない夜を過ごした仲ですもの。それにしてもリーリエちゃんって、おしっとりな草食系女子かと思ったらガツガツ行く肉食系女子だったなんて……」
ハプウ「うん? 忘れられない夜? 肉食?」
リーリエ「な、なんでもないですっ! なんでも!」カアッ
しんのすけ「リーリエちゃんって、あんなことをする時もがんばリーリエですもの~////」
ハプウ「????」
リーリエ「誤解招くようなこと言うのやめてくださいっ!!」
リーリエ「彼岸の遺跡……。どこか重々しい感じがいたします」
しんのすけ「かーちゃんの見た目……どう見ても重々しい感じがします」
リーリエ「ほしぐもちゃん……。遺跡の中に入れば、元気になるかも……!」
リーリエ「彼岸の遺跡の守り神、カプ・レヒレさんは、不思議な水でけがれを清めていたそうです」
しんのすけ「……ミネラルウォーター?」
ロトム図鑑(一儲けできそうだな……)
リーリエ「このコを元気にして、いい意味でしんちゃんを困らせますよ。ですから……待っててくださいね、ほしぐもちゃん! 今度こそ、わたしがあなたを助けるんですから!」
しんのすけ「やだーオラ困らされちゃうー」
リーリエ「ではしんちゃん、参るとしましょう!」
リーリエ「道を切り拓くには、巨石を押すのですよね! 本で読みました!」
リーリエ「せーの……ううッ! ……ううッ!」ググッ
リーリエ「わたしにはムリみたいです。言葉にできないほど重くて……ライドギアで、ポケモンさんの怪力を借りないと……しんちゃん?」
しんのすけ「うんしょっと……なんか言った? 行くよー」
リーリエ「えっ? 巨石を登ったんですか? ちょ、ちょっと待ってください~!」
しんのすけ「どしたの? そんな疲れて」
リーリエ「し、しんちゃんみたいに、石を登ってきたんです……!」ハァハァ
キテルグマ(ボール)『女の子に無茶させちゃダメよ。岩を押し出すことぐらい、ネネだって出来るんだから』
ヨワシ(ボール)『ネネちゃんがかいりきをするってすごいピッタリだね』
キテルグマ(ボール)『どーゆー意味よ! えぇ?』
ヨワシ(ボール)『ひいい〜っ! 褒めてるだけだよぉ〜っ!』
リーリエ「アローラの遺跡……。これも本で読んだのですが、守り神ポケモンさんは。いつも好きな場所にいて、まず会えないのです。ただ、遺跡で呼びかければ姿をみせることもあるそうです」
リーリエ「……もっとも気まぐれなので、あてにならないとも書かれていました。だからでしょうか……遺跡に入っても、ほしぐもちゃん変わりませんね……」
ほしぐもちゃん「…………」
しんのすけ「こうなったらもう一回ケツだけ星人を見せて……」
リーリエ「ここでそれするのはやめましょう……」
リーリエ「あ、あの祭壇に……」
祭壇にいるハプウは、穏やかに光が満ち溢れる中、かがやく石を両手に乗せていた。
ハプウ「確かに授かりました。ありがとうございます。しまクイーンとして、ポケモンのため、人のため、がんばります」ニコッ
しんのすけ「ハプウちゃん、なんかフインキ違う」
ハプウ「……おお、見ておったか」テクテク
ハプウ「しまキングやしまクイーンは、守り神が鎮守する島で暮らす者から選ばれるのだ。リーリエから聞いたが、しんのすけは遠いところからアローラに来たばかりであろう?」
しんのすけ「主にとーちゃんの甲斐性のせいだけどね」
ハプウ「なのに、かがやく石を授かるのは特別なことなのじゃ! カプはどういうお考えでそなたを選んだのか、興味があるのう」
しんのすけ「ま、オラほどの美少年なら選ばれて当然だゾ」
ハプウ「よく言うわ、こやつ」
ハプウ「リーリエ、そなたが探していたしまクィーンは、ここにおるぞ」
リーリエ「は、はい! しまクイーンさん!」
しんのすけ「ほうほう、ハプウちゃんがしまクィーンだったのか」
ロトム図鑑「何故こんな小汚い口リババアをカプ・レヒレは選んだのか」
ふ み
つ け
ロトム図鑑「」ピクピク
バンバドロ「ムヒヒウン!」
ハプウ「次口リババアと言ったらスクラップにして売りつけてやるからの」
しんのすけ「もうなってるよ」
リーリエ「えっと……伝説のポケモンさんについて教えていただければ!」
ハプウ「……月輪(がちりん)の祭壇に祀られているという、ルナアーラのことか」
しんのすけ「ガチ○コ祭りのアラモード?」
ハプウ「月輪の祭壇のルナアーラ、じゃ!」
リーリエ「そのために、伝説ポケモンさんの力を借りたいのです……。見知らぬ世界を行き来する、伝説ポケモンさんの力を!」
ハプウ「ビーストの世界なあ……。さっきしんのすけとロトム図鑑が見せた未知のポケモンが住む世界か。カプ・レヒレと供に相手したが、くたびれたな。うむ! 知っていることを教えようぞ」
リーリエ「ハプウさん!」
しんのすけ「君の瞳に乾杯」
ハプウ「というてもな……祭壇で行う儀式とは、伝説のポケモンのため、2本の笛で音色を奏で、力を与えるだけだぞ」
リーリエ「太陽の笛です。母が持っていたようで……」つ太陽の笛
ハプウ「おお! ウラウラの湖にある笛じゃな。もう1本は、ナッシー・アイランドにある。なぜだか、そこに置いておくよう伝わっておるのだ」
しんのすけ「ナッシー・アイランド?」
ロトム図鑑「な、ナッシーたちの住む……無人島だ。ポニの島から離れたところにある……」バチバチ
ハプウ「よし! 善は急げじゃ。団長に会うぞ! 海の民の村に行くのだ! リーリエはバンバドロでな」
ハプウ「ほう」
しんのすけ「……お、オラまだ平気だもん。さ、いこいこー!」
ハプウ「これっ、年上の言うことを無碍にするものではないわ。あまり無茶して足を痛めたら、せっかくの島巡りも出来んじゃろ」
リーリエ「そうです。これはしんちゃんにとって大事な島巡りの旅でもあるんですから」
しんのすけ「もう、さっきは歩けとか言ってたくせに!」
ハプウ「リーリエ、お前も乗っていけ。なに、わしが歩いてバンバドロを率いれば良い話だしな。……向こうに着くのは、夕方になるじゃろうが」
リーリエ「じゃあ、一緒に乗りましょう、しんちゃん」
しんのすけ「えぇ~いいってば! オラどうせご一緒するならエリートトレーナーのおねいさんがいいもん」
ハプウ「ウラウラにいた時うっすらと気づいたが、5歳児のくせに色気付いておるのか、こやつ」
しんのすけ「ぶつぶつ……」
ハプウ「仲睦まじいのう。よきかな、よきかな」
リーリエ「今まで散々振り回されたんです。わたしが『お姉さん』として、しんちゃんを引っ張っていかないと」
ハプウ「そうか。それじゃ、改めて行くとするかの。海の民の村へ!」
リーリエ「はい!」
しんのすけ「ほーい……」
リーリエ「そういえば、畑があるということは……ハプウさんは農家なんですか?」
ハプウ「ああ、いつもはばあさまとポケモンと供に畑仕事をしておる」
しんのすけ「オラのじーちゃんも農家だよ。野菜採るの手伝ったこともあるし」
ハプウ「ほぉ、そうか。なら今度、機会があればしんのすけにも手伝いをしてもらうとするかの。わしとばあさましかおらんから、男手が足りんのだ。……いっそ将来、わしの婿にして家を継がせるというのも悪くないかのう」
しんのすけ「え゛ーっ!」
リーリエ「え? ほ、本気なんですか?」
ハプウ「わしがしまクイーンになったんじゃ、決して周りからの扱いは悪くないと思うぞ」ニヤッ
しんのすけ「お、オラ、都会暮らしのほうが性にあってるんで、結構です」
ハプウ「ま、冗談はさておきじゃ……。リーリエ、お主らが行こうとしている月輪の祭壇は、ポニの大峡谷を通り抜けた先にある」
しんのすけ(ほっ)
リーリエ「はい」
ハプウ「ケンタロスで行けばあっという間じゃろうが、しんのすけはライドギアを持っておらん。だから、ナッシー・アイランドで笛を取って、歩きで行くとなると、着いた頃には朝日を拝んでいることだろう」
リーリエ「何から何まで……ありがとうございます」
ハプウ「気にするな。それに、しまクイーンとしてしんのすけにやらねばならぬことがあるからな」
しんのすけ「まかさっ、オラをてごめにするのっ?!」
ハプウ「おぬしに大試練をするんじゃろうが!」
リーリエ「でも、この島にはキャプテンがいるはずですよね? 試練はこなさないんですか?」
ハプウ「あぁ、あることにはあるが……。なにせ、キャプテンは1人、しかも旅して行方知らずでの。一応、大峡谷にドラゴンの試練の場があるんじゃが、そちらはキャプテンが不在なので、ほとんど機能しておらんのだ。ぬしポケモンはいるのじゃが」
リーリエ「そうなんですか……」
しんのすけ「なぁんだ、楽チンじゃん」
ロトム図鑑「ふっ、キャプテンもいない島など、カレールーのないカレーも同然だ」
ハプウ「ほう、子供とは言え舐められたものじゃ。その余裕が大試練後まで持つかどうか、楽しみじゃな。わしをただの田舎娘と甘く見たら、痛い目を見ることになるぞ」
しんのすけ「オラだって、舐めたって甘くはないゾ!」
ハプウ「そりゃそうじゃろ。面白いヤツじゃ、お前は」
ハプウ「……とりあえず、団長とは話をつけておいた。準備が出来次第、話しかけると良い」
リーリエ「ハプウさんもバンバドロさんも、ありがとうございます……!」
ハプウ「友達のためじゃ!」
リーリエ「ハプウさんがお友達……。憧れのトレーナーでもあるハプウさんが……」
リーリエ「はい! わたし、なにがあってもあきらめません!」
ハプウ「しんのすけの面倒もあって大変だろうが、無事を祈っておるぞ」
しんのすけ「ふんだ、クジラくんもハプウちゃんも、みんなリーリエちゃんのことばっかり。オラもうグレちゃうぞ」
ハプウ「しょうがないじゃろ。いくら3つ大試練を勝ち抜いたとは言え、お前はまだ子供だからの。それに、リーリエはトレーナーではないしな」
しんのすけ「でも、ここに来る前はオラがリーリエちゃんの面倒みてたんだから」
ハプウ「見ていたのではなくて、見られてたのではないか?」
しんのすけ「ホントだもん。方向音痴で、スケスケおパンツ団に絡まれたり、その度にオラがお助けしてるんだから。まったく、世話のかかる『妹』を持つと苦労するよね」
しんのすけ「ほいっ、見せられちゃいます!」
バンバドロ「ムヒイウン!」
テクテク
団長「ハプウちゃん、しまクイーンになったんか。よかったなあ」
リーリエ「ひゃっ! びっくりしました」
しんのすけ「本日二回目ー」
団長「ははっ、すまんすまん。だが、ハプウのじいさんも喜んでるやろ」
リーリエ「そうですね……! ハプウさん、亡くなったおじいさんのために……。わたしも、かあさまのため、ほしぐもちゃんのため、がんばらないと!」
リーリエ「そっ、それでですね、行きたいところがあるのです」
しんのすけ「タマムシジムです」
リーリエ「ナッシー・アイランドです!」
団長「ナッシー・アイランド! ハプウちゃんから話は聞いておるで! 笛のあるところやろ?」
団長「まあ、お二人はしまクイーンに会えても、ポニのキャプテンはおらんし、島巡りの試練もできんわな。よっしゃ! コイキング丸で、のんびり行こうやないか!」
ミミッキュ『うーん……ここらへんの石は、あまりいいのがない』
しんのすけ「ねぇねぇボーちゃん」
ミミッキュ『ボ、どうしたの?』
しんのすけ「ボーちゃんって、なんでピカチュウの布被ってるの? 健康ランドで刺青見られたくないから?」
ミミッキュ『違うよ。紫外線対策。僕たちミミッキュは、陽の光に弱いから』
しんのすけ「日焼けしやすいの?」
ミミッキュ『そうじゃない。陽の光を浴びちゃうと、体調が悪くなるの』
しんのすけ「ほうほう。オラ、ボーちゃんの中身、見てみたいなー?」
ミミッキュ『それはダメ。僕のプライバシーに関わるから』
しんのすけ「いいじゃんいいじゃん~オラたち、一度全部脱いでみんなあらわにするべきだと思うもの~」ワキワキ
ミミッキュ『ボ……! しんちゃんダメっ!』
しんのすけ「そーれっ」
バサッ!
しんのすけ「……!」
しんのすけ「おわーっ! ボーちゃんのカラダって、石で出来てたのか!」
ミミッキュ?『……バレちゃったら、仕方ない』
ミミッキュ?『そう、僕はゴースト・フェアリーにみせたいわタイプだったの。それを隠すため、布を被ってた』
しんのすけ「ふーん、だから石好きなのかー」
ミミッキュ?『そうそう。石が僕の体だから、石集めは大事なんだ』
しんのすけ「ほうほう、若いのに苦労してますなぁ」
ガサガサ
ミミッキュ(ごめんね、それ予備の布で作った身代わりをサイコキネシスと腹話術で操ってるだけなんだ)
ミミッキュ(僕の本当の姿見せちゃうと、しんちゃんびっくりして死んじゃうかも知れないから……)
団長「はあ……ようやく到着。ナッシー・アイランドやで! なんでもむかしは、ここが試練の場所やったらしいな。ほな、がんばりよし!」
しんのすけ「いってらっしゃーい」フリフリ
リーリエ「しんちゃんも来るんですっ」ガシッ
しんのすけ「いやん、リーリエちゃん、ゴーインなんだからぁ」
リーリエ「笛を求めて……ですね! ポケモンさんがいれば、どこにでも行くトレーナーさんの気持ち……少し、わかってきたようです」
テクテク
リーリエ「しんちゃん」
しんのすけ「お?」
リーリエ「ポケモンさんと供に、未来への扉を開けるのが。わたしのトレーナーのイメージです。しんちゃんも、ハウさんも、ハプウさんもそうですもんね!」
しんのすけ「いや、オラは別に……」
ジュナイパー(ボール)『そこは「うん」って言うもんだろ!』
リーリエ「じゃあ、しんちゃんにとって、トレーナーってなんですか?」
しんのすけ「オラ、トレーナーって言われてもさっぱりだし……」
リーリエ(……そうでした。しんちゃんは、カプ・コケコさんに選ばれてポケモントレーナーになったのでしたね。しんちゃんには、まだトレーナーと言われても、分からないかもしれません)
しんのすけ「でもオラ、カザマくんたちと旅してて、とっても楽しいゾ。カスカベにいるみんながそこにいる気がするし。パラダイスでも、カザマくんたちとスケスケおパンツ団と戦った時も、ドキがムネムネしたし」
しんのすけ「オラ、島巡りしてよかった。カザマくんたちと一緒に旅したり、一緒に戦ったりできるのが楽しいもん。カザマくんたちは、アローラで出来たオラのお友達だよ」
ジュナイパー(ボール)『しんのすけ……』
リーリエ「……それがしんちゃんにとっての、トレーナーさんなんですね」ニコッ
ガサガサッ!
しんのすけ&リーリエ「!」
ユサユサッ!
ズボッ
アローラナッシー「ナッシー!」
リーリエ「ひゃあ! し、しんちゃん!」
しんのすけ「おー、首なげー」
リーリエ「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですって!」
ヨワシ(ボール)『しんちゃんが直接戦ってどうすんの……』
ナッシー『ナッシー!』
ドスン、ドスン、ドスン
リーリエ「……行っちゃいました」
しんのすけ「ふふん、オラにビビって逃げましたな」
キテルグマ(ボール)『たぶん、違うと思う』
リーリエ「ふう……ナッシーさんだったんですね。アローラの天候がいいからって、育ちすぎで驚きました!」ポカン
リーリエ「……クスッ! フフフッ!」
しんのすけ「急にどうしたの? 拾い食いでもした?」
ポツッ ポツッ
サーッ
しんのすけ&リーリエ「!」
リーリエ「えっ、雨ですね……あそこに洞穴があるので雨宿りしましょう」
しんのすけ「ほい」
しんのすけ「あーあ、おとなのおねいさんがいればなぁ」
リーリエ「悪かったですね……」
リーリエ「……しんちゃん。わたし、雨を見ると思いだすことがあるのです」
しんのすけ「伝説の探検家ジンダイ隊長を予約し忘れたとか?」
リーリエ「違います」
リーリエ「わたしがしんちゃんと同じくらいだったころ……映画の真似をして、雨の中で歌い踊っていたら、驚いたかあさまが傘もささずに飛びだしてきて……そしたらかあさま、笑顔で……いっしょに歌ってくれたのです……」
リーリエ「もちろん、ふたり風邪をひき……一緒に寝ることになったのに、わたし嬉しくて、何度も何度も、かあさま、起こしちゃって……」
リーリエ「なのに……かあさま、ウルトラビーストのことだけ考えるようになって……ヌルさんや、ほしぐもちゃんを……」
リーリエ「本当のことを言うと……まだ、かあさまが怖いです。あんなに変わってしまって、エーテルパラダイスでも……。ゼンリョクを出した今でも思い出すと……辛くて、悲しいです」
しんのすけ「…………」
リーリエ「……でも、何をすればいいのかわからなくて、ほんとに困ってしまって」
リーリエ「……そういえば、わたしが困っていると、いつもしんちゃんがいましたね。最初の出会いも、ほしぐもちゃんが襲われていたのに、わたし、みているだけでした……エーテルパラダイスでも、わたし……しんちゃんやみなさんを待っているだけでしたし」
リーリエ「あの夜も……一緒にいてくれて、ありがとうございます。一人じゃ辛くて、立ち直れない気がして……」
しんのすけ「まぁ、リーリエちゃんはオラがいないと何も出来ませんから」
リーリエ「ふふっ、そうですね」
リーリエ「……ごめんなさい」
しんのすけ「何が?」
リーリエ「本当は、わたしがしんちゃんのことを見てあげなきゃいけないのに……わたし、逆に面倒を見られている感じがして。それに、わたしたち家族の問題にも巻き込んでしまって……」
しんのすけ「こーゆー問題はもう慣れっこだからへーき」
リーリエ「……しんちゃんってすごいですよね。まだ5歳なのに島巡りして、スカル団やエーテル財団にも立ち向かって……。時々、しんちゃんがわたしよりずっと年上の人のように見える時があります」
しんのすけ「……」
しんのすけ「……リーリエちゃんさー、オラのことすごいって言うけど、オラそんなにすごくないよ?」
リーリエ「えっ?」
しんのすけ「だってオラ、アクション仮面とか、カンタムロボとか、それからおまたのおじさんのように強くなってないし」
リーリエ「お、おまたのおじさん?」キョトン
しんのすけ「そ、オラおじさんみたいに、とーちゃんもかーちゃんも、ひまもシロも、カスカベ防衛隊のみんなも、カザマくんたちも、ハウくんも博士も、リーリエちゃんもみんな、大切な人をお守りできるような強い男になりたいんだー」
リーリエ「なら、しんちゃんもわたしと同じなんですね。しんちゃんがその、おまたのおじさんに憧れたように、わたしもそんなしんちゃんに憧れてるんです」
しんのすけ「……褒められたって、ちっとも嬉しくないもん」プイッ
リーリエ(案外、素直じゃないところもあるんですね……)クスッ
リーリエ「それは……お菓子ですか?」
しんのすけ「チョコビ。カスカベ名物のおやつだけど、アローラ地方じゃ売ってなかったから、とっておいたの」
リーリエ「ふふっ、じゃあいただきます」パクッ
リーリエ(しけっちゃってますね……)
しんのすけ「チョコビ代十億万円ね。ローンも可」
リーリエ「ええっ?!」
ポリポリサクサク
リーリエ「えっと……しんちゃん」
しんのすけ「なーにー?」ポリポリサクサク
リーリエ「島巡りを終えたら……どうなさるんですか?」
しんのすけ「んー……オラ、やりたいことがあるの」
リーリエ「やりたいことが決まってるなんて、すごいですね。どんなことなんですか?」
リーリエ「それって決まってないようなものじゃないですか!」
しんのすけ「失敬な。これがオラのやりたいことなんだけど」
リーリエ「はぁ、よかった……さすがにしんちゃんでも決められないこと、あるんですね」
リーリエ「わたしはトレーナーになって、しんちゃんがどんな大人になっていくのか、そばで見守りたいな……。それで、どこか遠い地方をわたしとしんちゃんで旅して、色んな人やポケモンさんと出会ってたくさん冒険、したいです」
しんのすけ「えぇ……。リーリエちゃんと一緒? なんだかなぁ、疲れちゃいそう」
リーリエ「だって、しんちゃんはほっとくと、すぐナンパしたり人前でおしり出したりするんですから、わたしがキチンと見張っておかないと」
しんのすけ「方向音痴でブティックに寄り道する人に言われたくないけどね」
リーリエ「もうっ、しんちゃんしつこいですっ! それに、おしりを出すよりマシです!」ムスッ
しんのすけ「ま、トレーナーになるなら、オラのしゅぎょーはとても厳しいからね。でもリーリエちゃんにやる気があるなら、一から目取り口取り教えたげる」
リーリエ「それを言うなら、手取り足取りですよ」
しんのすけ「そーとも言うー」
ナデナデ
しんのすけ「……? どしたの?」
リーリエ「ずっと、わたしを守ってくれてありがとうね。今度はわたしが、ゼンリョクであなたを守ってみせますから。しんちゃんが、わたしを守ってくれたように」
しんのすけ「うむ、がんばリーリエたまえー」
リーリエ「無理やり言わなくていいですよ」
☆彡 ☆彡
リーリエ「あっ」
しんのすけ「おっ、流れ星!」
リーリエ「なにかいいことありそう……っというか、ありますよね!」
しんのすけ(島巡りチャンピオンになって、おねいさんたちに「しんちゃん素敵~」って言われますように)
リーリエ「さ、雨も上がりましたから……探しに行きましょう!」
しんのすけ「ほーい」
★挿入歌 月灯りふんわり落ちてくる夜★
リーリエはこれから起きるワクワクとドキドキを胸に秘めて笑顔を浮かべながら、しんのすけは女子大生のおねいさんだったら最高のシチュエーションなのに……まあいいや、と、ちょっと微妙そうな表情で。
月の笛を探し求めるそんな2人を、満月とダイヤモンドを散りばめたような星空は優しく見守っていた。
リーリエ「しんちゃん!」
しんのすけ「なにー?」
リーリエのそばに古びた台座が。その台座の上に、月光を浴びて輝く青い笛が飾られていた。
リーリエ「これが月の笛みたいですよ」
しんのすけ「オラが持つ~! オラが持つ~!」ピョンピョン
リーリエ「はいはい」
リーリエ「そんなことしたらロトム図鑑さん、わたし怒りますから」
しんのすけ「おおっ、げきおこリーリエ……」
ロトム図鑑「ざぶとん一枚やろう」
しんのすけ「イェーイ!」
リーリエ「上手くないです……。とにかく、太陽と月、二本の笛が揃いましたね! 伝説のポケモンさんが現れるかわかりませんが、少なくとも音色を捧げられます!」
しんのすけ「リーリエちゃん、笛吹けるの? オラ吹けないから教えて」
リーリエ「え……」ピタッ
しんのすけ「…………」
リーリエ「…………」
リーリエ「で、では、団長さんといっしょに戻りましょう!」テクテク
ロトム図鑑「ごまかしたな」
しんのすけ「ごまかしたね」
団長「やったなあ! 島巡りの人!! 祭壇で笛を吹くんやろ?」
リーリエ「はい!」
しんのすけ「笛の吹き方分からずじまいですけどね! えっへん」
ロトム図鑑「まいったか!」
リーリエ「威張らないでください」
団長「祭壇があるんは、ポニの大峡谷の奥の奥。ほんま自然の試練やで……」
リーリエ「はい、今日は身体を休めて、明日にも早く出発しようと思います!」
団長「ほな、がんばり!」
しんのすけ「Zzz」
しんのすけ「……お?」
リーリエ「あ……やっと起きたんですね」
しんのすけ「ここはどこ? オラってミクリだっけ?」
リーリエ「野原しんのすけ、です」
リーリエ「ポケモンセンターで起こしてもまったく起きないんですから、おんぶしてここまで連れてきたんです」
しんのすけ「おお、それはそれはごくろーさんでした。じゃもっかいおんぶしておんぶ」ダキッ
リーリエ「わっ、ダメですっ! ちゃんとしんちゃんも歩いてくださいっ」
しんのすけ「いいじゃん、おねえちゃんおんぶ~」ユサユサ
しんのすけ「……!」ピタッ
リーリエ「……? どうかなさったんですか?」
スカル団たち「…………」
リーリエ「……スカル団のみなさん!」
しんのすけ「なんでみんな横一列に並んで野グソしようとしてんの?」
全員「」ズルッ
したっぱA「そういう意味でしゃがんでるわけじゃねーよ!」
ドラコ「会いたかったぜ、じゃがいも小僧」
しんのすけ「よ! 師匠!」
リーリエ「師匠?」
しんのすけ「そう、スケスケおパンツ団のこの人、オラのお笑いの師匠なの」
ドラコ「笑わせまっせー見せまっせー! えんやこらしょー!」ペケペケペン♪
ドラコ「って、師匠じゃねぇよ! あたいらは――」
おキン「れいせいのおキン!」カーン!
マミ「ひかえめのマミ!」カーン!
3人「三人合わせて、『スカル団黒ガバイト隊』!」バァーーーン!!!
リーリエ「」ポカン
したっぱB「ヨヨヨー、そんなことするためにここにいるんスカ?」
ドラコ「あ、そうだな」
おキン「おい、あんたら、エーテルで聞いたけどよ、グズマさんを助ける方法、知ってるんだってな」
しんのすけ「くさやのおじさんのこと?」
マミ「てゆうか、必ず聞き出してやるから!」
ドラコ「お前ら手ェ出すんじゃねぇ。ここはあたいが行く!」スッ
リーリエ「しんちゃん……」
しんのすけ「仕方ないなぁ」スッ
スカル団のしたっぱの ドラコが
勝負を しかけてきた!
フカマル「ガァーッ」ポンッ!
しんのすけ「カザマくん、レッツラゴー!」ヒョイッ
ジュナイパー『こっちは早く大試練をこなしたいんだ。さっさと決着をつけよう!』ポンッ
ドラコ「フカマル! ドラゴンクローだ!」
フカマル「ガウッ!」ダッ
ジュナイパー『かげぬい!』ググッ……ドシュッ!
フカマル「ガウッ!」サッ!
フカマル「ガウーッ!」ブンッ!
ジュナイパー『うわっと!』ザクッ!
マミ「攻撃を避けて、あのじゃがいも小僧のポケモンにダメージを与えたぞ!」
しんのすけ「カザマくん、しっかりして」
ジュナイパー『わかってる!』ダッ
ジュナイパー『お返しだ! リーフブレード!』ブンッ!
フカマル「ガウッ!?」ザクッ!
ジュナイパー『そしてもう一度、かげぬいっ!』ドシュッ!
フカマル「ギャウウーッ!!」ドゴォォッ!
フカマル「ギャ、ウウ……」
ドラコ「フカマルッ! くそーっ!」
しんのすけ「師匠たち、やっぱスケスケおパンツ団より、お笑いの方が向いてるって」
ドラコ「だから師匠ってゆーな!」
おキン「こうなったらアタシら全員で……!」
ザッ
プルメリ「よしな! 負け犬がみっともない!」
リーリエ「プルメリさん……」
プルメリ「だから言っただろ。お前らじゃこの子には勝てないって。あんたたちは下がってな。あたいはこの二人と話があるから」
ドラコ「へ、へい……」ズコズコ
しんのすけ「師匠ーまたあおーねー!」フリフリ
ドラコ「師匠って言うなっつってんだろーが!!」
プルメリ「ん、リーリエ、あんた……覚悟決めたのかい」
リーリエ「はい!」
プルメリ「つーかさ、あんたには悪いことしたよね。代表に頼まれた仕事とはいえ、あんなことを……今更謝っても、許されることじゃないけど」
ロトム図鑑「まったく……深く反省して欲しいものだ」
プルメリ「ああ……って、お前に上から目線で言われたかないよ!」
プルメリ「代表が好きなのさ。あいつの強さを認めてくれる、唯一の大人だからさ。あいつ、今まで代表以外の誰にも、力を認めてくれなかったんだよ。自分の師匠にもね」
しんのすけ「なにやら複雑な恋愛模様ですな」
ロトム図鑑「子供もいるというのに」
リーリエ「話がややこしくなるので黙っててください」
プルメリ「……スカル団にいる奴らみんなそうなんだ。グズマのように、誰にも認められず、島巡りを脱落していった子たちばっかなんだよ。」
しんのすけ「プルメリのおねいさんもそうなの?」
プルメリ「そうだよ。だからスカル団のみんなは、人々に認められない辛さっていうものを分かっているのさ。特にグズマは痛いほどにね。だからみんな慕っているのさ。グズマが代表を慕っているように」
リーリエ「そうしたらグズマさんも、いっしょに助けられますよね!」
プルメリ「あんた……芯の部分は、代表に似ているかもね。種類は違うけれど、気持ちの強さを感じるよ」
しんのすけ「てゆうか、オラたちと一緒にくさやのおじさんをお助けに行こうよ」
プルメリ「そうしたいのは山々だけどね。今のあたいたちじゃ、はっきり言って力不足だよ。アンタの足を引っ張りかねない」
しんのすけ「みんなでお助けに行けばだいじょーぶだって!」
プルメリ「……優しいんだね、あんたは。だけど……あたいらも戦ったのさ、ビーストと」
リーリエ「えっ……?」
プルメリ「とてつもなく大きなビーストだったけどね、みんな一斉に挑んだけど、あっという間に消し炭さ。自分たちの無力さを思い知らされたよ」
プルメリ「だというのにあいつら、グズマを助け出すって聞く耳持たなくってね」
プルメリ「だからグズマのこと……頼めた義理じゃないけれど。どこかに消えたままでは償わせることもできやしない」
しんのすけ「負けちゃったら、強くなればいいのに。おねいさんたちにとって、大事な人なんでしょ?」
プルメリ「……現実はそう簡単に行かないんだよ、しんのすけ。負けて強くなるで済めばあたいらはスカル団なんてやってないよ。アンタもいつかそれが分かる時がくる」
プルメリ「でも、しんのすけ。あんた、全然ふつーのコじゃなかったね。スカル団だけでなく、エーテル財団の闇にも物怖じせず立ち向かってさ。まだ5歳なのに、大したもんだよ」
しんのすけ「照れますな」
プルメリ「ほら、お姫様を守ってやんな。迷惑かけたお詫びとして、どくタイプのZクリスタルをやるからさ」つドクZ
しんのすけ「ありがとござますぅ」
リーリエ「プルメリさん、今度はわたしがしんちゃんを守るのです!」
プルメリ「……そうだね。ふつーのコじゃないって言ったってしんのすけはまだ小さいからね。でも無茶しちゃいけないよ」
プルメリ「そういやしんのすけ、カプ・コケコから直々に石をもらったんだって? 大事にしなよ、そのZリング。ポケモンがいて、はじめてポケモントレーナーなんだ」
プルメリ「それを忘れたらカプの罰を……あんたなら安心だけどさ」
リーリエ「……プルメリさん」
テクテク
しんのすけ「お土産買って来ねー」フリフリ
リーリエ「カザマさん、元気にしますね」
ジュナイパー『あっ、どうも……』
リーリエ「……スカル団にも、いろいろあるのですね」
ロトム図鑑「火サス一本作れそうな関係だったな」
リーリエ「あなたはそれしか思いつかないんですか……」
しんのすけ「さ、ハプウちゃんのところにいこいこー!」
プルメリ「…………」
――オラたちと一緒にくさやのおじさんをお助けに行こうよ
――みんなでお助けに行けばだいじょーぶだって!
――負けちゃったら、強くなればいいのに。おねいさんたちにとって、大事な人なんでしょ?
