私は「手タレ」と言い、タレント気取りで手袋をして仕事しない女

私は「手タレ」と言い、タレント気取りで手袋をして仕事しない女

私は一般事務職をしているのですが、タレント気取りで仕事をしない1年先輩の女性が居るんです。

その先輩は、学生の頃から「手タレ」というCMや雑誌で手のアップを撮影する時の手専門のモデルをしているらしいです。いつも白い手袋をして、手を使う仕事は人に押し付けています。パソコンのキーボードを打つのも、手袋ごしなのでとても遅いです。書類をめくるのも手袋ごしなので、事務職としては本当に彼女は使えないです。

どうして採用されたのか、採用試験の時は「手タレをしているので手が使えません」とは言わなかったからだと思います。一旦就職をすると労働者の権利がなんたらで、タイムカード上では無遅刻無欠勤の先輩に退職を促すことが難しいのだと上司も言っていました。上司も全く威厳が無い事に私は失望していました。

毎日ちゃんと出勤して、本当に「居るだけ」の先輩でした。

まさかとは思ったのですが、その先輩は会社お客様が来た時に、手袋をしてお茶を出したのです。

お客様は、一瞬ハッとした様子で、でも考えると手に可哀そうな事情がある女性なんだ、あまり見てはいけないと思っている様子もありました。そんなお客様の様子、心の声を聴いたか聴かないか、先輩は、

「私は手タレだから、いつも手袋をしているんです。」

と、のたまいました。居合わせた上司も恥ずかしくてたまらなかった様子です。

ある日、そんな先輩の仕事をしなくてもお給料をもらえるこんな親切な会社勤めが終わる時が来ました。先輩は人事部長にも「私は手タレだから~」とのたまっていたところ、人事部長は

「手タレ?タレント?うちの就業規則は知っていますか?」

と言いました。どうやら、うちの会社の「就業規則で副業禁止規定」があるらしいです。兼業は基本的に禁止。副業をする時は許可を得るという規則です。副業が許可されている職種は決まっていて、タレントなどは一番やってはいけない類の仕事だと私も私の上司も初めて知ったのです。

一気に緊迫した空気が流れた事で、いつも態度の大きな先輩はしどろもどろになり、

「副業ではなく、ボランティアでやっているのでお金はもらっていません」

といいました。さらに人事部長は

「副業というのは無報酬のものも含みます。それに、手タレをするにあたり、こちらの通常業務差し障りがある仕事ぶりなので、それは副業とはいいません。兼業、いやむしろ収入の問題ではなく、手タレの方が本業でコチラが副業ではないですか?」

もう先輩は何も言えませんでした。人事部長直々に言われた突然の就業規則違反に青ざめています。
アルバイトがバレたくらいなら減給などで退職まではしなかったかもしれませんが、先輩の場合、味方する人が居ませんでした。

「先輩なら手タレでこんな事務の給料よりたくさん稼げるじゃないですか!事務職なんてもったいない!」

とみんなに、はなむけの言葉で背中を押され、退職する流れになってしまいました。

後でたまたま先輩と大学が一緒だった人から聞いた話です。先輩は手タレなんてしていなかったらしいです。その時、自分に自信の無い、とてもおとなしかった先輩は、「手が綺麗」と褒められた事をきっかけに手を過剰に手入れ、保護するようになったそうです。

なんだか先輩かわいそうだったかな。なんて思っている時でした。ちょっと遠回りをして会社の帰りに寄った喫茶店で先輩が働いているのを発見しました。手袋をせず、洗い物もしています。なにかに吹っ切れた様子でした。おそらく、先輩は一回手タレと見栄を張った事で、引けなくなっていたんだろうなと思いました。

私は先輩に声をかけず、先輩が入れてくれたであろうコーヒーを美味しく頂き、そのまま店を出ました。

おすすめサイトの最新記事(外部サイト)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする