女「講義抜け出して、どこか行っちゃいますか?」
男「なにその真面目なさぼり」
女「遊ぶ場所なんてろくに知らないので」
男「趣味とかないの?」
女「留年ぎりぎりの先輩をなんとかサボらせて、私と一緒に卒業させようとすることですかね」
男「はぁー、勘弁してくれ」
女「それ、ヤレヤレ系男子のマネですか?」
男「あんなに余裕はないよ」
女「ヨレヨレ系男子ですか?」
男「それに近い」
女「リュネリュネ系男子にさせてあげます」
男「留年を略してまで頑張ろうとしないで」
男「俺も1浪してこの大学入ったからな」
女「2浪しなかった先輩が悪いんです」
男「勘弁してくれ」
女「それ、ヤレヤレ系男子の真似ですか?」
男「ロウロウ系男子の真似だよ」
女「意味がわからないです」
男「リュネリュネ系男子の流れでわかるだろ」
女「やはり私が現役で受かるべきでしたか」
男「そしたら同級生になってたな」
女「盲点でした。やっぱり駄目です」
男「なんで?」
女「私が先輩にタメ語使わなくちゃいけなくなるじゃないですか」
男「タメ語の方が話しやすくない?」
女「ワタシにほーんのトウキョー育ちなので敬語の方がハナシヤスイデース」
男「何がイイタイカさっぱりデース」
男「高校より専門的なことを学ぶためじゃないか」
女「高校より専門的なことを先輩は学んでいますか?」
男「学んでたらこんなに単位落としてないな」
女「文系に限って言えば、別の意味があると思っています」
男「何のために大学があると思うんだ?」
女「言い訳させないためです」
男「言い訳?」
女「20才という年齢と、4年間という膨大な時間というチャンスを与えたんだから、そこで何もできなかったら『~さえあれば』という言い訳を今後一生するなということです」
男「誰が言ってるの?」
女「社会です」
男「社会は酷いやつだな」
女「そのチャンスを認めてるのもまた社会です」
男「チャンスを活かせなかったら卒業後は大人しく従うしかないのか」
女「大人しくとは大人らしくの略ですから」
男「なにそれ、一字しか略せてないけど」
女「一生飼い殺しですよ。お小遣いがほしいときも、私の機嫌がいい時に話を切り出す惨めな二児の父親です」
男「あれ、だいぶ話とんでない?」
女「不服ですか?」
男「そういうわけじゃないけど」
女「じゃあ私が飼い殺されてあげますよ。郊外の2LDKのマンションでね」
男「それ同棲って言うんじゃないかな」
男「入学時に仲良くできた人がほとんどいなかったからなぁ」
女「あっ、わたしと一緒でよかったです」
男「意外だな。いや、今となっては納得な気も」
女「どういう意味ですかそれ」
男「パット見の印象は、みんなとプールとかバーベキューに行って楽しんでてもおかしくない女の子に見えるってことだよ」
女「ひどい。誰がビッチですか」
男「一言も言ってない」
女「パット見じゃない印象は?」
男「日記本を収集してる変わった女の子」
女「ひどい。誰がサブカル女ですか」
男「一言も言ってない」
女「ところでメインカルチャーって何ですか?」
男「多くの人が楽しんでやってるようなことだろう」
女「何が思い浮かびます?」
男「プール、バーベキュー」
女「やっぱりサブカル女でいいです」
男「君は普通の女の子だよ」
女「じゃあ、サブカルビッチ女?」
男「プラスとマイナス足したらゼロになるとは限らないよ」
男「長い」
女「映画の120分も長いですよね」
男「長い」
女「1日24時間って短いですよね」
男「短い」
女「夜の5分に比べて朝の5分って短いですよね」
男「短い」
女「夜の先輩の行為って10分より短いですよね?」
男「この流れで素直に答えると思ったら大間違いだぞ」
女「何か勘違いしてませんか?」
男「えっ?」
女「下ネタの話ですよ?」
男「勘違いであってほしかった」
男「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
女「じゃあここは?」
男「ち○こ」
女「やった!ひっかかった!」
男「素直に答えただけなんだけど?」
男「もう今更取り繕っても遅いよ」
女「何もかもが手遅れですか?」
男「かたまったイメージは中々覆らないよ」
女「覆水盆に返らずですか?」
男「そうとも言う」
女「2人の息子、夏休みに帰省せず」
男「それはただのお盆に帰らない複数の息子だよ」
女「どうやったら清楚系の可愛い後輩だと認識して貰えますかな」
男「清楚っぽいこと言えばいいんじゃないかな」
女「なるほど。あの、言いたいことがあるんですが」
男「何でしょう」
女「毎日無駄に空打ちされてもね、つくる側の身にもなってほしいんだよ」
男「それは精巣。だめだよ全然清楚じゃないよ」