プルメリ「……ふん」
ハプウ「む……来たか」
しんのすけ「よ!」
リーリエ「ハプウさん!」フリフリ
ハプウ「首尾よく行ったか」
リーリエ「はい、笛はしんちゃんが……」
しんのすけ「ほい!」プリプリ
リーリエ「笛をお尻で挟まないでください!」
ハプウ「相変わらずじゃのう……」ハァ
しんのすけ「そうだっけ?」
ハプウ「ロイヤルアベニューの近くでスカル団からポケモンを助けてもらった時じゃ。あの時からどれほど成長したのか、見せてもらうかの」
ハプウ「そう、ハプウの大試練じゃ!」
バンバドロ「ムヒイウン!」ブルルッ
しんのすけ「んー、そんなに育ってる気はしないけど」チラッ
ハプウ「そこの話ではないわ!」
???「しんのすけー!」
3人「!」
ひろし「やっと見つけたぜ!」
みさえ「しんちゃん!」
ひまわり「たいっ!」
シロ「アンッ!」
しんのすけ「とーちゃんかーちゃん! ひまにシロ!」
ハウ「そっこーでウラウラの大試練終えて来たよー!」
ククイ博士「2人の最後の大試練を見届けようと思ってね」
リーリエ「ハウさんに博士……!」
ククイ博士「お、リーリエ! フォルムチェンジしたのかい?」
リーリエ「はいっ、ゼンリョクの姿ですっ!」
ハプウ「ほへえ……にぎやかになったのう」
ククイ博士「おや? 君は確かしまキングの……」
ハプウ「む、久しぶりじゃな、博士。カプから認められ、亡くなった祖父を継いでしまクィーンになったのじゃ」
ハウ「君がしまクィーンなんだー。よろしくー」
ハプウ「そういうお前は、ハラの孫か。しまクィーンのハプウじゃ」
しんのすけ「うだつの上がらないとーちゃんと、最近5キロぐらい太ったとみられるかーちゃんです」
ひろし「うだつが上がらなくて悪かったな!」
みさえ「5キロも太ってないわよ!」ギュウウウ
しんのすけ「いぢぢぢぢ! てゆーかなんで来たの?」
ひろし「そりゃ、もちろんお前が最後の島に行くって言うからな。みんなで応援に来たんだ」
ひろし(本当はエーテルパラダイスの一件でみさえが不安になって押し切られたんだけどな……)
みさえ「しんちゃん、どこにも怪我とかない? 大丈夫?」
しんのすけ「みさえこそ、そろそろ体脂肪率が30パーセント越えしてない? 大丈夫?」
げ ん
こ つ
みさえ「心配してくれてありがとよ」
しんのすけ「今のオラ……無事じゃない」
みさえ「あら、リーリエちゃん! ずいぶんイメチェンしたのね! 似合ってるわよ」
みさえ「……エーテルパラダイスでの話、聞いたわ。私たちでよければ、力になるわ。なんでも言ってね」ボソッ
リーリエ「はい! ありがとうございます!」ニコッ
ひまわり「や!」
リーリエ「あなたは……ひまわりちゃんですね? しんちゃんの妹さんでしたね。しんちゃんと一緒に旅してるリーリエです!」
ハプウ「しんのすけのご家族の方々。わしはポニ島のしまクィーン、ハプウじゃ。わざわざこのポニ島まで御足労頂き、感謝する」
ひろし「あ、こちらこそ……」
ハプウ「しまクィーンとしてそなたらの息子しんのすけに、最後の大試練を課し、ゼンリョクを確かめるのがわしの役目じゃ。しんのすけが島巡りを経てどれだけ成長したのか、それを見る良い機会と思う。ぜひ最後まで、お付き合い頂きたい」
みさえ「は、はい……(ずいぶんしっかりしてるわねぇ)」
しんのすけ「ハウくんと一緒。いやん、オラたち、そんな関係じゃないのに……」
ハウ「そーゆー意味で言ったわけじゃないよー」
ククイ博士「しんのすけ! 君がどこまで強くなったか、見させてもらうよ! 君がラナキラマウンテンを登る資格があるか、楽しみだね」
リーリエ「しんちゃん、わたし、この目でしんちゃんとカザマさんたちの戦いをしっかり見てます。トレーナーはどういうものか、もっと知りたいです!」
しんのすけ「まっかせなさい!」
ハプウ「しんのすけ。わしは若いが、ほかのしまキング、しまクイーンにひけはとらん! むしろ、バンバドロたちとの絆は、アローラで一番の自負がある!」
ハプウ「わしとポケモンたちのゼンリョク、受けてみるかの?」
しんのすけ「オラだって、オラのお友達とゼンリョクでハプウちゃんに勝つ!」
ハプウ「しんのすけも同じ! Zリングを持つということは、カプと共にあるということ!」
ひろし「しんのすけー! ポケモンを信じて戦うんだ!」
みさえ「がんばって!」
しんのすけ「あ、でもやっぱり、ギャラリーにおねいさんがいなきゃ張り合いがないなぁ」
全員「」ズルッ
ハプウ「おいおい……緊張感のないやつじゃ」
ハプウ「では、気を取り直して……しまクイーンハプウ――はじめての大試練! ゼンリョクを尽くし、心ゆくまで戦うぞ!」ギンッ!!
勝負を しかけてきた!
ハプウ「さぁ、行くぞ! ダグトリオ!」ヒョイッ
ダグトリオ「ダクダグッ!!」ポンッ
しんのすけ「ボーちゃん、レッツラゴー!」ヒョイッ
ミミッキュ『ボ!』ポンッ
みさえ「あら? ダグトリオってあんな髪生えてたかしら?」
ひろし「あれはアローラ固有のダグトリオさ。それにあれは髪じゃなくて髭なんだ」
ハプウ「ダグトリオ、すなあらしじゃ!」
ダグトリオ「ダグッ!!」
ダグドリオが咆哮を上げると、あたり一面に砂嵐が巻き起こった!
みさえ「きゃあ! なにっ?」
ひまわり「いたいやー!」
ククイ博士「すなあらし、ですよ! あまごいのように場に直接干渉する技で、文字通り砂嵐になるんです!」
ミミッキュ『ボ……周りが見えない!』
しんのすけ「んー目にゴミが入っちゃいそう」
ハプウ「ダグトリオ、飛び出すのじゃ!」
ダグトリオ「ダグッ!」ボコッ!
ミミッキュ『ボ!?』カクン
ハプウ「これで化けの皮は剥がしたぞ。さて、ここからじゃ」
ミミッキュ『ボッ!』ブンッ
ボーちゃんはシャドークローで反撃するが、ダグトリオはすかさず穴に潜って回避した。
ダグトリオ「ダグダグッ!」サッ
ハプウ「ダグトリオ、アイアンヘッドじゃ!」
しんのすけ「……! ボーちゃん、そこっ!」
ダグトリオ「ダグッ!」バッ!
ダグドリオが地面から頭突きするために飛び出したと同時に、ボーちゃんがすぐさま反応して、おにびを繰り出した。
ミミッキュ『ボ!』メラッ!
ハプウ「……!」
ダグドリオ「ダグっ……」ジュウウッ
ミミッキュ『……ボ。あぶないあぶない』ムクッ
ハウ「わー! ダグトリオがやけどしてるー!」
ククイ博士「ミミッキュのおにび、かなりのスピードだぜ!」
ハプウ(それもあるが、ダグトリオが出る場所をしんのすけが予測しおった。あのミミッキュもしんのすけのとっさの指示にすぐさま対応するあたり、相当経験を積んでおると見た)
ハプウ(……にしても、しんのすけ、相変わらずポケモンに技の命令をしとらんとは。だが、なにか違うのう。どれ、もう少し様子見してみるか)
ハプウ「ダグトリオ、一旦潜れ。かく乱しつつもう一度アイアンヘッドじゃ!」
ダグトリオ「ダグッ」ズポッ
ダグトリオが地面へ再び潜ると、四方八方からダグトリオが飛び出してくる!
ダグトリオ「ダグッ! ダグッ! ダグッ! ダグッ!」ズポッ ズポッ ズポッ
しんのすけ「もぐらたたきみたーい」
ミミッキュ『ボーッ!』ピカー!
ボーちゃんの周りに、うっすらと光る透明の壁が現れた。
ひろし「あれは……光の壁を貼ったのか」
リーリエ「どうしてボーちゃんさんは攻撃しないのでしょうか?」
ハプウ(かく乱しようが構わず、攻撃よりも着々と守りを固めことを優先したか)
ハプウ(おにびに光の壁。あのミミッキュはサポートに徹するようじゃな)
モコッ
ダグトリオ「ダグッ!」バッ!
目の前にダグドリオが顔を出し、頭突きする。
ミミッキュ『ボッ?!』ドンッ!
ハプウ「よし、そのまま畳み掛けよ。メタルクローじゃ!」
しんのすけ「ボーちゃん、来るゾ!」
ダグトリオ「ダグダグッ!」ジャキンッ
ミミッキュ『――ボ!』ジャキンッ
ダグドリオの髭が硬質化したメタルクローが迫る中、ボーちゃんも鼻水状の影から変えたシャドークローで応戦する。
ザクザクッ!
ミミッキュ『ボ……!』ザザザッ
しんのすけ「ボーちゃん、いける?」
ミミッキュ『大丈夫……』フゥフゥ
ひろし「まずいな……ミミッキュ――ボーちゃんはフェアリー・ゴーストタイプだから、はがねタイプのダグトリオとは不利なんだ」
ロトム図鑑「それに、すなあらしのダメージも入っている」
ハウ「だけどダグトリオやけどしてるみたいだからー、そこまでボーちゃんにダメージを与えられてないっぽいよー」
ハプウ「穴を掘って惑わせたところで無駄じゃな。ならば、じしんじゃ!」
ダグトリオ「ダグッ!」
ズズンッ!
ミミッキュ『ボ!』ピョンッ
地面が揺れてヒビ割れる瞬間、ボーちゃんはしんのすけの合図と供に振動を利用してジャンプし、再びシャドークローをダグトリオに繰り出す。
ザンッ!
ミミッキュ『ボ!』フッ
ダグトリオ「ダ、ダグッ……!」
シャドークローが急所に当たり、ダグトリオが髭を振り乱しながら力なく倒れる。
しんのすけ「ボーちゃんかっこいい!」
みさえ「やったわ! まず一匹目ね!」グッ
ひろし「いいぞ、しんのすけ! ボーちゃん!」
ハプウ「ほほう、じしんを利用するとは……かなり、やるのう。それにこんな砂嵐の中、ダグトリオにダメージを与えるとは」
トリトドン「ポワーオ!!」ポンッ
ハプウ「あまりそやつを野放しにするわけにはいかないのでな。ストーンエッジじゃ!」
トリトドン「ポワーオ!」ドシン
トリトドンが地面を振動させると、ボーちゃんに尖った岩が襲いかかる!
ズズンッ!
ミミッキュ『うッ!?』ザクザクッ!
ククイ博士「まずいね、こっちも急所に当たったようだ」
ハプウ「とどめじゃ! トリトドン、だくりゅう!」
トリトドン「ポワァァッ!」ブシュウウウッ!
トリトドンの口から吐き出された土の入り混じった激流がボーちゃんに迫る。しかし、ボーちゃんは構わずトリトドンを見据えると、
ミミッキュ『……ボ!』ギンッ!
トリトドン「ポワッ……!」ズキンッ
ククイ博士「!」
そしてボーちゃんはだくりゅうに飲み込まれてしまった。
だくりゅうの勢いが収まると、ぐったりとしているボーちゃんの姿が。
しんのすけ「ボーちゃん!」
ミミッキュ『……後は、頼んだ』
リーリエ「これでお互いに1匹ずつ倒れましたね……」
みさえ「また振り出しに戻っちゃったのね」
ククイ博士「いや、それはどうかな……」
キテルグマ『あたしの出番ね。負けないんだから!』ポンッ
ハウ「わー! ネネちゃん、進化してたんだー!」
みさえ「あら、あんなかわいいポケモンゲットしてたのね。しんのすけったら、いい趣味してるじゃない」
ハプウ「ふむう、ストーンエッジじゃ!」
トリトドン「ポワーオ!」ドシン
ズズンッ!
キテルグマ『いたっ!』
ハプウ「トリトドン、更にどろばくだんじゃ! 奴を近づけるな」
トリトドン「ポ……ワッ!」ボシュッ
トリトドンの口から次々と泥の塊が発射されて、ネネに直撃する。ネネは手でガードするが、それでも攻撃に移れずにいた。
キテルグマ『これじゃ、思うように進めないじゃない! この砂嵐も、収まらないし……』ビシャッ ビシャッ
キテルグマ『あ、その手があったわね! ふんっ!』ベキッ
しんのすけのアドバイスを聞いて、ネネは尖った岩の一部をへし折って持つと、それをトリトドンに向けて投げつけた。
キテルグマ『えいっ! えいっ! ふんっ!』ブン! ブン! ブンッ!
トリトドン「ポワッ! ポワ!?」ドンッ! ズグッ!
ハプウ「ぬう……ストーンエッジの残骸を利用するとは、なんて破天荒な攻撃じゃ」
トリトドン「ポッ……ポワッ」ブルブル
ハプウ「うん? どうしたトリトドン?」
ひろし「なんか様子が変だぞ」
ハウ「体調が悪いのかなー?」
キテルグマ『今がチャンス!』ダッ
ハプウ(この感じ……あのミミッキュ、倒れ際に呪いをかけおったのか! なんと油断ならないヤツよ)
ハプウ「トリトドン、自己再生じゃ!」
トリトドン「ポワーオッ!!」パアアッ
キテルグマ『な、なに?』
ククイ博士「向こうも気付いたようだね」
リーリエ「なににですか?」
ククイ博士「あのミミッキュ、呪いをかけていたんだよ。自分の体力を削ることで、どく状態のように相手の体力をじわじわと奪っていくんだ。しかも、呪いは自己再生しても治せないから、トリトドンが倒れるまで続くよ」
みさえ「ピカチュウみたいなかわいい見た目して随分怖い技を使うのね。あの子……」
ひまわり「たい……」
トリトドン「ポワーオッ!」
しんのすけ「おおっ、元気になっちゃった」
キテルグマ『元気になったからどうだって言うのよ! 倒すまで戦えばいいだけよ!』ブンッ
ネネが放ったアームハンマーが、トリトドンに命中する!
トリトドン「ポ、ポワァッ…!?」ドズムッ
ひろし「おおっ、あの一撃はでかいぞ!」
ハプウ「トリトドン、だくりゅうで押し戻せ! 距離を取らせるのじゃ!」
トリトドン「ポォワァァッ!」
アームハンマーの反動で動きが鈍くなったところで、口を大きく吸い込み、さっきとは比べ物にならない量のだくりゅうを迸らせた。巨体のキテルグマでも耐え切れず、流されてしまう。
しんのすけ「おおっ、ネネちゃんのような重くて巨体な身体でも押し流されるなんて……」
キテルグマ『やかましいッ!』
ハプウ「よし、自己再生じゃ!」
トリトドン「ポワーオッ!!」パアアッ
キテルグマ『あーん、また自己再生?』
しんのすけ「まるでダイエット中のかーちゃんみたい」
キテルグマ『どういうこと?』
しんのすけ「いくらダイエットして体重を減らしても、またリバウンドして元通り!」
ロトム図鑑「うまい、座布団一枚だ」
げ ん
こ つ
しんのすけ&ロトム図鑑「」
みさえ「うまくないわよっ! 失礼ね!」ドスドス
キテルグマ『こうなったら、あいつを一撃で倒すっきゃないわ!』
キテルグマ『あれ? ……ひょっとして、あれ?』
しんのすけ「武器にしたら、きっと役に立つと思うよ。あっちのネネちゃんもそうしてたし」
キテルグマ『そうかしら……?』
ハプウ「ぶつくさしゃべってるヒマがあるかの? トリトドン、どろばくだんで攻撃じゃ!」
トリトドン「ポワッ!」ボシュッ!
キテルグマ『きゃっ! いたい!』グチャッ! ドッ!
しんのすけ「ネネちゃん、耐えるんだ!」
ひろし「さっきと同じ状況に戻っちまったな……」
ハウ「ネネちゃんだけ体力を一方的に奪われてるからねー、あのトリトドン結構タフだねー」
みさえ「このまま何もできずに倒れちゃうのかしら?」
ロトム図鑑「……それはどうだろうか」
みさえ「え?」
ロトム図鑑「見よ、攻撃をこらえるネネのがまんのボルテージを」
リーリエ「あっ、そういえばネネちゃんさんには……!」
ハプウ(どうしたのじゃ? あやつめ、さっきと違ってまったく攻撃しようとせん)
ハプウ(なにかの前触れか? ともかく、呪いのダメージもそろそろ無視できん。あやつを倒しにかかろう)
ハプウ「トリトドン、そろそろだくりゅうで仕上げるぞ!」
トリトドン「ポワァァッ!」ブシュウウウッ!
三度目のだくりゅうが襲いかかってくる。しかし、同時にネネちゃんもどろばくだんを受け続けて、我慢の臨界点を超えた!
キテルグマ『うがあああああっ!』ダッ!
全員「!?」
キテルグマはだくりゅうの流れに逆らい、地面を踏みつけながら猛ダッシュしトリトドンへ急接近する!
ハプウ「な――!」
しんのすけ「やっちゃえネネちゃん!」
キテルグマ『いい加減女の子に向かって、ンなきたねーもん……』バッ!
ネネちゃんはジャンプすると、手に隠し持っていた「あれ」を握る。
ハウ「あれって……」
リーリエ「ピッピ人形さん……ですか?」
ド ズ ム ッ!
トリトドン「ポワ゛ッ!!!?」
ひろし「行ったーっ!」グッ
ハプウ「む……がまんか!」
リーリエ「ピ……ピッピ人形さんを武器にするなんて……」ドンビキ
ククイ博士「すごいなぁ、自分の持ち物を武器に技を繰り出すなんて! あのキテルグマはヤレユータン並みの知能の高さと器用さがあるようだね」
リーリエ「そういう問題じゃないですって!」
キテルグマ『あーすっきりした。でも、悪くないわね、これ武器にするの。それに、まだまだ戦えるし』
しんのすけ「おおっ、さすが『ネネ』ちゃん!」
キテルグマ『よくわからないホメ言葉だけど、アドバイスありがと、しんちゃん』
トリトドン「ポワァ……」ピクピク
ハプウ「……さすがにトリトドンも自己再生できるほどの体力も残っとらんか。よくやったぞ、トリトドン。ゆっくり休め」シュンッ
ハプウ「では次! 行くぞフライゴン!」ヒョイッ
フライゴン「フラァーッ!」ポンッ!
しんのすけ「エビフライゴン……?」
ハプウ「エビはいらん! フライゴン、騒いで攻撃せよ!」
フライゴン「ラァァァァァァッ!!」
キテルグマ『ひいっ!』キーンッ!
しんのすけ「うわぁぁっ、耳がキンキンする!」
ハプウ「フフ……さすがに飛んでる相手には、自慢の怪力はおろか手も足も出んじゃろ? フライゴン、ソニックブームじゃ!」
フライゴン「ラァァァ! フラッ!」ブゥーン!
騒ぐのをやめたフライゴンは、今度は衝撃波を放った。砂嵐を吹き散らしながら、ネネに直撃する!
キテルグマ『ううっ……!』
フライゴン「フラーッ!」バッ
砂嵐の中、急降下してきたフライゴンが、空中を一回転しつつ尻尾をネネに向けて振り下ろし、脳天に直撃した!
ゴンッ!!
キテルグマ「ぎゃんっ!」
しんのすけ「げんこつ……!」
キテルグマ「う、うーん……ピッピちゃんが1匹……ピッピちゃんが、2匹」フラフラ
ドサッ!
しんのすけ「あーんネネちゃん!」
ひろし「空を飛んでる相手じゃ、ネネちゃんにも分が悪いだろうな……」
ハウ「トリトドンでのダメージもあるしねー」
ロトム図鑑「情けない奴だ。せめて空を飛ぶことぐらいして見せろ」
キテルグマ『出来るわけないでしょっ!』ガバッ
ハプウ「さあ、次のポケモンを出すが良い!」
しんのすけ「んー……じゃ、マサオくん、レッツラゴー!」ヒョイッ
ヨワシ(群)『よっしゃあ! 行くぜい!』ポンッ
ひろし「でっけぇ……あれがマサオくん……群れたヨワシの姿か!」
ハプウ「おお! あの時のヨワシか! ずいぶん逞しくなったのう! さて、どれほど強くなったのか、見せてもらうぞ」
ハプウ「フライゴン、あやつにソニックブームじゃ!」
フライゴン「ラァァァ! フラッ!」ブゥゥンッ!
ネネちゃんにダメージを与えたソニックブームが、マサオを纏うヨワシの群れを少しずつ散らせていく!
ヨワシ『へっ、チマチマしゃらくせえ! 攻撃ってのはなぁ、こうやるんだよ!』ブシュウウッ!
フライゴン「ラァァァッ!!」
マサオの口から熱せられた水が発射された。フライゴンはすぐさま攻撃を中断して、回避しようとするが、しっぽに熱湯があたってしまった。
ヨワシ『ポケモンだって日々成長してくもんなんだよ!』ヘッ
ハプウ「こやつがねっとうを使えるのを知らんかったのか、しんのすけ」
しんのすけ「うん、いちいち技覚えんのめんどくさいし」
ひろし「お前なあ、そんな理由で命令しないって、よくここまで来れたな」
ハプウ「相変わらずじゃな、お前は……」
しんのすけ「いやあそれほどでも~」
全員「褒めてないっ!」
ハプウ「フライゴン、りゅうのいぶきじゃ!」
フライゴン「フゥラァァッ!!」ゴウッ!
フライゴンが口から青白い光が放たれ、ヨワシへ真っ直ぐに飛んでいく!
ヨワシ『ヤローども! 例のアレ行くぜい!』
ヨワシたち「ヨワーーーッ!!」
バララーーーッ!
りゅうのいぶきが当たる直前、マサオの号令の元、次々とマサオを纏うヨワシの群れが四方八方に散っていく!
ハプウ「なにっ……?!」
ククイ博士「おおっ!」
しんのすけ「マサオくん、すげー!」
ヨワシ(単)『しんちゃんとカザマくんのアドバイスを実践してみたんだ!』
そして、再びマサオを中心に次々とヨワシたちが集まって、元の群れた姿のマサオに戻った。
ハプウ(まったく……技を覚えんかと思ったら、ヨワシの群れを散り散りにさせて回避か……先が読めん奴じゃ)
ハプウ「……フライゴン! 砂嵐に身を隠しつつ、騒いで攻撃せよ!」
フライゴン「フラッ!」ズズズッ
フライゴンはハプウの命令通り、砂嵐の中へとその姿を消していった。
そして一瞬の静寂の後……。
フライゴン「ラァァァァァァッ!!」キィィィンッ!!
しんのすけ「ぬわーっ! またきたぁぁぁっ!」
ヨワシ『ぐぅぅっ……!』ビクビクッ!
しんのすけ「マサオくん! あっち!」
ヨワシ『おうっ、そこだなっ!』ドバッ!
さわぐで群れが少しずつ離れていく中、マサオはハイドロポンプを放った! 怒涛の水流が砂嵐を一直線に貫くように放出されていく!
フライゴン「フラァァッ!?」ドドドド!
ククイ博士「ハイドロポンプか!?」
ハプウ「なんと……あの砂嵐の中でフライゴンの位置を当てるとはのう」
しんのすけ「あーやっと静かになった。うるさいっての」キーン
ヨワシ『このまま押し切ってやるぜ!』
マサオは群れとともに前進すると、フライゴンがネネにやったように、その巨体を動かして空中で一回転する。
フライゴン「フラッ……!?」
フライゴンの目の前に、群れたヨワシで構成されたマサオのアクアテールが迫る!
ズシンッ!!
フライゴン『フラッ……!』ドンッ!
フライゴン「フ、ラァ……」
みさえ「やった! またしんのすけが一歩リードよ!」
リーリエ「群れたマサオさん……すごい攻撃力です!」
ハウ「しかもまだ群れは散ってないよー!」
ハプウ「ふむう……やはりな」
ハプウ(技はポケモンに任せ、己の直感を頼りにポケモンたちの死角を補うように助言する……。まるであやつ自身、ポケモンと一体になって戦っておるようじゃ)
ハプウ(時折、ポケモンとも会話する素振りを見せておる……。まるで馴染みの友と話しておるように。彼らとの間には、深い信頼が築かれておる。何も考えておらんわけがない)
ハプウ(アーカラの時はほとんど何もせず、見ているだけだったが、島巡りを経てようやくこの戦法を開花させたようじゃな)
しんのすけ「おー、今度は褒めてるの?」
ハプウ「もちろんじゃ、お前はわしが今まで戦ってきたトレーナーの中でも特に変わった戦運びをする!」
しんのすけ「オラちゃんと歯は磨いてるゾ。オラの歯ってそんな臭いかな?」
ひろし「歯くさ運びじゃなくて、戦運び! お前の戦い方をハプウちゃんは褒めてるってことだよ」
ハプウ「さて、これがわしの最後の1匹じゃ! といっても、しんのすけとリーリエにとってはもう馴染み深いだろうがの」
リーリエ「バンバドロさん、ですね!」
ハプウ「そうじゃ! さあ出番じゃ! しんのすけに我らの絆を見せようぞ、バンバドロ!」バッ!
ハプウの呼びかけに応じるように、彼女の背後に控えていたバンバドロが飛び出し、足を地面にめり込ませながらマサオを睨みつける。
バンバドロ「……!」
みさえ「ラスト一匹ね! これに勝てば試練達成よ! しんのすけ!」
ひろし「行けるぞ! ヨワシはみずタイプ、対して相手はじめんタイプだ。このまま押し切れる!」
ロトム図鑑「どうかな……」
再びマサオは一回転して、バンバドロに向けてアクアテールを放った。水をまとった尾がしなりながらバンバドロへ落ちてくる!
バンバドロ「……!」
ズズンッ!
ハウ「やったー?!」
ククイ博士「……いや」
勝ちを確信した野原一家やハウたちの期待とは裏腹に、砂煙の中から現れたのは、アクアテールを喰らっても地面にめり込むだけで平然としているバンバドロの姿だった。
バンバドロ「…………」
しんのすけ「ほうほう」
ヨワシ『なにっ!?』
ハプウ「バンバドロ……10まんばりきじゃ」
バンバドロ「……ッ!!」ギラッ!
ヨワシ『え……!』
バンバドロはマサオの尾を跳ね除けると、ぐるりと半回転させてマサオから背を向けた。そして違わずマサオに向けて勢いよく、後ろ蹴りを繰り出した!
ド ゴ ッ ッ ! !
ヨワシ(単)『うわぁぁぁっ!!』
リーリエ「一撃で、マサオさんの群れを……!」
ハウ「散らしちゃったよー!」
ヨワシ(単)『そ、そんなぁ……』
バンバドロ「……!」ブルルッ!
ククイ博士「バンバドロの放つ10まんばりき……恐るべき威力だ」
しんのすけ「10万まんボルト?」
ククイ博士「ボルトじゃなくて、ばりきだよ」
ハプウ「いいことを教えてやろうかの。10まんばりきは、バンバドロの全体重を蹴りに集中させて攻撃するワザじゃ」
ハプウ「そして、バンバドロの平均的な重さは920 kgじゃ。その重さを乗せて、マサオを蹴りつけたのじゃ!」
ひろし「」ズルッ
ククイ博士「だいたい軽自動車と同じくらいの重さですよ。ポケモンの種類は豊富でも、あそこまで重いポケモンはこのアローラに存在しません」
ひろし「いや、そこらのポケモンにもいないんじゃないか?」
ロトム図鑑「コイツに二度も踏みつけられたが死ぬかと思った」
リーリエ(あの体重で踏みつけられて、よく無事でいられましたね……)
ヨワシ(単)『ど、どうしようしんちゃん……』オロオロ
しんのすけ「しょーがない、戻っていいよ」シュンッ!
ハウ「せっかくのヨワシも、単独じゃバンバドロに勝つのは難しいよねー」
リーリエ「残るのは……カザマさんだけですね」
しんのすけ「カザマくん! レッツラゴー!」ヒョイッ
ジュナイパー『いよいよ僕の出番か!』ポンッ
ハプウ「最後はやはりお主か。マサオに劣らず立派になったのう。さあ、どうバンバドロに立ち向かうつもりじゃ?」
ジュナイパー『しんのすけ! マサオくんの技でダメなら、Zワザだ! くさのZワザで、一気にバンバドロを倒すんだ!』
バッ バッ ブリッ ブリッ パァァッ バァーン!
ピカッ! ゴウッ!!
カザマは Zパワーを 身体に まとった!
ハプウ「ほう、Zワザか!」
カザマが 解き放つ
全力の Zワザ!
ブ ル ー ム シ ャ イ ン エ ク ス ト ラ !
しんのすけ「カザマくん! ファイヤーッ!」
フクスロー『行くぞっ! 一気に倒す!』
カザマがZパワーを周囲へ放出すると、次々と花が咲き乱れていく! そして日光がバンバドロに照射され、どんどん威力を増していく!
パァァァッ!!
バンバドロ「……!」
ドゴォォォン!!
ククイ博士「しんのすけ! 今のZワザは効果は抜群だぜ!」
ひろし「やった?!」
ハプウ「…………」
砂嵐が収まり、戦闘で穴だらけになったり、水たまりができて原型をとどめていないフィールドがあらわになる。
くさのZワザを受けて、誰もがしんのすけの勝利を確信した――ハプウを除いて。
ハプウ「なかなか良いZワザじゃ。バンバドロも驚いておるぞ」
ハプウ「じゃが、これでわしとバンバドロを乗り越えられると思ったら、大間違いじゃ!」ギンッ!
バンバドロ「……ッ!!」ブルルッ!
砂煙が収まると、バンバドロが凛然と仁王立ちしながら、カザマを睨みつけていた。その姿に、全員が仰天した。
ククイ博士「……これは!」
リーリエ「……!」ポカン
みさえ「どういうこと?」
ハウ「エー! Zワザを耐えたのー!」
ひろし「信じらんねぇ……」
ロトム図鑑「もはやバケモノだな」
ひまわり「たい……」
しんのすけ「ほーほー……」
ジュナイパー『でも、Zワザでも体力を削りきれないなんて……!』
しんのすけ「んーどうしよっかなー……」
しんのすけは腕を組んで困っていると、地面に目が行った。
しんのすけ「…………!」ピーンッ
ハプウ「今度はこっちの番じゃ! バンバドロ、ヘビーボンバーじゃ!」
バンバドロ「……!」ダッ!
バンバドロが駆け出すと、鈍重な身体でありながら跳躍した! そして全身を急回転させながら全体重を乗せてカザマへ襲いかかる!
ハプウ「さぁ、これを喰らえば瀕死は免れんぞ! どうする!」
ひろし「空に逃げても当たっちまうぞ!」
ジュナイパー『うっ、うわっ!』
ド ゴ ッ !
ジュナイパー『……!』
リーリエ「ああっ! カザマさんが!」
人形「」ドロン
ハプウ「ほう、みがわりか」
ジュナイパー『はっ!』
カザマは、ヘビーボンバーから体勢を整えているバンバドロへ向けて、かげぬいを放った!二つの影の矢が空を切り、バンバドロの影に刺さると爆発を起こした。
ドガンドガンッ!”
バンバドロ「……!」ユラッ
ジュナイパー『まだまだぁっ!』グッ!
シュルシュルシュルッ!
バンバドロ「!」
駆け出そうとするバンバドロの右前足に草が生えて、バンバドロを転ばせる!
バンバドロ「……!」ズシンッ!
ハプウ「む、くさむすびか……! ちと面倒な技を持っておるな」
ひろし「あいつ……俺があげたわざマシンをきちんと使ってるんだな……!」
バンバドロ「……ッ!」ムクッ
ハウ「あれでも倒せないなんてー……」
みさえ「ねぇ、あなた。どうしたら倒せるの?」
ひろし「どうしたらって言われてもな……」
ジュナイパー『くそっ、どうしたら……!』
しんのすけ「カザマくんっ、あっちあっち!」
ジュナイパー『えっ……?』
しんのすけが指し示したのは、このバトルの序盤で、ディグダが掘りまくっていた穴の地帯だった。
そして次にしんのすけは、マサオの入ったモンスターボールを見せる。
ハプウ「ん……?」
ジュナイパー『……そうか! 分かった! しんのすけがやりたいことが分かったよ!』
カザマは羽ばたくと、しんのすけが指示した場所へと降り立った。そして、矢羽根をつがえてバンバドロへ放つ。
ジュナイパー『さあ、Zワザでもなんでもかかってこいっ!』
ハウ「あんなところに移動して、どうするつもりなんだろー?」
ひろし「バンバドロを落とそうっていうのか?」
ロトム図鑑「バカ、そんなバレバレな作戦してどうするんだっつーの!」
ハプウ「……良いじゃろう、しんのすけ! おぬしの挑発に乗ってやろう!」
ハプウ「文字通り、穴に入ってやろうではないか。地の底の底まで潜ってやろうぞ!」
しんのすけ「!」
バッ バッ グルンッ ズンッ
ハプウ「ほにゃあ!」バァーン!
ピカッ! ゴウッ!!
バンバドロは Zパワーを 身体に まとった!
ククイ博士「Zワザだ! 来るぞ!」
バンバドロが 解き放つ
全力の Zワザ!
ラ イ ジ ン グ ラ ン ド オ ー バ ー !
ジュナイパー『うわっ!』
バンバドロが前足を踏みしめ地ならしをすると、地割れが起きてカザマがその中へ落下していった!
そしてカザマが落下してる最中に、Zパワーをまとったバンバドロが、全速力でカザマに突進! そのまま押し切りながら、地盤も貫きどんどん地の底へ向かってゆく!
バンバドロ「……ッ!」
ジュナイパー『うわぁぁっ! うっ! ぐぅっ!』
やがてマントルまで到達すると爆発を起こし、バンバドロとカザマが地割れの中から戻ってきた。
ジュナイパー『う、ううっ……』ピクピクッ
バンバドロ「ムヒィィーウン!」ブルルッ
しんのすけ「カザマくん……」
ハプウ「惜しかったの。しんのすけ」
ハプウ「ここまでわしとバンバドロが追い詰められたのは久方ぶりじゃ。あともう一息、と言ったところかの」
しんのすけ「……」
ひろし「しんのすけ……」
みさえ「そんな、しんちゃん負けちゃったの?」
リーリエ「しんちゃん……」
ハプウ「だが、この敗北は決して無意味なものではないはずじゃ。もっと精進して、再びわしに挑んでこい。いつでもわしとバンバドロはお前の挑戦を待っておるぞ」
ハプウ「?」
しんのすけ「オラ、まだ1匹残ってるよ?」スッ
しんのすけが手に持っているのは、マサオの入ったモンスターボールだ。
ヨワシ(ボール)『えっ? 僕なの?』
ククイ博士「あれはさっきのヨワシ……マサオか?」
ハウ「でも、もう群れは散っちゃったんでしょー?」
ロトム図鑑「たたきにされるぞ」
ハプウ「……しんのすけ、降参するのもひとつの勇気じゃ。お前さんのポケモンはよく鍛え上げられておる。また挑戦すればよいじゃろ」
ハプウ「それとも、群れを纏う力も無いそやつを出して、無駄に傷つけることが望みかの?」
ハプウ(……自暴自棄になったわけじゃない。動機は不純だが、活路を見出しておる面持ちじゃ)
ハプウ「なら、そやつでわしとバンバドロを乗り越えてみせろ。お前の最後のゼンリョクを見せてみよ。野原しんのすけ!!」
しんのすけ「おっしゃー! レッツラゴー! マサオくん!!」ヒョイッ
ヨワシ(単)『え、ええっ? 僕が勝てるの? もう群れは纏えないよ?』ポンッ!
ジュナイパー(ボール)『大丈夫、いいかい? これから僕の言う作戦と、しんのすけの言うことを聞くんだ! そうすればあいつに勝てる!』
ヨワシ(単)『……でも』
ジュナイパー(ボール)『これは今の君じゃないとできないことなんだ!』
キテルグマ(ボール)『もうあんたしか残ってないの! 自信持ちなさい!』
ミミッキュ(ボール)『グッドラック!』b
しんのすけ「マサオくんかっこよかったってあの白いポケモンに伝えてやるゾ」
ヨワシ(単)『…………』
ヨワシ(単)『……わかった! 僕、みんなを信じる!』
しんのすけ「こぉぉいっ!」バンバンッ!
ハプウ「バンバドロ! ヘビーボンバーじゃ!」
バンバドロ「……!」ダッ!
バンバドロはマサオに一直線に駆け出し、ジャンプ! そして回転するとマサオに向かって落下していく!
ドドドドドド!!!
しんのすけ「マサオくんっ!」
ヨワシ(単)「!」
ズ ズ ン ッ !
バンバドロのヘビーボンバーが地面に激突し、砂煙が巻き起こる。地面にヒビが入り、泥水が染み出した。
ひろし「ど、どうなったんだ?」
リーリエ「マサオさんは……?」
そしてヘビーボンバーを食らって戦闘不能になっているはずのマサオの姿は――なかった。
ハプウ「なに?!」
バンバドロ「……!」
ハウ「あれー?! マサオはー?」
驚く一同。ハプウもバンバドロも例外ではなく動揺していた。一体どこへマサオが消えてしまったのか、あたりを見渡す。
ハプウはそこで、ダグトリオが掘った、水で満たされた穴に目が行った。そこで、ハプウはしんのすけの企み全てを察した。
ハプウ「まさか――! そこから離れよ! バンバ……」
しんのすけ「マサオくんっ! ファイヤーーーッ!!」
ヨワシ『フ ァ イ ヤ ー ー ー ー ッ ! ! 』
しんのすけとマサオの掛け声と同時に、バンバドロの真下の地面がさらにひび割れて、地面を突き破りながら勢いよくハイドロポンプが噴射された!
激流はバンバドロの腹に直撃し、そのまま勢いよく空中へと放り出された。
バンバドロ「ヒヒウ……!?」
ハプウ「……!」
バシャッ!!
バンバドロ「ムッ……! ムヒィ……」
水たまりの中で、バンバドロは横たわりながらもがいて脱出しようとするが、その体力は残っていなかった。ハイドロポンプを食らった際、急所である腹を直撃したからだ。
そのままバンバドロは負けを認めたように足を動かすのをやめて、悔しそうにハプウを見た。
ハプウ「バンバドロ……」
みさえ「……勝った」
ひろし「勝ったんだ……! しんのすけが、勝ったんだ!」
ハウ「やったーー!」
リーリエ「バンバドロさんをあんなふうに倒すなんて……!」
ひまわり「たいやー!」
ククイ博士「すごいぜしんのすけ! バンバドロの真下からハイドロポンプを打つなんて!」
しんのすけ「いやぁ照れますなぁ」
ヨワシ『え、えへへっ……僕はただ、しんちゃんとカザマくんの言う事しか聞いてなかったから』
キテルグマ(ボール)『あんたもっと誇りなさいよ。群れがなくったって強いんだから!』
ミミッキュ(ボール)『ガッツが、ある』
しんのすけ「安心しなさい、会ったらちゃんと伝えたげるから」
ヨワシ『う、うん、ありがとう、しんちゃん』
ロトム図鑑「ふっ、私の綿密な作戦が功を喫したな」
ひろし&みさえ「お前なんもやってないだろっ!」
ハプウ「……しんのすけ」
しんのすけ「お?」
ハプウ「わしらの負けじゃ」
しんのすけ「ま、こんなくらいどうってことありませんから」
ジュナイパー(ボール)『ほとんど即興だったんだろ?』
ミミッキュ(ボール)『でも、よく思いついた。しんちゃんすごい』
ハプウ「お前のゼンリョク……大胆な発想、最後まで諦めない意志、友を信じる心、この目でしかと見届けたぞ」
しんのすけ「いやぁ」テレテレ
ハプウ「本当に面白いヤツじゃ。ゼンリョクを尽くしても勝てないすごさ……いろいろ学べて感謝じゃ、しんのすけ!」ニィッ
ひろし「みさえ……俺たちが知らないあいだに、しんのすけはこんなに成長してたんだな」
みさえ「ええ、とっても誇らしいわ」
ひまわり「た!」
ハプウ「では、じめんタイプのZクリスタル……ジメンZを授けるぞ!」
しんのすけは ジメンZを 手に入れた!
しんのすけ「正義は勝つ! ワッハッハッハッ!」
大 試 練 達 成 !
しんのすけ「ほいっ」
ハプウ「うぅ……!」ギンッ!
バッ バッ グルンッ ズンッ
ハプウ「ほにゃあ!」バァーン!
しんのす「おお、なかなかいいターンですな。オラも!」
バッ バッ プリッ グルンッ ズンッ
しんのすけ「ぷるるん!」バァーン!
ハプウ「いや、尻は出さんでよい……」
みさえ「対抗して掛け声出さなくてもいいの」
リーリエ「しんちゃん! これで4つの島全ての大試練、達成ですね!」
しんのすけ「そーいえば、そうだね」
ククイ博士「後はウラウラのラナキラマウンテンに登って、大大試練を乗り越えれば、しんのすけの島巡りは達成だ!」
ハウ「わー! おれも早くしんのすけに追いつかなくっちゃ! ハプウさん! おれと戦ってー!」
ハプウ「これこれ、そう慌てんでもわしは逃げんぞ。まずはリーリエじゃ」
リーリエ「はい!」
ハプウ「リーリエもここが踏ん張りどころじゃ。なにかあれば、わしもバンバドロと駆けつけるでな!」
リーリエ「ハプウさん! わたし、やります!!」
――カプゥーレ!
全員「!」
みさえ「今の声は……ポケモン?」
ハプウ「おお! 珍しいのう。カプ・レヒレが我らの前でさえずりを上げるなど……」
しんのすけ「なんで?」
ククイ博士「カプ・レヒレは、ある理由で人間の前に姿をめったに見せないんだ。こうして声を上げることだって、そうそうないことなんだよ」
しんのすけ「ほうほう」
ハプウ「カプに選ばれたしんのすけが、4つの島の大試練を終えたことに対して祝福しとるのかもしれんな」
ハプウ「……!」ピクッ
ひろし「あ、また聞こえた!」
しんのすけ「どしたの?」
ハプウ「どういうことじゃ? ……『逃げろ』とは」
ハプウが言葉を言い終えた瞬間だった。
ズズンッ!
しんのすけたちの目の前――ポニの大峡谷の入口に、突然白い光が現れた。
みさえ「な、なにっ?!」
ハプウ「これは……!?」
白い光は空間にヒビを入れるように侵食していくと、巨大な穴へ変貌した。穴の奥は光に包まれ、そこから虹色の波動が外に解き放たれていく。
ハウ「ウルトラホールだよー!」
しんのすけ「誰かいる!」
全員がウルトラホールの出現に仰天していると、ホールの奥から、人影が現れた。コツコツというヒールの足音を響かせて、ホールの外へと出てくる。
???「フフフ……」
ひろし「あ、あんたはっ!」
リーリエ「かあさまっ!」
リーリエにかあさまと呼ばれた人物――ルザミーネは、不気味な微笑みを浮かべながら、ウルトラホールから現れた。
ルザミーネ「ウツロイドに導かれて出てきたと思ったら、まさかアナタたちがいるなんて……。奇妙な偶然もあるものね」
みさえ「この人って、あなたの会社の……」
ひろし「あぁ、エーテル財団の代表……そしてリーリエちゃんの母のルザミーネだ」
しんのすけ「40越えてるけどかーちゃんより美人だゾ」
みさえ「うるさいわねっ! 知ってるわよ!」
ルザミーネ「あら? あなたは確か……ククイ博士だったかしら? ポケモンの技に興味がおありで、研究を進めているとか」
リーリエ「かあさまっ! グズマさんはどうなさったのですか?!」
ルザミーネ「グズマ? あぁ、別にあんな人、もうどうだっていいのですよ。元の世界に連れて帰ろうとしてわたくしを困らせるのですよ? 愚かにも程があります!」
リーリエ「……そうやって、ここでもエーテルパラダイスでも、自分のことばかりっ!」
ルザミーネ「何を今更……だってそうでしょう! わたくしは! わたくしの好きなものだけがあふれる世界で生きるの!」
ルザミーネ「たとえ自分の子供でも!」
ルザミーネ「どれだけわたくしを慕っていても!」
ルザミーネ「珍しいとされるポケモンだとしても!」
ルザミーネ「わたくしが愛を注げる美しいものでなければ、ジャマでしかないのです!」ギロッ
みさえ「なんなの……この人。本当にあなたが言ったとおり……!」
ひろし「……だろ?」
ルザミーネ「しまクィーン……それがどうかしまして?」
ハプウ「此度のビーストの事件は、そなたが元凶としんのすけとリーリエから聞かされていた。なにゆえ、このような事態を引き起こしたのじゃ? その目的は?」
ルザミーネ「そんなくだらないこと、聞くのですね。決まっているでしょう? ウルトラホールの向こう側にある世界から、ビーストちゃんたちをアローラに呼び寄せて、世界中をビーストちゃんで満たしていくのです」
ルザミーネ「異世界のポケモンであるビーストと、愛しいポケモンが混じり合う究極の愛に満ち溢れた世界。その理想郷を作り上げることがわたくしの夢なのですから」
ハプウ「馬鹿げたことを……このアローラがそのビーストとやらで溢れかえれば、間違いなくアローラ――いや、世界中が混乱に陥る。そなたの言う愛とは程遠い世界じゃ。それが望みなのか!」
ルザミーネ「えぇ、わたくしは愛しい子供たちを束縛したりしませんから。ここにいる人間の命など、どうでもいいことです」
ルザミーネ「ですが!」ギロッ!
ルザミーネ「そこにいる野原しんのすけくん……! その子だけは、絶対に許しません! 生かしておくわけにはいきませんの!」
しんのすけ「オラが? いやあ照れますなぁ」
ハウ「褒めてるわけじゃないよー!!」
ルザミーネ「うちのしんのすけ? そう、あなたがしんのすけ君の母なのね。ならば、同じ母親同士、少しはわたくしの気持ちも分かるのではなくって?」
ルザミーネ「その子は、エーテルパラダイスでわたくしの計画を邪魔したからです。あんな穢らわしい異臭物をよくもわたくしの鼻に……!」
ひろし「……」
ルザミーネ「それに、しんのすけ君と出会ったから、リーリエは醜く変わってしまったからです! 幼い頃は、わたくしの言うことをなんでも聞いてかわいかったのに、親に逆らうだなんて……それもこれも全て、しんのすけ君の所為ですっ!!」
リーリエ「わたしが変わったのはわたし自身の意志です! しんちゃんは関係ありません!」
ルザミーネ「黙りなさい! ですからしんのすけ君! あなたを始末します!」
しんのすけ「ポケモンの散歩したらちゃんとフンは片付けなきゃね」
ひろし「それは後始末! しかもそういう意味じゃねぇよ!」
ハウ「ちょっとは空気読もうよー」
ハプウ「当然じゃ、このハプウとバンバドロを打ちのめしたからのう。ビーストなど敵ではないわ」
ルザミーネ「……ふふっ」
ルザミーネ「ふっふふふふふふ!!」
ハプウ「……なにかおかしなことでも言ったかの?」
ルザミーネ「いや、アナタたちの無知さには、笑うしかなくってね! ビーストちゃんは、この世界の常識を超えたポケモン。ただ単純にバトルに用いるだけしか思いつかないなんて。その程度の発想で、ビーストを知ったフウに語らないでくださる?」
ハウ「どういうことー? だってポケモン勝負で決着つけるんじゃないのー?」
ルザミーネ「見せてあげる……このウツロイドの、本当の力を!」
ルザミーネ「ウルトラスペースで手に入れた、わたくしとビーストちゃんが築き上げた愛の力を!!」ヒョイッ
ウツロイド「じぇるるっぷ……!!」ポンッ!
ルザミーネの頭上に現れたウツロイドは、そのままルザミーネへと真っ直ぐに下っていく。それをルザミーネは受け入れるように両手をウツロイドへ伸ばした。狂気に満ちた表情を湛えながら。
ルザミーネの身体をウツロイドが覆っていくと、光に包まれながら変化が起きた。
ハプウ「なにが起きようとしているんじゃ……!」
最初に光から飛び出したのは、黒く変色したいくつもの肥大化した触手だった。そして触手の持ち主である巨大化したウツロイドの頭部に入った、ルザミーネがあらわになる。ブロンドの髪から闇のように黒く染め上げられている。
みさえ「ひいいっ……!」
ルザミーネはまぶたを開き、金色の瞳で驚きに包まれる一同を順に見回し、狂気に満ちた笑い声とも言える叫び声をあげた。
ルザミーネ(マザービースト)「ウアァハハハハハッ! アハハハハッ……!」
ルザミーネ「どうかしら? この美しい姿! ウツロイドとひとつになることで、わたくしはすべてのビーストの母となったの!」
ルザミーネ「そしてこれから、本格的にアローラへウルトラホールをたくさん開けて、理想郷を創りあげるわ!」
ひろし「バカな……人間とポケモンが融合したっていうのか!?」
リーリエ「かあ……さま……!」
ハウ「うわ、うわわー! ルザミーネさんがー!」
ハプウ「いかん! まだしんのすけのポケモンは元気になっとらん!」
ひろし「や、やめろーっ!」
みさえ「しんのすけ!! 早く逃げてーっ!!」
リーリエ「しんちゃんっ!」
ルザミーネがその巨体とは裏腹に、とてつもないスピードでしんのすけに接近する!
しんのすけ「うおおーっ!?」
ハウ「おれが相手だーっ!」スッ
ククイ博士「僕も相手になるぜ!」スッ
シロ「アンアンッ!!」バッ!
ルザミーネ「邪魔です!」カッ!
ルザミーネが咆哮を上げると、10本の触手で巧みになぎ払い、ハウとククイ博士、シロを吹き飛ばした!
シロ「ぎゃんっ!」ドサッ!
ハウ「うわーっ!」ドサッ!
ククイ博士「うっ……トレーナーに攻撃を仕掛けるなんて……!」グググ
ルザミーネ「ふふっ! しんのすけ君っ!」シュルルッ
ルザミーネが触手を伸ばし、シロたちに動揺するしんのすけを捕まえた!
しんのすけ「ぬわーっ!」
ルザミーネ「さあ、わたくしと……」
しんのすけ「なんちゃって」
ズルッ!
ルザミーネ「!?」
しんのすけはズボンとパンツを身代わりに、ルザミーネの触手から縄抜けした!
しんのすけ「や~い来てみろ来てみろ~妖怪メノクラゲオババ~!」オシリペンペン
ルザミーネ「――ッ! なんて反抗的な子なの!」ビキキッ!
ルザミーネ「させませんわ! 絶対に捕まえます!」ブンブンブンッ!
しんのすけ「おそいおそーい! ほーれほれー♪」シュパパパパ!!!
ルザミーネが触手を次々と繰り出していくが、それをしんのすけは電光石火の速さで回避していく。
しんのすけ「ほれほれどーしたの? ひょっとしてオラのインドぞうさんに見とれちゃって、ゼンリョクだせないとか?」シュパパパパ!!!
ルザミーネ「くぅぅぅっ!」ブンブンブンッ!
ハプウ「煽ってる場合じゃなかろうが!」
リーリエ「しんちゃん! 早く逃げてくださいっ!」
ルザミーネ「……!」ニヤッ
リーリエ「ひっ……!」
しんのすけ「――ッ! リーリエちゃんっ!」ダッ!
ルザミーネがリーリエへ触手を伸ばしてきた!
リーリエは無意識に船着場で彼女から暴力を受けた記憶がフラッシュバックし、目を閉じて身をかがめ、頭を抑えた。
……しかし、リーリエの身体に何も起きなかった。リーリエはおそるおそる目を開けると……。
しんのすけ「おわわっ!」
ルザミーネ「ふう、やっと捕まえた。もう逃がさないわ」グググッ!
しんのすけ「ぬううっ! ホントに離せ離せっ!」ジタバタ
リーリエ「そ、そんな……! しんちゃん!」
みさえ「しんのすけーっ!」
ひろし「くそっ! しんのすけを離せっ!」バッ!
ルザミーネ「その臭いはもう嗅ぎたくありませんの」スッ
しんのすけ「うわぁぁぁーっ! とーちゃんそのニオイやめてーっ!!」ツーーーン!
ひろし「し、しんのすけ! ……ゲフッ!」バキッ
ルザミーネ「みなさん、無粋なんですから。……あら」
靴を構えるひろしを触手で殴り飛ばしたルザミーネは、しんのすけが縄抜けの際身代わりにした地面にずり落ちたズボンを覗いた。
そして、しんのすけのポケモンの他に、月の笛が転がっていることに気が付いた。
ルザミーネ「これは何かしら……ねぇ?」ヒョイッ
リーリエ「それは!」
しんのすけ「あーん! 触っちゃダメっ!」
ルザミーネ「ふうん、これは二人にとって大事なものなの。これがねぇ……こんなもの!」
ベキッ! バキッ! ボキッ!
しんのすけ&リーリエ&ハプウ「!」
ルザミーネ「ウフフッ! 伝説のポケモンを呼び出すつもりだったのでしょうけれど、そうはいきませんよ」
ハプウ「笛が……!」
リーリエ「そんな……っ!」
ルザミーネ「さぁ、しんのすけ君、招待しますわ。ビーストの世界へ」グイッ!
しんのすけ「うわわっ! とーちゃんかーちゃーんっ!」
ひろし「しんのすけ! しんのすけーっ!」
リーリエ「しんちゃん!!」ダッ!
ルザミーネと供にしんのすけがウルトラホールに入っていく直前、リーリエが走り出してしんのすけの手を掴んだ!
しんのすけ「リーリエちゃん……!」
リーリエ「んくっ……! んんんっ!」ググッ!
ククイ博士「おうっ! みんなでんこうせっかで急ぐんだっ!」
すぐさまひろしたちはリーリエのもとへ駆け寄り、みさえがリーリエの腰に手を回し、さらにそのみさえの腰をひろしが、ひろしの腰をククイ博士が……というふうに引っ張り、しんのすけをウルトラホールから引きずり出そうとする。
リーリエ「しんちゃんっ……! 離しません! 絶対に離しませんから諦めないでっ……!」ググッ!
しんのすけ「ぬくくっ……」ググッ!
ギュッ
しんのすけ「1・2・3・4……」ギュウウウッ
リーリエ「指相撲してる場合ですかっ!」
リーリエ「ごふっ!」ドゴッ!
パッ
しんのすけ「あ」
ウルトラホールから飛び出してきた触手に腹を殴られた拍子に、リーリエはしんのすけの手を離してしまった。しまった、とリーリエが目を見開いた時には、すでに遅かった。
しんのすけ「おわぁぁっ! リーリエちゃんっ! リーリエちゃんっ!」ズズズッ
リーリエ「しんちゃーーーんっ!!」
みさえ&ひろし「しんのすけーーーっ!」
しんのすけ「とーちゃん! 『やんちゃDEブリーダー』録画しといt……」
しんのすけが言い切るより先に、ウルトラホールの向こう側へと消えてしまった。
思わずリーリエがウルトラホールに入って追いかけようとするが、ひろしとハウがそれを抑える。
ブゥゥゥン
リーリエ「そんな……しんちゃん……! しんちゃん……ッ!!」
【ポニ島編 おしまい】
ポニの大峡谷 入口前
リーリエ「しんちゃん……! いやぁぁっ……!」
みさえ「あなた……っ」ギュッ
ひろし「みさえ……」
ハウ「ど、どうしよー! しんのすけがルザミーネさんに連れ去られちゃったよー!」オロオロ
ククイ博士「ハウ、まずは落ち着くんだ」
ハウ「お、落ち着けって言われたってー!」
シロ「クーン……」
ハプウ「ん……?」
ハプウはシロが加えてきたしんのすけのズボンと手持ち、そして笛の残骸を拾った。
ハプウ(しんのすけの身に危機が迫っているのを、そなたらもなんとなくわかっておるのじゃな……)
――ルザミーネ「……!」ニヤッ
ハプウ(あやつめ……! しんのすけがリーリエを守ることを分かっててわざと襲ったのじゃな! 許せん!)ワナワナ
ズズンッ!
みさえ「今度は何っ?!」
再び地面が揺れて、しんのすけが消えた地点に、再び空間の歪みと供に光が出現する!
ハウ「またウルトラホールだー!」
ひろし「もしかして、しんのすけか?!」
再び全員の前に現れたウルトラホール。
ひょっとしてルザミーネの拘束を抜け出してしんのすけが帰ってきたのでは――。その場にいる全員が、期待を抱いた。
だが、ウルトラホールから現れたモノは、その儚い期待を簡単に打ち砕いてしまった。
???「オォォォォオォッ!!」
咆哮と供に現れたのは、全身が口と呼ぶような巨大なウルトラビースト――アクジキングだった。それがウルトラホールから飛び出した途端、口から生えている2本の舌を伸ばして、次々と岩や木を口の中へ放り込んでいく!
アクジキング「モォォォッ!!」バグバグッ!
ククイ博士「見た目からしてかなりヤバイぜ! ここから逃げるんだ!」
ハウ「リーリエ、逃げよー!」
リーリエ「……」
ハプウ「わしの家に避難するぞ! ついて参れ!」
――カプゥーレ!
カプ・レヒレの声が空に響いたと思うと、ハプウたちとアクジキングの周囲に、見る見る冷たい霧がかかった!
ハウ「なにこれー? またビーストー?」
ハプウ「案ずるな! カプ・レヒレの能力じゃ! わしらをビーストから逃がそうとしてくれておる! このまままっすぐ走れ!」
ハプウ(カプ・レヒレ……感謝します)
リーリエ「……しんちゃん」
~メレメレ島 ハウオリシティ~
イリマ「ハラさん! こちらです!」
ハラ「……これは」
イリマとハラの目の前では、上空のウルトラホールから現れた、竹を模した一対の噴射口の腕が目印の巨大ウルトラビースト――3匹のテッカグヤが建物を破壊していた。人々は、パニックに陥りながら、四方八方へ逃げ回る。
テッカグヤ「……!」
テッカグヤは腕を振り下ろすと、役所の建物がいとも簡単に潰れ、空いたもう一つの腕で炎の弾を放つと、警察署が吹き飛んだ。
ハラ「イリマ……あなたは街の人たちの避難を誘導をお願いしますぞ。あの不埒なお客は、このハラが抑えます」
イリマ「はい! 分かりました!」
マオ「アママイコ! マジカルリーフ!」
スイレン「オニシズクモ! バブルこうせんです!」
2人のキャプテンの命令で放たれた魔法の葉っぱと、勢いよく発射された泡がビーストに直撃する。
しかし、目の前にいる、鋭い口吻と巨大な筋肉が特徴的なウルトラビースト、マッシブーンは、「それがどうした」と言わんばかりに耐え切った。
マッシブーン「……!」ダブルバイセップス!
マオ「なんなのよ、このポケモン! むちゃくちゃすぎる!」
スイレン「この前現れたポケモンとは、また別の強さです……!」
マーレイン「『穴』の反応はやはり前回同様、他の島にも現れているようだね」カタカタカタ
マーマネ「マーさん……マリエシティに反応が2つ……発電所に3つある……」カタカタカタ
マーレイン「他にも範囲が広がりそうだ。すぐに『穴』の反応を探知するための……」ピタッ
マーレイン「……どうやらこの近くにも、『穴』が出てきそうだ」
マーマネ「戦う準備……できてる!」
2人は天文台から飛び出すと同時に駐車場にウルトラホールが開いた。
その中から這い出るように飛び出したのは、先端に導線らしきものがあらわになった黒くしなやかな身体と、顔にあたる部分が光るトゲトゲになっているウルトラビースト、デンジュモクだ。
デンジュモク「デンジュジュ……!!」バチバチバチ
マーマネ「ターゲット確認……!」スッ
マーレイン「ウルトラホールから現れた異次元のポケモン、存分に分析させてもらう」スッ
ガンッ!
ひろし「くそっ! どうして……どうしてこうなっちまったんだ……!」ワナワナ
みさえ「あいつはいったいなんなのよ! どうしてしんのすけが……!」
ひまわり「ふぇっ……えっ……えっ!」
ひろし「だいたいお前がしんのすけを島巡りさせるからだろ!」
みさえ「それを言うなら、あなただって積極的だったくせに!」
ひろし「なんだとっ!」
みさえ「なによ!」
ククイ博士「奥さん、落ち着いて……」
ハウ「おじさんもー……」
みさえ「なに? 元はといえばアンタがしんのすけを……!」
ハプウ「や め ん か っ ! !」
ハプウ「今は責任の擦りつけあいをしてる場合ではなかろう!」
ひまわり「ふええん! ふええん!!」
ひろし&みさえ「ひまわり……」
ハプウ「おお、びっくりしたじゃろう。大丈夫じゃ、きっと兄は無事に帰ってくる。あやつは強いからの」ユサユサ
ひろし「……すまん、みさえ。怒鳴っちまって」
みさえ「私も、ついカッとなって……ごめんなさい」
ひろし「しんのすけが奪われたって言うなら、オレ達の手で取り返しに行けばいい。ただそれだけだ」
みさえ「ひまわりがさらわれた時も私たち、そうしたものね」
ひろし「愛してるぜ、みさえ。必ずしんのすけを取り戻そうな」ダキッ
みさえ「私も……」ギュッ
ククイ博士&ハウ「…………」
ハプウ「……お前の家族は面白いのう、ひまわり」
ひまわり「……たい」
リーリエ「……」
リーリエはほしぐもちゃんの入ったリュックを抱きしめながら、しんのすけが連れ去られた光景を思い返していた。
――ふう、やっと捕まえた。もう逃がさないわ
――ぬううっ! 離せ離せっ!
リーリエ(しんちゃん……っ!)
ひろし「まずは……しんのすけがハプウちゃんとの大試練を達成して、その直後にルザミーネが現れた」
ハウ「それでーウツロイドっていうビーストと合体して、しんのすけをウルトラホールの向こうへ連れ去ったんだよねー」
ハプウ「その直前に笛が壊され、ホールが消えたあとにビーストが現れ、カプ・レヒレの助けを借りながらここに戻ってきた……」
ククイ博士「逃げる途中、空にいくつものウルトラホールが開かれているのを見たんだ。おそらくだけど、前回のように……いやそれ以上に、アローラにウルトラホールが開かれている!」
ハウ「ルザミーネさんはービーストと合体してホールを開けられるようになったって言ってたよー。ひょっとしたら、コスモッグの力なしでホールを開けられちゃうのかもー」
ククイ博士「彼女の言葉が本当なら、今のところビーストが現れているのはアローラだけ……。他の地方に広がってないだけ、不幸中の幸いだね」
ハプウ「どうかな……仮に元凶を倒し、ホールを閉じたところで、あやつらが煙のように消えるとは限らん。穴へ戻さねばならんだろう」
みさえ「こっちから穴を開けて、ウルトラホールの向こうへ行く手段はないの?」
ハプウ「ある。……正確には『あった』と言うべきじゃが」つ壊れた月の笛
ひろし「そいつは……グラジオくんがリーリエちゃんにあげた笛そっくりだ」
ハプウ「これなるは月の笛。かつてアローラ王朝が太陽と月、それぞれの笛を用いて伝説のポケモンを呼び出した道具じゃ」
ハプウ「本来の流れでは、しんのすけとリーリエはこの2つの笛を用いて、ポニの大峡谷の先にある月輪の祭壇で笛を吹き、伝説のポケモン『ルナアーラ』を呼び出し、その力でルザミーネを連れ帰ろうとしていたのだ」
リーリエ「……」
ハウ「そのルナアーラっていうポケモン、ウルトラホールを開けられるのー?」
ハプウ「伝承通りならば、ルナアーラもまたウルトラビーストじゃろうな。空間に穴を開け、別世界を行き来する能力……恐らくウルトラホールを自由自在に開けられる力を持っておるのじゃ」
ククイ博士「だけど、その笛が壊れているってことは……」
ハプウ「伝説のポケモンを呼び出すのが不可能になった、ということじゃ」
ハプウ「そうしたいのは山々じゃが、わしはあくまで祭壇の番人の末裔でしかない。月の笛も太陽の笛も、作り方はおろか、どんなもので作られているのか、わしには全くもってわからん。そもそもそんな知識を持っている人が今のアローラにいるかどうか……」
ククイ博士「最善の手段がダメなら、次善の手段で挑むしかないね。とにかく、やることが山積みだぜ」
コンコンッ!
