旅先、クイーン・オブ・フェスティバルで狙ったヤンスタ映え
ネズミの画像が大炎上、擁護の声も全く無く燃え盛るばかりだった
スマホに届く罵詈雑言の通知、どこからか聞こえる「矢部くんが悪い」の声
決勝戦に向かう選手達の中、イケメンの巧打者矢部は独り副音声席で泣いていた
炎上までにヤンスタで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるチームメイト・・・
それを今のヤンスタで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいでやんすか・・・」矢部は悔し涙を流して試合を妨害し続けた
どれくらい経ったろうか、内川ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい副音声席の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って新たなヤンスタ映えを狙わなくちゃなでやんすね」矢部は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、矢部はふと気付いた

「あれ・・・？お客さんがいない・・・？」
副音声席から飛び出した矢部が目にしたのは、外野席から避難しようと逃げ惑う観客だった
千切れそうなほどに避難サイレンが鳴り、地鳴りのように船が揺れる音が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする矢部の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「矢部くん、最終戦だ、早く行くぞ」声の方に振り返った矢部は目を疑った
「す・・・パワプロくん？」 　「なんだメガネ、居眠りでもしてたのか？」
「こ・・・猪狩守くん？」 　「なんだ矢部、かってに失踪しやがって」
「友沢くん・・・」 　矢部は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
１番：男・矢部　２番：小山　３番：友沢　４番：パワプロ　５番：清本　６番：内川　７番：佐賀　８番：六道　９番：猪狩守
暫時、唖然としていた矢部だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるでやんす！」
猪狩進からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する矢部、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている矢部が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った