11/04/14
まだ宮崎の田舎に住んでた小学校3年の時、姉と2人で『マザー2』ってゲームにハマってたんだ。
俺ん家は「ゲームは土日に3時間だけ」って面倒な決まりがあって、普段スーファミのカセットは居間に封印してあるんだが、このゲームだけはどうしても我慢できなかった。
幸い自分の部屋にはスーファミ本体とテレビがあったので、夜中にこっそり居間にカセットを取りに行っては、姉と『マザー2』をやり込んだ。
んで実際にプレーするのは俺。姉は隣りでお菓子食べながら見てて、俺が詰まると色々と知恵出してくれるアドバイザー。俺より2つ年上だったんで凄い頼りになった。
今でもハッキリ覚えてるが、その頃はゲップーって敵に大苦戦してて、ひたすらレベル上げしてたんだ。はえみつ使えば楽勝だって事も知らずにな。
時間は大体午前1時、丁度今位の季節で寒かったので毛布にくるまってゲームしてた。必死にザコと戦闘してる時、姉が不意に
「タケ、テレビ消して」
て言ってきた。俺は訳がわかんなかったから焦って
「何で?眠いの?じゃあコイツ倒したら戻ってセーブするからちょっと待ってよ」
と返した。が
「ゲームの電源は切らなくていいから…テレビ消しな」
姉は締切ったカーテンの方を見ながら静かに呟いた。俺は少し怖くなってテレビを消して布団に潜り込んだ。
「どうしたの?」
恐る恐る聞くと、姉は息だけの声で囁いた。
「庭の方で足音が聞こえる」
俺ん家は周りをジャリに覆われていて、人が歩いたりすると「ジャッ、ジャッ」て音がするからすぐわかるんだ。
俺はゲームに夢中で全然気がつかなかったけど、姉は結構前から気付いてたらしい。で、余りにも立ち去らないから俺にテレビを消させたんだと言っていた。
耳を澄ますと確かにジャッ、ジャッ、と庭先の方から聞こえる。本当に怖くなって
「犬か猫でしょ?」
と聞くが姉は答えない。じっとカーテンの方を睨んでる。次第に足音が近付いて来るのがわかった。
足音が窓外のすぐ近くで止まった。怖くてたまらなくなって姉の腰にギュッとしがみついた。しばらくして
「あのぉ…、すいません」
甲高い女の人の声が呼び掛けてきた。姉は答えない。俺は目をつむり必死で姉の体にしがみついた。
「起きてますよね?…困ったコトになったんで、ココ開けてもらえませんか?」
来訪者が来るにはズレすぎたこの時間帯と、深夜の暗さが恐怖をあおり、怖い夢でも見てる感覚になった。
暫くの沈黙の後、外にいる女が窓に手を掛ける気配があった。ガタガタと窓が揺れだした時、不意に姉が立ち上がった。俺を振りほどいて部屋の引き戸を開けた。
「おかーさーん!!窓の外に誰かいるーー!!来てーー!!おかーさーーんっ!!」
姉はありったけの声で叫んだ後、廊下の電気を片っ端から点けて俺の手を引いて親の寝室まで走った。
寝室に着き電気を点けると、母さんはまだ寝ていた。ちなみにウチは母子家庭で父親はいなかった。
姉が揺すり起こし事情を説明すると、困惑した顔で
「こんな時間に…夢でも見たんじゃないの?」
違うよ!と俺が口を挟もうとした時
ピンポーン
玄関でチャイムが鳴った。
母さんは驚き、慌てて玄関に駆けて行った。玄関の電気を点けると、擦りガラス越しに赤い服を着たシルエットが浮かび上がった。
「どなたですか!?」
「夜分遅くに申し訳ありません。…実は急ぎの用事があってこの辺りで公衆電話を探していたのですが、どうしても見つからなくて…」
「もし宜しければお宅の電話を貸して頂けないでしょうか?」
俺は何だ電話かぁ、とホッとしたのだが
「…申し訳ありませんが、こんな時間に見ず知らずの人を家に上げる訳にはいきません。どうかお引きとり下さい」
母さんはキッパリと断った。その時は電話くらい貸してあげればいいのに、と驚いたが、今思えば当然だな。