ハプウ「む……こんな時に誰じゃ」
グラジオ「……」
ハプウ「お主は……?」
リーリエ「にいさま……?」
ひろし「グラジオくん!」
ハプウ「なんじゃ、知り合いか?」
グラジオ「リーリエ、ハウ、ひろし、ここにいたのか。とりあえず無事で安心した」
リーリエ「にいさま、どうしてここに?」
グラジオ「今、アローラ全域に数え切れない程のビーストで溢れかえっている……。だからオマエらの身に何か起きたと踏んで、海の民から話を聞きながらここに来たんだ」
グラジオ「ところで……しんのすけの姿が見当たらないが。あいつはどこへ行った?」
リーリエ「……」
グラジオ「……何かあったのか?」
ハプウ「グラジオとやら、とにかく家に入れ。わしの口から話そう」
グラジオ「……ああ」
ククイ博士「グラジオくん、だったね? 君は何のためにここに来たんだい? ただ心配しただけでここに来たわけではないだろう」
グラジオ「ああ、リーリエたちをエーテルパラダイスに連れ戻しに来た。ビーストがアローラに溢れかえっている今、パラダイスが一番の避難場所になるからな」
ひろし「そうだな……ここに全員揃っているより、パラダイスに避難してからこれからのことを考えたほうがいい」
グラジオ「……その前に、ポニのしまクィーンにひとつ聞きたい」
ハプウ「なんじゃ?」
グラジオ「この壊れた月の笛についてだ。これを直すことは本当にできないのか?」
ハプウ「再三言うが、修復はほぼ不可能に近い。それが作り方はおろか、どんな素材で出来ているのかすら、誰にも分からずじまいじゃ」
グラジオ「果たしてそうか? 確かウラウラには、アローラ王家の血を引くというキャプテンがいるはずだが。そいつが笛についてなにか知っているはずだ」
リーリエ「……アセロラさん、ですか?」
ひろし「だとしても、知ってる可能性はあるんだろ? だったら、そのアセロラって子から笛の作り方を教えてもらうべきだ」
グラジオ「幸い、エーテルパラダイスにはその手の設備も整っている。素材と製造方法さえ分かれば、修復は可能だろう。壊れた笛もここにあるしな」
ハプウ「……うむ! その通りじゃ! かすかな望みでも、捨ててはいかんな」
ククイ博士「よーし、ならアクアジェットのように急ごう!」
ハウ「よかったねー! おばさんー! リーリエー! しんのすけを助けられるよー!」
みさえ「ええ!」
リーリエ「……」
ククイ博士「ハウ、キミは野原さんたちとリーリエが、ビーストたちに襲われないようポケモンとてだすけして守りぬくんだ! 任せたよ」
ハウ「わかったー!」
ハプウ「わしはここに残る。ポニ島のしまクィーンとして、カプ・レヒレと供にここを守らねばならんからの」
ハプウ「リーリエ、前を向け。おぬしが諦めなければきっと全て取り戻せる! がんばリーリエ、じゃぞ!」
リーリエ「……はい」
ハウ&グラジオ「がんばリーリエ……?」
ハプウ「ひまわりも達者でな」ナデナデ
ひまわり「たい!」
ひろし「よし、それじゃあエーテルパラダイスに急ごうぜ!」
みさえ「……ねぇ、誰か忘れている気がするのよね。誰かしら?」
ハウ「誰かー? 誰だっけー?」
全員「???」
グラジオの小型船に乗ってポニ島からエーテルパラダイスに来たリーリエたちは、そこでウルトラビーストから逃げてきた人々やポケモンたちの光景を目の当たりにした。
財団の職員たちは避難してきた人達のために食事を作ったり、ポケモンの保護を行っている。
ビッケ「グラジオさま、リーリエさま、ご無事でなによりです」
グラジオ「ビッケ……出迎えて早々すまないが、これの解析を頼む」つ壊れた月の笛
ビッケ「これは……月の笛ですか?」
グラジオ「ああ、だが途中で壊されてしまってな……。可能なら修復を、それが不可ならせめて内部の構造や材質の解析を急ぎたい」
ビッケ「かしこまりました。至急技術部に回して解析、可能なら修復の依頼をします」
グラジオ「頼む。……それから、居住区に空いている部屋があれば、ひろしたちの部屋を用意して欲しい」
ビッケ「はい、とはいえ、避難している人たちのこともありますので……全員一人ひとりの部屋を用意することはできません。誰かと相部屋になりますが、よろしいですか?」
ひろし「俺はみさえたちと一緒で構わないです。なぁみさえ」
みさえ「ええ、私たち相部屋でいいです」
ビッケ「リーリエさまは、お屋敷の方でよろしいですか?」
リーリエ「……」コクン
ハウ「えー? ゆっくり休めばいいのにー」
ひろし「あんなことがあったとは言え、俺はまだエーテル財団職員の野原ひろしだからな。少しでも避難している人やポケモン手助けをしてやるのが仕事だ」
みさえ「あなた……!」
ハウ「おじさん、かっこいいー」
ビッケ「ひろしさん……ありがとうございます」
ひろし「いえいえ、ビッケさんのためならなんでも朝飯前です」キリッ
ビッケ「は、はぁ……」
みさえ「おい」
ひまわり「……けッ!」
ビッケ「まずはザオボーさんから判断を仰いでください。今はあの方が一応、職員たちに指示を出していますから。2階にいます」
ひろし「じゃあみさえ、ひま、また後でな」
みさえ「永遠に帰ってこなくていいわよー」フリフリ
ひろし「み、みさえ……」トボトボ
ハウ「おじさん、かっこわるいー」ジトー
ビッケ「では、居住区にご案内いたしますね」
グラジオ「リーリエ……オレたちも行こう。今はお前もゆっくり休め」
リーリエ「……はい」
みさえ「……リーリエちゃん」
~BGM しんみリーリエ~
リーリエ「……」
――おわぁぁっ! リーリエちゃんっ! リーリエちゃんっ!
――しんちゃーーーんっ!!
リーリエは屋敷の中のひと部屋に閉じこもり、ベッドの上に座り込みながら、しんのすけがさらわれた時を回想していた。
あの時、自分が母の攻撃に怯まないで、手を離さなければ、彼はここにいたかもしれないのに……。
今までしんのすけがいてくれたおかげで、ルザミーネに暴力を振るわれ、コスモッグが動かなくなっても何とか不安を抑えていられた。
しかし、心の支えが奪われ、堤防が決壊したように、あふれんばかりの悲しみと自責の念がリーリエに押し寄せ、押し潰そうとしている。
リーリエ(わたしが……わたしがわがままを言わなければ……! しんちゃんと一緒に、島巡りなんてしなければ……!)
リーリエ「うっ……ううっ……あああっ!」ポタポタッ
リーリエ「ほしぐもちゃん……わたし、どうすればいいのか……もうわからなくなっちゃった……」
ほしぐもちゃん「……」
リーリエ「わたしの……わたしのせいで……しんちゃんが……! 守るって決めたのに……!」
コンコンッ!
リーリエ「!」
グラジオ「リーリエ、お前に会いたいっていう人がいるが……いいか?」
リーリエ「――ッ!」
みさえ「リーリエちゃん……」
ひまわり「や!」
リーリエ「しんちゃんの……お母様」
みさえ「急に押しかけてごめんなさいね、ちょっとあなたの様子が気になっちゃったから……。迷惑だったかしら?」
リーリエ「いっ、いえっ! 大丈夫ですっ」
みさえ「そう? それにしたら、ずいぶん目の周りが真っ赤になってるけど」
リーリエ「え? あ、あの、これは……」アタフタ
みさえ「大丈夫、今はグラジオくんもいないから。……ねぇ、ちょっと2人でお話しない?」
ひまわり「たいっ!」
みさえ「ああ、ごめんね。ひまも入れて3人ね。どうかしら?」
リーリエ「は、はい……上がってください」
みさえ「お邪魔しまーす」
ひまわり「たいやーい!」
みさえ「さっき、避難所でもらってきたの。こんなこともあろうかと、魔法瓶を持ってきておいてよかったわ~」
リーリエ「そ、そうですか……」
みさえ「……」ズズズッ
リーリエ「……」
リーリエ「あ……あのっ」
みさえ「どうしたの?」
リーリエ「ごめんなさい……! わたしのせいで……しんちゃんが……」ブルブル
みさえ「リーリエちゃん、まずは落ち着いて」
リーリエ「…………」
みさえ「あのね、リーリエちゃん」
リーリエ「……はい」
リーリエ「……え?」
みさえ「だって、しんのすけが島巡りしている間、ハウくんと一緒にあの子の面倒を見てくれたんでしょ?」
リーリエ「そんな……わたしは……一緒になんて。それに……わたしのワガママで、しんちゃんを振り回してました」
みさえ「本当? あの子を振り回せたとしたら、あなた大したものよ? 逆にしんのすけにさんざん振り回されたんじゃないかしら?」
リーリエ「それは……」
みさえ「でしょう? きっとケツだけ星人したり、インドぞうさん出したり、ナンパしたり……びっくりしなかった?」
リーリエ「え、ええ……。メレメレ島ではびっくりしました……ポケファインダーで水着の女性の方たちを撮ったり、花園ではケツだけ星人をしてほしぐもちゃんが喜んだり……わたしが怒っても、またやったり……」
みさえ「やっぱりね! あの子、帰ってきたらおしおきフルコース決定!」
リーリエ「……」
みさえ「……でもね、ああ見えてしんのすけはたくさん辛い思いをしてきたから、人の悲しみや痛みが分かる、優しい子なの」
みさえ「しんちゃんが身体を張ってリーリエちゃんを守ってくれたってことは、あの子……リーリエちゃんのことが大好きなのよ。口では言わないだけで」
――リーリエちゃんには、指一本触れさせないゾ!
――ッ、リーリエちゃんっ!
リーリエ「しんちゃん……!」ウルッ
みさえ「リーリエちゃん、今は泣いちゃダメ! だって、あの子はウルトラホールの向こうに連れ去られただけでしょ? まだ死んだってわけじゃないでしょ?」
リーリエ「……」
みさえ「リーリエちゃん、しんのすけのことをただの5歳児って侮っちゃダメ。あの子……私も夫も、ひまもそうだけど、リーリエちゃんが想像もつかないような冒険をたくさんしてきたのよ?」
リーリエ「そう、なんですか?」
みさえ「ええ、きっと信じてもらえないでしょうけども……。でもこれだけは言えるわ、しんのすけは、ビーストの母だかなんだかわからないけど、そんなのに捕まったぐらいじゃ絶対に死なないってこと! しんのすけの母親の私が言うんだから、間違いないわ!」
ひまわり「たいっ!」
リーリエ「……はい」
みさえ「下を向かないで。前を向いて、私の目を見て言いなさい」
リーリエ「……はいっ!」
みさえ「うん、その調子。最初に会った時よりも、ずっと良い顔になったじゃない」ニコッ
リーリエ「……あ、ありがとうございます」テレテレ
ひまわり「たやー」
リーリエ「……」
――ほっほーい! どしたのー?
――オラやアセロラちゃんに頼ってばかりですと、将来ロクなオトナになりませんぞ! 方向音痴くらい治しなさい!
――今日はオラが布団になったげるから。いっぱい泣いていいよ
――大切な人をお守りできるような強い男になりたいんだー
リーリエ「……しんちゃんのお母様」
みさえ「みさえでもおばさんでもいいわよ」
リーリエ「では……みさえさん。お話しして、気分が晴れてきました。ありがとうございます」
みさえ「どういたしまして」
リーリエ「まるで自分に弟が出来たような気がして、一緒にいると落ち着かないけど、なんだか明るい気持ちになって、とっても楽しいんです」
リーリエ「ですからわたし、取り戻してみせます。かあさまも、しんちゃんも、みんな!」
みさえ「ふふっ、そうね。女の子は欲張りでなきゃ! それで、あなたはこれから何をするの?」
リーリエ「……かあさまや、ビーストさんと戦うための力を養います。もう、みなさんの戦いを見て憧れるだけのわたしとは、さよならです!」
リーリエ「……みさえさん、しんちゃんの手持ちのポケモンさん、お借りしてもよろしいですか?」
みさえ「私はいいけど、あの子達があなたの言うことを聞くかどうか……」
リーリエ「正直、わかりません。ですけど、カザマさんたちもわたしも、しんちゃんを助けたいという気持ちはきっと同じですから、この胸の内の想いを伝えれば、分かり合えると思います!」
みさえ「……そうね! わかったわ、じゃあついてきて。部屋に案内するから!」
リーリエ「はい!」
~BGM おこリーリエ~
みさえの言伝で、広場にハウとグラジオが来ると屋敷前に真摯な面持ちのリーリエが2人を待っていた。
ハウ「リーリエ、どうしたのー?」
グラジオ「なにかあったのか?」
リーリエ「にいさま……ハウさん……」
スゥーッハァーッ
リーリエ「……わたし、今からポケモントレーナーになります!」
グラジオ「……!?」
ハウ「へぇー、そりゃすごいねー」
ハウ「……って、え゛え゛え゛え゛え゛え゛ーっ!?」
グラジオ「……本気で言っているのか」
リーリエ「はい、本気です! わたし、自分に甘すぎました」
リーリエ「ほしぐもちゃんを連れて飛び出しましたけれども、わたしは今日までずっと誰かにばかり頼ってきていました。ゼンリョクの姿になっても、結局口だけでしんちゃんに頼りっぱなしで……」
リーリエ「そのせいで、わたしは何も出来ないまま、ほしぐもちゃんは動かなくなって、しんちゃんはかあさまに拐われてしまいました……」
リーリエ「ですから! 誰かに甘えて見ているだけの自分とは別れを告げたのです。かあさまと、しんちゃんを取り戻すために!」スッ
グラジオ「それは……しんのすけの手持ちか?」
リーリエ「はい! ポケモンはしんちゃんの借り物ですが、今度はわたしも戦います! これが進化したわたしのゼンリョクの姿です!」キッ!
リーリエ「それに、わたしもアローラ防衛隊のひとりです。このアローラ地方を守る隊員なのに、何もしないなんて、隊員失格です」ニコッ
ハウ「……リーリエ」ポカン
グラジオ「……フッ、何を知りたいんだ?」
リーリエ「ポケモンさんとどうやって付き合っていけばいいのか、それに、ポケモン勝負について……学びたいことは、たくさんあります」
ハウ「だけどー、今のリーリエの持っているポケモンはしんのすけがおやでしょー? 人から借りたポケモンはートレーナーが強くないと言うことを聞いてくれないんだよー!」
ハウ「それに、しんのすけってポケモンに命令しないからーどんな技使うのか分からないよー。本当に大丈夫ー?」
リーリエ「それが問題なんですよね……」
ハウ「うー……なんか不安」
ズズンッ!
3人「!」
グラジオ「この揺れは……!」
ハウ「グラジオー! 上っー!」
リーリエ「!」
リーリエたちのの頭上――上空に、空間がねじれてウルトラホールが開いた。
その中から現れたのは、筋肉で膨れ上がったウルトラビーストのマッシブーン、そして電気のウルトラビースト、デンジュモクだ。
2匹がリーリエたちの目の前に降り立つ。
マッシブーン「ブーーンッ!」サイドトライセップス!
デンジュモク「デンデンッ!」
ハウ「うんー!」スッ
リーリエ「……!」
突然、リーリエが抱えていたしんのすけのポケモンが入ったボールが光りだすと、次々とボールから飛び出した!
ポンポンポンポンッ!
ジュナイパー「ホーッ!」バサッ!
ヨワシ(群)「ギョオオオオッ!」
キテルグマ「クーーッ!」ブンブンッ
ミミッキュ「ボッ!」
グラジオ「……しんのすけのポケモンが!」
ボーちゃんとネネが先陣を切ると、マッシブーンが拳を振り上げてネネに襲いかかり、デンジュモクが10まんボルトを、ボーちゃんに放つ。
マッシブーン「ブーンッ!」ブンッ
キテルグマ「クーーっ!」ガシッ!!
デンジュモク「デンンンッ!」バチチチチッ!
ミミッキュ「ボーッ!」ピカッ!
ネネがマッシブーンのメガトンパンチを両手で受け止め、10まんボルトを光の壁で防ぐと、その後ろで控えていたカザマが2本の矢羽根をかげぬいとしてデンジュモクに放ち、マサオがハイドロポンプをマッシブーンに放った!
ジュナイパー「ホッホーッ!」バシュシュッ!
ヨワシ「ギョオオオッ!」ブシャアアアッ
マッシブーン&デンジュモク「!?」
キテルグマ「クーッ」サッ
ネネが伏せたと同時にマッシブーンはハイドロポンプを真正面から食らってしまい、そのまま外へと押し出されて、オリバーポーズを決めながら海へ落下。
デンジュモクは次々とかげぬいで撃ち抜かれ、爆風で空中に浮かぶとボーちゃんが飛び出し、スパイクを決めるように鼻水状の影で殴ると、一直線に海へ落ちてしまった。
ドボンッ!
ザブンッ!
