【艦これ】提督、逃がしませんよ
「提督、失礼します」
そう言って、正規空母加賀が、執務室に入ってくる。
しかし、そこに提督の姿は無い。
「…………」
ざっと執務室を見回した加賀は、眉を顰めた後、執務用の机の後ろに回り込んだ。
「……提督、一体何をされているんですか?」
「いや、ペンを、落としてな」
明らかに隠れていたのが見え見えだが、提督は表情を崩さずに机の下から出て来て、着衣を整える。
もはやツッコむのも面倒な態度だった。
「提督……」
「さて、少し工廠を見てくるか。確か、大鳳の艤装を建造している途中だったな」
「隼鷹です」
「……何?」
「艤装の開発は失敗しました。代わりに隼鷹の艤装が出来ました」
「…………」
表情は崩れていないが、明らかに落胆の様子が見て取れる。
まあ、我が鎮守府の資源圧迫の原因は間違いなく彼女の建造にあるので、無理も無い。
「そうだ。確か金剛に茶会へ誘われていたんだ。行って……」
「断っておきました」
「えっ」
「提督はお忙しいので、本日は来れないとお伝えしておきました」
「…………」
この人は……。
加賀は内心で溜息を吐く。
本人も分かっていてやっているのだから、そろそろ止めを刺してあげるべきか。
「なあ、加賀」
「……何ですか?」
「旅に出てみたいんだ」
「……はあ」
「しおいの言っていた運河を見に行くのがいいな。大型の船を出して、みんなで……」
「提督。いい加減にしてください」
「…………」
加賀の言葉を聞いて、提督は素早くドアの前まで移動して、ドアノブに手を掛ける。
が、それを開ける前に加賀は提督の肩を掴んだ。
「さあ、やりましょう。年末決算と、報告書の作成を」
そう言われて、提督はゆっくりと後ろに振り返った。
その視線の先にある執務机の上には、大量の書類が。
そしてその横にも、書類が山のように積まれている。
「今まで逃げ続けていたようですが、私が秘書艦となった以上は逃がしません。鎧袖一触よ」
「私に何をするつもりだ。鎧袖一触……?」
「さあ、こちらに……」
「待て、加賀。これを見ろ」
そう言って、提督は加賀に何かを見せる。
それは、チケットのようだった。
「……これは?」
「実は昔の同僚から、レストランのペア招待券を貰ったんだ。だが、生憎と日付は今日まででな、どうだ加賀。一緒に食事でもしないか?」
「…………」
これは、提督の作戦だった。
何度も書類仕事から逃げていれば、最終的に加賀が差し向けられるのは容易に想像できた。
だから、美味しいもので誤魔化して逃げようと、無理を言って日付調整までして招待券を手に入れたのだ。
案の定、加賀はチケットを凝視したまま固まった。
そして、震える手でゆっくりとチケットに手を伸ばし……。
「うおっ!」
チケットを持っている提督の手首を掴んだ。
それも、痛いくらいの力で。
「早くこの書類を終わらせましょう」
「かっ、加賀?」
「私も手伝います。さあ」
そう言って、加賀もイスに座って、書類置きに使っていた机の上の物を退かす。
「この程度の書類、鎧袖一触よ」
「……破くなよ?」
いい加減腹を括ったのか、提督も筆を取って、ため息交じりにそう言った。
魂を吐き出すようにそう言って、提督は筆を置いた。
その机の上には、朝あった書類は無く、綺麗に片付いていた。
「加賀、すまなかったな。お前のおかげで早く終わった」
「いえ。それよりもレストランはまだ営業しているでしょうか」
「んっ……? ああ……。だが、少し時間が厳しいか」
「構いません。行きましょう」
加賀はそう言って、イスにもたれ掛かって天井を仰ぎ見る提督の手を取った。
「何だ。そんなに行きたいのか? 分かった。車を出そう」
そう言って、提督も立ち上がる。
「しかし加賀、そんなにレストランで食べたいのか?」
「……提督」
「何だ?」
加賀はそっと提督の手を握って、身を寄せる。
普段のクールな態度と違う加賀に、提督は思わず足を止める。
「提督が一緒だから、意味があるんですよ?」
「そう、か……。なら、急いでいかないと、な」
全く表情を崩さない二人だが、少しだけ二人とも頬を染めて歩き出した。
「んっ? 雪か?」
「綺麗、ですね」
「ああ。そうだな」
「……少し寒いですね。もう少し寄っても?」
「構わない……。ほら」
ぴったりと腕を組んで、二人は夜の闇に消えて行った。
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コメント一覧 (19)
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- 2018年02月19日 02:24
- ◯城「食事と聞いて!」
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- 2018年02月19日 02:25
- >>「そうだ。確か金剛に茶会へ誘われていたんだ。行って……」
>>「断っておきました」
Ha~!? あのカガボーイ、ワタシとテートクの愛のお茶会を勝手に断ったことにしてるネー!!
Fu◯k you!
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- 2018年02月19日 02:33
- 大鳳狙いの隼鷹さんも中々だったが、二人目サラ狙いの隼鷹さんはその上をいくぞ
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- 2018年02月19日 02:58
- 仕事から逃がさないし食事も逃さない。更に狙った提督も逃がさない。正妻感あるな。
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- 2018年02月19日 03:09
- こいつ絶対刃牙外伝読んだろ
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- 2018年02月19日 03:12
- 愛してますよ…
あなたのその魂の存在を…
欲しいのです…
あなたの全てが
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- 2018年02月19日 03:17
- 逃げ場なんてないさ 嘘も矛盾も
飲み干す強さと共に
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- 2018年02月19日 03:24
- ※7
スクライドォ!!
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- 2018年02月19日 03:44
- おもしろかった
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- 2018年02月19日 03:48
- 花山提督かな
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- 2018年02月19日 04:19
- 能力で正々堂々提督さんに取り入るなんて卑しい女ずい……
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- 2018年02月19日 07:29
- 猛烈アタックに逃げ惑う話だと思ったのにぃ
最近、これと落語ばかりで食傷気味
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- 2018年02月19日 07:44
- ※2もっと怒っていいと思うぞ
理由が有るとしても本人が言うべきだしせめて本人に断ってくるのを一言言うべきじゃないか?
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- 2018年02月19日 10:14
- 公式で加賀が正妻認定されてる気がしてきた。ケッコン紹介は大抵加賀だし
※1
CV藤田咲はカエレ
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- 2018年02月19日 15:47
- ヤンデレ加賀さんが提督に赤ちゃんプレイ強制する話だと思ったのに...
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- 2018年02月19日 17:53
- ほんとはレストランで料理食べるより、大和ホテルで提督食べたいんだろぉグヘヘ
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- 2018年02月20日 02:48
- ちょくちょく思うんだが、提督と秘書艦、それもかなりハイスペックな2人が必死になってやっても通常就業時間を遥かに超える時間業務に従事しなければならないとか、それ仕事量間違えてね?
いや、フィクションとかゲームにこんなこと言うのも野暮なんだけど、別に秘書艦複数人選べてもいいじゃないの?
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- 2018年02月20日 19:23
- ※17
この提督、加賀が来るまで執務から逃げてたから溜まっただけであって、本来順当に終わらせていればそんな遅くまで掛からなかった可能性
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- 2018年04月22日 20:34
- ※1
赤○「山城サンタら、オチャメなんですね」