女「ごめんなさい、清楚に不慣れな素人なので」
男「あっ、今のむしろ清楚っぽかった」
女「やった、棚からぼたもちです」
男「水やらもちやら落ちてばかりだな」
男「水泳習ってたよ」
女「前にも聞きました。何か違う答えをください」
男「嘘でもいいの?じゃあ他に興味あったことで答えるよ」
女「先輩って昔何か習い事してましたか?」
男「テニス習ってたよ」
女「ダウト。先輩は水泳しか習ってないはずです」
男「…………」
女「ごめんなさい。ダウトのゲームがしたかったんです」
男「トランプないとできないだろ」
女「ダウト。トランプがなくてもできます」
男「いや、エースからキングまで順番に並べていくゲームだから。君がやりたいのは単に嘘を見破るゲームだろ」
女「True」
男「何がトゥルーだよ。いいよ、何か質問したら答えるから。嘘か真か見破って」
女「ではいきますね」
男「どうぞ」
女「次のうち、日本にある世界遺産として一部分も登録されていないものはどれ。A.姫路城。B.厳島神社。C.石見銀山遺跡。D.松島」
男「えー!?なんだろ、なんか全然違う方向から来た。えー……Aの姫路城?」
女「ファイナルアンサー?」
男「ふぁ、ファイナルアンサー」
女「…………」
男「…………」
女「ダウトォオオオ!!!」
男「不正解なんだろうけどそれ使い方違うから」
女「答えはDの松島でした」
男「厳島神社と同じ日本三景だから選択肢から消したんだけどな」
女「留年旅行に今度見学に行きましょう」
男「そこは卒業旅行にしたい」
女「何を卒業したいんですか?」
男「大学だよ」
女「ダウト!!」
男「このゲームいつまで続くのかな」
男「うん、見る」
女「そしたら、スカートを短く履いた容姿の可愛い女子高生が携帯電話をいじってるんですよ」
男「うん」
女「今までの私は、この子にはろくに悩み事なんか抱えてなくて、目の前のことに夢中で楽しく生きてるんだろうなって思ってたんです」
男「うん」
女「でも、今までではない私は、もしかしたらこの子も家庭とか学校の人間関係とか、やりたいこととかやりたくないこととか、お金とか恋について深く悩んでいるのかもしれないなって想像するようになったんです」
男「他人は空っぽだって考えてたのを、空っぽじゃないって考えるようになったってことかな」
女「その通りです」
男「そっか。ちなみに、今までと今まででないのって何が違うの?」
女「あなたと会う前と後のことです」
男「そうなんだ」
女「はい」
男「ハンサムな俺でさえ悩みを抱えてるのを知って、見た目で判断するのをやめたのか」
女「ヲタクっぽいのに中身はかっこいい、というギャップの可能性もあります」
男「ええー……」
女「変な照れ隠しするからですよ」
男「俺の好きなジョンレノンが言ってたな」
女「イマジンオールザピーポー。リビングライフインピース。ゆーふーうー」
男「想像力が大切なんだな」
女「それじゃあ、想像力がないと解けない問題を出題しますね」
男「どうぞ」
女「あなたは車を運転しています。そしたら、物凄い速度で追い越してきた車があらわれました」
男「危ないな」
女「その車の運転手の心情を述べなさい」
男「うーん、ちんたら走ってんじゃねぇとか、スカッとするぜとかかな」
女「ピンポンピンポーン。正解です。さすが先輩」
男「正解なのか」
女「別解が100個ありますが」
男「多いな。例えば?」
女「助手席の妻が今にも出産しそうだ。後部座席で寝ている子供の意識がない。チチキトク、スグカエレ。などです」
男「ああ、そういうケースもあるのか」
女「だから、カチンと来ることがあっても一呼吸おいて想像することが大切なんですね。ぎゅー」
男「いててて。なんでつねられてるんだろ」
女「私の心情を想像してください」
男「理由なんかないだろ」
女「正解です。別解は0個です」
男「俺の痛みを想像してくれ」
女「あれ、快楽ではなかったのですか」
男「間違った想像をするのも考えものだな」
女「はい」
男「みんなスマホいじってるね」
女「男の子はスマホゲーム、女の子はラインとツイッターが多い印象です」
男「あとは私語をしてたり、寝てたりだな」
女「私語が一番迷惑ですね」
男「確かに」
女「先生にも責任があると思います。ボソボソ喋ってて聞き取りにくいですし、教科書の朗読ばかり。本来それなりに優秀な生徒が多いだけにもったいないですよ」
男「その中でも君はGPA3.5超えてるんだったよね」
女「そうですね。でも今期は男さんと一緒に破滅的な成績を取る予定なので」
男「ええー」
女「あっ、授業終わりました。学食で晩御飯食べましょう。教室で喋るのはよくないですよ先輩。次からは真面目に聞いてください」