いくら田舎とはいえ、大人が母親しかいない家に、深夜に訪ねて来た他人を上げるのは危険だ。
だがなおも
「お願いします。本当に困ってるんです。電話を貸して下さい」
と食い下がる。が、母さんは断固として
「申し訳ありませんが、他を当たって下さい」
と断り続けた。
暫く言い争う感じでやり取りが続いた後、女は急に静かになった。やがて玄関先にあった傘立てから傘を抜くのが見てとれた。
そしていきなり
「ガンッ!!」
傘の先の方を持って、柄の部分で玄関の擦りガラスを叩き始めた。
再び狂気を感じた俺はその場に固まってしまった。女は玄関のガラスを突き破らんばかりに強く叩いてくる。
「いい加減にしなさい!!警察を呼びますよ!!」
母さんは少し怯んだようだが、強い口調で外の女を一喝した。しかし女は叩くのを止めない。
「あんた達は居間に行ってなさい!お姉ちゃんは警察に電話!!」
俺は固まって動けなかったが姉に手を引かれ、居間へと走りだした。バーンと音がしたので振返ったら、母さんが玄関脇にあった靴棚を倒してた。
バリケードを作ってたんだと思うが、今考えるとあんまり意味無い気が…母さんもパニクってたんだと思う。
居間に着き、電気を点けると俺はテーブルの下に潜り込んだ。どこでもいいから隠れたかった。警察への電話を終えたらしい姉も潜り込んできて、2人で抱き合い震えながら泣いていた。
暫くすると母さんも居間にやってきた。玄関からはまだガンガンとガラスを叩く音が聞こえてくる。台所から一番大きな包丁をとってきて、テーブルの下にいる俺達を見つけ
「大丈夫だから、ね?お母さんがいるから大丈夫だよ?」
と慰めてくれた。だがそう言う母さんも顔が真っ青で凄く汗をかき震えていた。
やがて玄関の方から音がしなくなり、家の中が静かになった。そして母さんが玄関の方へ歩き始めた時
「ガンッ!!」
と居間の窓から激しい音がした。俺と姉は
「わぁーっ!!」
と絶叫して気を失いそうだった。
どうやら玄関は諦め、電気の点いてた居間の方に周り込んで来たらしい。母は果敢にも窓の方に歩みよりながら
「居たいならずっとそこに居なさい!!もうすぐ警察がくるから、どうなっても知らないよ!!」
普段見せた事の無い様な勢いで怒鳴り、シャッとカーテンを開けた。
「…ヒッ!!」
裏返った母さんの悲鳴が聞こえてきた。母さんの悲鳴を聞いて俺も窓の外を見た。
そこにいたのは明らかに男だった。濃い髭、ボサボサに伸びた髪、真っ赤なワンピース。
ニタニタ笑いながら部屋の様子を伺ってくる。本当に狂気を感じ、声すら出なかった。母さんも後退りし、固まっている。
そして男は窓越しに叫びだした。聞こえた範囲で書くとこうだ。
「ぎゃははは……めしやだ!俺………流せるのに!!ぎゃははっ!!馬鹿が!!ぎゃははははっ!!」
そう言って奴は走り去って行った。すんげぇ適当だが最初の"めしや"ってのは"メシア"(救世主)だと思ってる。変な宗教にハマって気が触れた人なのかもしれん。
とりあえず奴が去った後も恐怖が拭えなくて、姉と2人で母さんにしがみついて泣きじゃくってた。
それからかなり時間が過ぎてようやく警察が来たので、
「遅いよ!!なんでもっと早く来てくれないの!!」
と凄く罵った覚えがある。頭にドが付く程の田舎だからしょうがないのだが。
それからしばらくは、家族3人で寝室で寝る様にしてた。
とりあえず覚えてるのはここまで、高校の時くらいに、ふと思い出して
「あれ何だったの?」
と母さんに尋ねたが
「わかんないよ。警察の人からも結局見つからなかったって連絡だったし」
いまだに正体は不明のままみたい。
コメント
コメント一覧 (77)
文章がうまいのかなあ
夜中に読むんじゃなかった…
妖怪よりも怖いナニカかと……。
こういうことになったらどうすればいいんだろう?
警察よぶのは第一として、証拠になるように動画撮影するくらい?
トラウマになりそうだなぁ
遅くまでテレビ見ちゃいかんって教訓やな
金髪フリルの女装男が入れてくれって戸を叩くやつ
こういうのが一番怖い
一人暮らしの夜に読んで軽く後悔。
こわかった~
こんな事態に遭遇したら冷静に対処できる気がしない
ちょっとUMAいw
今全力で家中の窓閉めたわ。
母ちゃん本当に頑張ってくれたわ
子供の頃にすんでた家が、裏口の鍵が引っ掻けるのだけだったから、今思うとこういう変な人が来ないで良かった
こんなん自分の身に降りかかって来たら怖すぎる。
あいつらマジで危機管理意識ゼロだからな
初動捜査?何それ美味しいの?状態でいい加減ですから
ねえ、◯賀県警さん
カーテン開けて姿見るまでお母さんも女だと思ってたなら、案外知能犯だったりするのかもな
一番でかい包丁握って娘息子安心させようとする母ちゃんすごくかっこいい
田舎のそういう玄関ってのは普通、ガラスが脆くて簡単に割れてしまう引き戸
田舎者が玄関に鍵をかけないのは、簡単に壊せる=鍵が無意味、だからでもあるのよ
傘でガンガン殴って割れない丈夫な窓の玄関は現在でも結構な豪邸、しかも当時なら新築だね
バブル崩壊で不況真っ只中だろうに、裕福な母子家庭だの
レベル上げたデータはセーブできたのかな
※22
そんな事もない、ていうか記録環境が無かったであろう事は間違いないけどちょっとズレてる
スーファミの前からタウンズあったんぜ、ましてマザー2ならもうプレステサターン64出る頃
家庭用ビデオカメラはハンディタイプが価格もこなれてぼちぼち普及してた
写真といえば写ルンです、家庭からカメラが消えつつあったね
30分以上待たされるのは当たり前。
警察も人手不足だから追突事故位では仕方無いと思うけど押し入り強盗の時は早く来て欲しいわ。火事の時も消防車が給水栓を把握して無くて手際が悪くて出火近隣の人は泣き叫んでて消防団の方が手際良くて近隣の人達の家財道具を運こび出して難を防いでたわ。実家の時にも火災あったけど今住んでる所よりは都会だったから手際も良くて大型ライト付けて化学消防隊まで来て火炎放射して鎮火してたけど。
時間が書いてないからなんとも言えんよ
通報を受けてから5分以内に現場にいけるようにするなら
田舎だと人口と同じくらいの警察官が必要だし派出所もそれだけ必要
ちょっと現実的じゃない
母子家庭の報告者が雨の日の夜遅くに母親と話し込んでいたら女性が訪ねて来て
どんな理由か分からないけど「家に上げてほしい」ってお願いされるの
身なりも同じような感じだけどこっちは金髪のボサボサだった
同じ地域の話なのかよくある手口なのか分からないけど怖いよねぇ
ひとつ思ったのは深夜の正体不明な人間の訪問はあいてに警告せずに速攻で警察呼んだ方がいいってこと
気付いたら即通報やね
でも読むのをやめることできない、
引き込まれる!
「呟いた」と「囁いた」の使い分けとか、
「庭の方で足音が聞こえる」ってとこから、砂利を説明して、「耳を澄ますと確かにジャッ、ジャッ」って繋げる流れの表現。
うますぎて創作っぽく感じるのがちょっとあれだけど、面白くて怖かった。
僕の所もアレな人がドア勝手に開けて入って来た事がある
本当に意味不明な事わめいていて怖かった
警察に電話しても直ぐには来てくれないし
ちなみに家も母子家庭だ
深夜でもないがバラック小屋みたいな継ぎ足し家で話してたら姉と。
外からコツコツとハイヒールがして煩いなぁ。なんだろなぁ。
と姉と話してたら外から声掛けられて
女の人がそのおっさんに襲われてて必死に助けを求めてたって話かと思った
見回れないんだったらある程度以上の過疎地域の住民を集めて強制移住させたらいいのにと思う。
それ以外の場所に住みたいなら自分で何とかしてねって。
どうせ一世代過ぎたら限界集落でしょ。
あとマザー2のゲームから年代特定の話が上がっているけど、最新のゲーム機が置いてあると断定する理由が分からない。
私はプレステ2出た年にスーファミ買おうか悩んだし。
平和な田舎で、家族の仲もよく、親の目を盗んでやることがホラーゲームで、しかも姉弟でお菓子食べながらプレイ。こういう人達なら、こんなとんでもない男が、この世にいるなんて、初めて知ったろうし。
4時前まで起きてて庭に誰かいたからさすがに起きるの早くね?と思い「お父さん何やってんの?」と声掛けたら一目散に逃げてった。
屋根の上でドッタンバッタンミシミシ聞こえたらとりあえず耳を澄ます。
フニヤアアアア!!!!と聞こえたら猫だから大丈夫。
翌日警察に届けたのがわたしだけでwwwwww
頭がおかしい人が2.3km(もっとだろうけど警察境界線近くでここまで)
練り歩いていたんだそうだ
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