3人「……」
リーリエ「……」
リーリエ「……カザマさん、マサオさん、ネネちゃんさん、ボーちゃんさん」
ジュナイパー「……」
リーリエ「あなたたちの大事なお友だちが、かあさまにさらわれたこと、もう既にご存知かもしれません」
ヨワシ「……」
リーリエ「今回の出来事は、わたしがしんちゃんを巻き込んだせいです。あなたがたからそのことで責められても仕方ありません……」
キテルグマ「……」
リーリエ「ですが、わたしは……しんちゃんとかあさまを助けたいです! 弱い自分と決別するために! 全て元通りにするために!」
ミミッキュ「……」
リーリエ「図々しいことはわかっています。お願いします……わたしに、大切な人を助けるための力を、大切な人を守る力を、どうぞ貸してください! わたしと一緒に、戦ってくださいっ!」
ジュナイパー「……ホー」
リーリエの言葉を聞いたカザマたちは示し合わせたようにそれぞれの顔を見合わせ、互いに頷く。
ジュナイパー「……」スッ
最初にカザマが片翼を前に出した、続いて単独の姿に戻ったマサオがヒレを翼の上に重ね、その上にネネが黒い大きな手を、ボーちゃんが影の手をそれぞれ重ねてリーリエを見据える。
リーリエ「……!」スッ
リーリエが最後に手を重ねると、カザマたちは自らボールに戻り、リーリエの胸へ飛び込んだ!
ハウ「これって……」
グラジオ「リーリエを認めたのか……」
リーリエ「……カザマさん……みなさん……ありがとうございます!」ギュッ
リーリエ「必ず、みんなでしんちゃんを助けましょう!」
ハウ「じゃーリーリエ! さっそくおれと戦ってみよーよ! でさ、カザマたちがどんな技使うのか分析してみよーね!」
リーリエ「はい!」
エーテルパラダイス 1F 会議室
ビッケから「ククイ博士が帰ってきた」という連絡を受けたグラジオたちは、1階の会議室に集まった。
会議室には、ククイ博士とアセロラの姿があった。
ククイ博士「みんな来たね!」
アセロラ「はーい、古代のプリンセス、アセロラちゃんです!」フリフリ
リーリエ「お久しぶりです! アセロラさん!」
アセロラ「おーリーリエちゃん? なんかスッキリしたね!」
リーリエ「はい! 進化したゼンリョクの姿です!」
ヤングース「ぎゃうぎゃう!」ガブッ
ハウ「やっぱりこうなるのかー」ダラー
みさえ「ハウくん、頭から血ぃ出てるわよ!」
ハウ「もう慣れちゃったー。むしろ癒されちゃうくらいー」
みさえ「え?」
ひろし「ああ、俺はしんのすけの父の野原ひろし、こっちは母の野原みさえだ」
アセロラ「やっぱりね! なんとなく雰囲気が似てたもん。ウラウラ島のキャプテンのアセロラです! しんちゃんには大変お世話になりました!」
ひろし「お世話になった?」
アセロラ「スカル団にさらわれたこのヤンちゃんを助けてもらったの」
ヤングース「きゅう!」
みさえ「す、スカル団? スカル団って確か、アローラの人たちに迷惑かけてるっていう、あの……?」
アセロラ「うん、実はある事情でこの子がさらわれちゃって、しんちゃんが一人で助けに行ってくれたんだ」
ひろし「そ、そうだったのか……(ずいぶん派手にやってるなぁしんのすけ……こっちの心配もよそにして)」
アセロラ「あの時はちょっと慌ただしかったから、キチンとお礼も言えなかったからね。せめてこういう形で恩返しできればいいなって、アセロラ思ってるの」
グラジオ「オマエがアローラ王家の末裔だったのか……」
アセロラ「意外だった? 話は博士から聞いてるから分かってるよ。しんちゃんとリーリエちゃんのお母さんがいる、ビーストの世界に行くために月の笛を修理するんでしょ?」
リーリエ「はい! ですので、なにか少しでもいいので、笛のことについて知っていれば……!」
グラジオ「どんな内容なんだ? 出来れば手短に頼む」
アセロラ「ちょっと待っててね!」
アセロラは古ぼけた本を取り出すと、それを長机に置いて、丁寧にページをめくっていく。
みさえ「見たことのない文字……本当にこれに書いてあるの?」
アセロラ「アローラ王朝で昔使われていた古代文字なの。それも、王家とか、神官しか読めない特別なものだよ」
ハウ「アセロラは読めるのー?」
アセロラ「ちょっとだけ。お父さんも少ししか読めないの」
ひろし「まさに王家秘蔵の本ってところか……」
みんなが注目する中、アセロラがページを次々とめくっていくと、ある1ページで止めてリーリエたちに見せるように一歩引いた。
リーリエ「このページに、笛の作り方が書いてあるんですか?」
アセロラ「んー、以前、リーリエちゃんに伝説のポケモンの事について書いた本を読ませていたでしょ? それの、もっと細かいところが書かれた本って思えばいいよ!」
ククイ博士「これは……島の守り神たちかな?」
ククイ博士は、カプ・コケコたちとちがみポケモンの絵が描かれた箇所を指で示した。とちがみポケモンたちのそばには、パートナーと思わしき人間の姿もある。
アセロラ「……の、原型だね!守り神とアローラの王様に仕え、アローラの島を司ってる4人の神官たちなの。カプたちのメッセージを王様や人々に伝えたり、島の様子を王様や他の島の神官とやりとりしていたみたいだよ!」
ククイ博士「ますます今で言うしまキングとしまクイーンの立場にそっくりだね」
グラジオ「その神官が笛の制作に関わっているのか?」
アセロラ「うん、神官たち4人が力を合わせて、太陽と月、二つの笛を作ってアローラの王様に献上して、儀式で王様に選ばれた2人の人間が祭壇に立って笛を吹いてルナアーラに感謝を捧げてた……っていうのがこのページに書かれていることだよ」
ひろし「しまキングたちの原型である神官たちが力を合わせて太陽と月の笛を作っていた……」
ククイ博士「神官とカプが深いつながりにあるということは、カプも笛作りに関わっていることになるね」
グラジオ「神官とカプが関わって笛を作る……。この情報だけではなんとも、な」
アセロラ「きっと笛を作るための素材とか、道具とか何かを与えてたと思うんだ。カプが直接作るっていうより、きっかけを与えてたのかも」
リーリエ「きっかけ……ですか」
ハウ「あー! おれわかったかもー!」
グラジオ「なにがだ?」
ハウ「笛がなにで出来ているのかー!」
みさえ「なにで出来ているの?!」
全員「!!」
ハウ「当たってるー?」
ククイ博士「そうか! Zリングを加工するようにカプから石をもらって神官たちが笛を作っていたのだろう! 神官とカプが協力して作ったっていう事も間違っていない!」
ビッケ「失礼ながら……よろしいでしょうか」
今までドアのそばで控えていたビッケが一歩前に出て口を開く。
ビッケ「ハウさんのおっしゃるとおり、壊れた月の笛の素材は、財団のデータベースに記録されているZリングの素材とほぼ合致していることが判明しました。ですので、かがやく石を用いれば、修復が可能かと」
ククイ博士「スピードスターの命中率と同じくらい大当たりだよ! ハウ! よく思いついたね!」
アセロラ「うん、盲点だったかも!」
ハウ「じーちゃんがかがやく石をZリングに加工してるの、何度も見てたからねー」
リーリエ「……カプさんたちは、しまキングの資質がある人に必ずかがやく石を渡すのがほとんどでした。ハプウさんがしまクィーンになられた際も、カプ・レヒレさんから渡されたのを見ました!」
みさえ「それじゃあかがやく石を手に入れれば……」
ひろし「月の笛を修復できるってことだな!」
ククイ博士「そのうえ、今は連絡を取ることも困難だろうね」
みさえ「どうしてですか?」
グラジオ「一般回線は混雑して……ほとんど繋がらない状態だからだ」
ひろし「だとすると、誰かがしまキングたちに、直接このことを伝えに行かなきゃいけないってことか……」
ハウ「じゃあおれ、じーちゃんに月の笛のことを伝えに行くよー!」
ひろし「ハウくんは船、運転できないだろ? 俺も一緒にメレメレに行くぜ」
みさえ「あなた……平気なの?」
ひろし「大丈夫だ、俺がヘマする男に見えるか?」
みさえ「見える」
ひろし「」ガクッ
ククイ博士「そうだ、ならもうひとつ、僕の研究所のポケモンたちのことも頼む。みんなボールに入れてあるとは言え、研究所がビーストに襲われるかもしれないからね」
ハウ「わかったー!」
ククイ博士「それじゃあ僕はアーカラに行ってライチさんに会ってくるよ! 空間研究所のこともあるしね」
グラジオ「ならば……オレはウラウラのクチナシさんに会いにいくとしよう」
アセロラ「エー! アセロラがクチナシおじさんに話すよ! それに、ウラウラのキャプテンだもん」
グラジオ「アセロラ、お前はここに残って笛の修復を手伝ってもらいたい。ついでにもう一つ、リーリエのこともあるしな」
アセロラ「リーリエのこと?」
グラジオ「リーリエは、ポケモントレーナーになったんだ。……といっても、手持ちは全てしんのすけから預かったものだがな」
アセロラ「アセロラちゃん、またまたお口あんぐり! ほんとなの?」
リーリエ「はい! しんちゃんのポケモンさんたちと一緒に、ビーストさんの世界に行ってかあさまとしんちゃんを取り戻すのです!」
グラジオ「だからキャプテンのお前が、リーリエにトレーナーのことを色々教えてやってくれ。お前がウラウラを離れることについてはオレからクチナシさんたちに話しておく」
アセロラ「わかった! アセロラ、気合入れてリーリエちゃんを鍛えるからね! 覚悟してよ!」ビシッ
リーリエ「どんとこい、です!」
ククイ博士「後はポニ島のハプウだね。誰が行くんだい?」
ハウ「じゃあおれとおじさんで行くー! メレメレとポニは隣同士だしー。おじさん、いいよねー?」
ひろし「ああ、わかった。しんのすけを助けられるのなら、どこへでも連れてってやるさ」
ククイ博士「それともう一つ。これも渡しておこうと思う」
ひろし「それは?」
ククイ博士「ウルトラホールみっけマーク3(※命名マーマネ)。ウルトラホールの発するエネルギーを探知できる機械で、もしビーストに近づいたり、ホールが開きそうになったら音と振動で伝えてくれるそうだ」
グラジオ「よくそんなものを……まだ各島に穴が開いてそう日は経っていないはずだが」
ククイ博士「ホラクニ岳の天文台所長で発明好きの親友と、カンタイにある空間研究所の所長の妻がいるからね。僕がパイプになって、ウルトラホールの情報や天文台の技術を交換しあっているから出来たことなのさ!」
みさえ「博士って……思ったよりすごい人なんですね……」
ククイ博士「あはは、これを機に見直してくれると嬉しいですよ、奥さん」
ハウ「それじゃあ早くしまキングたちのところに行こうよー!」ピョンピョン!
グラジオ「ああ」
各々がそれぞれの船に乗ると、エンジンを起動させた。
最初にひろしとハウの乗った小型船が、次にグラジオの船、最後にククイ博士のヨットが、ビーストたちの蔓延るアローラの島へ向けて大海原を走り出した。
みさえ「あなた……」
リーリエ「みなさん……気をつけて」
アセロラ「頑張ってねー!」
ひまわりを抱えたみさえとリーリエが4人の身を案じるように、アセロラと彼女の連れてきた子供たちは4人を応援するように手を振って見送った。
しんのすけ「おわぁぁっ! リーリエちゃんっ! リーリエちゃんっ!」ズズズッ
リーリエ「しんちゃーーーんっ!!」
みさえ&ひろし「しんのすけーーーっ!」
しんのすけ「とーちゃん! 『やんちゃDEブリーダー』録画しといてぇぇぇぇ!!」
ルザミーネの触手に引っ張られて、ウルトラホールの中に引きずり込まれるしんのすけ。ひろしとみさえ、そしてリーリエの姿も一瞬のうちに見えなくなってしまった。
一瞬全身がひねるような感覚がしたかと思うと、今度はしんのすけのZリングが熱くなるのがわかった。
そして気が付くと、しんのすけたちはポニの大峡谷から奇妙な植物の生えた、洞窟の中へと場所が変化していた。
しんのすけ「なに? ここ……」
ルザミーネ「ようこそ、わたくしとビーストちゃんだけの甘くて美しい真実のパラダイス、『ウルトラスペース』へ……!」
しんのすけ「えぇ? ここのどこがパラダイス? 甘いならお菓子とか用意してよね」
ルザミーネ「そういう意味での甘い、じゃないのよ」
しんのすけ「てゆうか、そろそろ離してよ。苦しいってば」
ルザミーネ「離すものですか。あなたは、何をしでかすか分かったものじゃないですからね……フフ、アクジキングの餌にでもすれば、喜ぶかしらね」
しんのすけ「あ……オラ、おしっこしたくなっちゃった」ブルッ
ジョボボボ
しんのすけ「おおう……おう」ブルブルッ
ルザミーネ「汚らわしいっ!!」ブンッ!
ルザミーネは用を足しているしんのすけを、勢いよく地面に投げつけた!
しんのすけ「いぢぢぢぢ! なにすんの! オラのきんのたま潰れるところだったじゃないか!」
ルザミーネ「よくも……よくもわたくしとビーストの世界にそのような汚物を!」ワナワナ
しんのすけ「汚物なんて……そんな放送禁止用語、使っちゃいけません」
ルザミーネ「下半身を丸出しにしているあなたに言われたくありません!」ブンッ!
しんのすけ「!」サッ
ルザミーネは怒りに身を任せるように触手をしんのすけの脳天めがけて振り下ろした。すかさずしんのすけが横に回避すると同時に、地面が揺れて砂煙があがる。
ドゴォッ!
ルザミーネ「あああうっ!!」ドンドンドンッ!!
ルザミーネがパワージェムをしんのすけに向けて放つ!
ドカンドカンドカンッ!
ウツロイド「じぇるるっぷ……」ポンッ!
デンジュモク「デンデンッ!」ポンッ!
テッカグヤ「フー……!」ポンッ!
しんのすけ「ぬー! こっちだって、カザマくん、レッツラ……」
ボールを出そうと腰に手を触れるが、肝心のボールそのものは、向こうのズボンのベルトにくっついていることを、しんのすけは忘れていた。
しんのすけ「やべ……みんな忘れてきちゃった」
ルザミーネ「しんのすけ君を始末なさい!」
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」
ウツロイドとデンジュモクがしんのすけに接近し、テッカグヤが腕の先をしんのすけへと向ける!
しんのすけ「ど、どうしよ~きゅうすがバンジーしてなんて言うんだっけ~!」
しんのすけ「うぉ、なんだ?」フッ
その時、しんのすけの身体が何者かに掴まれ、一瞬のうちに姿を消してしまった!
ウツロイド「じぇる……!」ドカッ!
デンジュモク「デンッ……!?」バキッ!
すると、次の瞬間ウツロイドたちに強烈な打撃が入り、その身体をふらつかせた。
ルザミーネ「!?」
ルザミーネ「今のは野生のビースト? でも、なぜしんのすけ君を助ける真似を……?」
ルザミーネ「……ともかく、しんのすけ君を早急に始末しなくてはいけませんね! ホールを開けつつ、消えたしんのすけ君を探さないと」
しかし、ルザミーネはふと足を止めて、考え込んだ。
ルザミーネ「……でも、しんのすけ君のあの身体能力……それに5歳ながら島巡りで大試練をこなしたものね。Zリングも持っている……」
すると、ルザミーネの頭の中に、悪魔のような発想が生まれた。このままあの幼くて強い子供を始末するのは非常に惜しい。だったら……。
そう考えると、かえってしんのすけの存在が愛おしく思えてきた。彼をどうにか掌中に収めることができれば、ビーストも……。
ルザミーネ「フフフッ……あはははっ!! しんのすけくん……あなたは殺さないであげる。たくさんたくさん、溢れるほどの深い愛をあなたに注いであげるわ」
ルザミーネ「愛に満たされて、わたくしのことしか考えられないくらいに、ね……」
【ポケモン】しんのすけ「アローラ地方を冒険するゾ」その4【クレしん】
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しんのすけ「アローラ地方を冒険するゾ」
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しんのすけ「アローラ地方を冒険するゾ」
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