男「え、ご、ごめん」
女「夜の学食は良いですよね。人が少ないです」
男「昼間とは打って変わった雰囲気だよな」
女「男さんは昼休みはどこで食べてたんですか?」
男「入学した頃は昼休みは抜いてたよ。一人で食べるのが寂しくてさ。3限が終わった後に近くの飲食店に入ったりしてた」
女「そうでしたか」
男「女はどうしてたんだ?」
女「一人でお昼に学食で食べてたことあるんですよ」
男「すごいな。どうだった?」
女「一人で食べてる男子に話しかけられたことがあったんです」
男「ナンパかな?」
女「ヲタクっぽい見た目の人でした。ぼっち仲間だと思われたんでしょうかね」
男「それが不服だった?」
女「男の人が一人でいるのと、女の人が一人でいるのとは訳が違いますもの。美人な友達が何人かおるのですが、一人で居酒屋に入ったりするんです」
女「一人でも大丈夫なほどに自分に自信があったり、確固たる居場所があるから、一人でも平気なんです。言い換えれば、一人の女の人は一人ではないのです」
男「なんだかんだ女もやっぱそっち側の人間だよな。俺は一人を望んでなくても一人になってたんだから」
女「私だって寂しかったですよ」
男「寂しいけど人付き合いもしたくないのか」
女「自分を理解してくれない人の輪の中で生きるのも、孤独で寂しい思いをしますから」
男「まーったく読んでない」
女「かなり読書家のイメージだったんですが」
男「三年生の時まではめちゃくちゃ読んでたよ。話し相手もいなかったからさ」
女「どうして読まなくなったんですか」
男「女とこうやってたくさん話すようになってから自然と読まなくなってた」
女「それは良かったのでしょうか悪かったのでしょうか」
男「きっと、俺の中の魂が救われたんだよ」
女「大げさな」
男「本当だよ」
女「真顔で言われても。照れ隠しでもしてくださいよ」
男「楽しそうにしてる奴らを見て、馬鹿だの空っぽだの俺も見下そうと頑張ってたけど」
男「賢いことよりも、思考で満たされてることよりも、楽しいことの方がよっぽど大事だったって思い知らされてしまったよ」
女「なんだか照れますね」
男「照れ隠ししてもいいよ」
女「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色……」
男「いきなり無表情で唱えないでよ。照れを隠し過ぎだよ」
男「俺のことだけを病むほどに好きでいてくれるんでしょ。ギャルゲーのヒロインになるくらいだし、かなり魅力的だと思うよ」
女「ギャルゲーってなんですか?」
男「複数人の女の子と恋愛するゲームだよ」
女「ギャルってあのギャルですか?渋谷109とか原宿の竹下通りに生息する」
男「典型的な色黒の金髪の女の子のことじゃないよ。というか今時そんな女の子見かけないよ」
女「ギャルが出てこないのにギャルゲーって言うんですね」
男「girl gameのことだと思ってくれればいいよ」
女「わかりました」
男「ところでヤンデレがどうしたって?」
女「先輩の好きなタイプをあぶり出そうとしたんです。でも困りました。私は先輩を刺せません」
男「いや刺されたら嫌いになるよ」
女「そうですよね。刃物で刺されるという想像を絶する痛みを味わったら、絶対ヤンデレかわいいとか言ってられないですよね」
男「良心のある女の子が一番だよ」
女「シンデレが一番ですか」
男「なんで良心の心から取ったの。死んでるみたいで怖いよ」
女「複数人攻略する場合はシンデレらになりますよ」
男「あっ、美しくなった」
女「いいですよね」
男「ん、なにが?」
女「先輩っていつもおいしいおいしいって言いながら食べるじゃないですか」
男「友達にもよく言われるな。無意識なんだけどな」
女「好感度高いですよ。何故だと思います?」
男「えー、純粋っぽいから?」
女「あまり料理を上手につくれなくても、おいしいおいしいって言って食べてくれそうだなと」
男「なんだそりゃ」
女「冗談ですよ」
男「女って料理つくったりするの?」
女「明日の東京の天気は晴れのち曇り。最高気温は10度、最低気温は2度となる見込みです。暖かい格好をして外出しましょう」
男「素直につくれないって言って。いきなり天気予報の話題だしても誤魔化せないよ」
女「花嫁修行をしないままこの齢になってしまいました」
男「男だって花婿修行してないんだからお互い様だよ」
女「えっ、先輩花婿修行してないんですか……じゃあビーム出せないじゃないですか……」
男「どんな修行を想定してたの?」
男「出たくない」
女「今日は大学行きたくないなぁ、って気分の時どうしてましたか?」
男「行かなかった」
男「学年も終盤になってフルで授業に出席しないとまずい羽目になった」
女「やっぱり怠惰にはうち勝たないといけないんですね」
男「たまにサボったときは解放感があるんだけどさ。サボるのが日常化してしまうと、罪悪感しかわかないんだよ」
女「サボることの罪悪感を知った上で、今真面目に通えてるなら良かったじゃないですか」
男「朝早く起きて。授業を受けて。後輩とご飯を食べて帰る日常の繰り返し」
女「飽き飽きしちゃいますか?」
男「ウキウキに近いかな」
女「あら、嬉しいです」
男「どうも」
女「ボキボキはしてないですか?」
男「うん。全然骨折してないよ」
女「促音入れ忘れました」
男「ボキッボキッはしてないって」
女「手強い相手です…」
男「唐突だな。ええーと、まずは……」
女「すいません。さすがに今のは唐突過ぎました。やり直させてください」
男「えっ、いいよ別に」
女「今やり直さなければ、今夜一人布団の中で、会話の反省会をすることになってしまいそうなんです」
男「会話に厳しいな。ならやり直していいよ」
女「おほん。学食って安いですよね」
男「確かにな」
女「こんなに安く晩御飯を食べられるのに、一人暮らしの学生は家で自炊してるんですかね?」
男「確かに一人で食べてる人そんなにいないな。20時近くまで営業してるのに」
女「こんなのおかしいですよ。百鬼夜行が如く、大勢の一人暮らしの学生が食堂に押しかけても良さそうなものなのに」
男「そうだな」
女「百鬼夜行といえば、100万円あったら何がしたいですか?」
男「ごめん、百鬼夜行の時点で唐突だったし、百しか共通点がない」
女「鬼コーチです…」
女「私は、日記を買ってみたいです」
男「誰の?」
女「先輩の」
男「俺はつけてないよ」
女「じゃあ、先輩に似た人の」
男「ツイッターの裏アカウントと何が違うの?」
女「誰にもみられたくないのが日記です」
男「匿名で誰かに知らせたいのがSNS?」
女「そうです。だからSOSとも言います」
男「日記を見せる人なんていないでしょ」
女「だから、経済的に困窮している学生の家に押しかけて、現金をチラつかせて日記を手に入れるんです」
男「悪どいな」
女「日記はここで終わっている」
男「バッドエンドじゃないか」
女「100万円手にしてるから大丈夫です」
女「テストの成績とかですか?」
男「自覚したのが保育園の頃くらいだからな」
女「自分で自分を賢いと思ってたのですか。まぁ、そう思うような保育園児の時点で何かは秀でていそうですが」
男「当時よく考えてたのがさ。本当は、人間の生き残りって俺しかこの世にいないんじゃないかって。他はみんなロボットか何かで、宇宙人が俺の心を研究しているんじゃないかって」
女「それじゃあお父さんやお母さんも宇宙人だと思ってたんですか?」
男「子供限定で考えてたかな。子供同士で会話しててもさ、俺は誰よりも物事を深く考えてるって気がしてならなかった」
女「実際どうだったんですか?」
男「小学校、中学校、高校と上がるにつれて自分は特別でもなんでもない存在だって気付かされていった」
女「でも、男さんの言いたいことが少しわかる気がします。ツイッターなんかで話題になっている記事に対して、極めてとんちんかんなコメントをする人がいるじゃないですか。一体何でこの人はこんな的の外れた発言をできてしまうのかと怒りさえわくことがあります」
男「あるある」
女「ただ、私もきっと誰かからそう見られてるとも思うんです。高校の時、苦手な数学について頭の良い子の解説をいくら聞いても理解できなかったんです。その子からしたら、どうして私が理解できなかったのかを理解できなかったと思います」
男「怖いな。自分と全く同じ思考をしている人なんていないからさ。頑張ればみんな宇宙人かロボットに見えちゃうよ」
女「ワレワレハ ウチュウセンチキュウゴウノ ウチュウジンダ。げほっげほっ」
男「喉強く叩きすぎだよ」
女「私が何考えてるかわからない得体の知れない人間に見えましたか」
男「君くらいチャーミングなら人間じゃなくたって構わないよ」
女「やだ、人間って素敵なこと言うのね」
女「学食でお冷を片手にそんなことを言ってはいけませんよ。居酒屋でうだつの上がらない人達と飲んでる時に言ってください」
男「図書館で学術書を持ちながら言うのもだめかな」
女「それも本当にビッグになってしまいそうなのでだめです」
男「話逸れるけど、リセマラって知ってる?」
女「リセは知りません」
男「下ネタじゃねーよ。リセットマラソンの略だよ」
女「新しい下ネタひっかけ問題だと思いました。それで、どういう意味なんです?」
男「スマホゲームでさ、新しく始めたゲームは強いキャラをゲットしてから進めたいだろ。最初に強いキャラを引くか弱いキャラを引くかはガチャガチャ形式でランダムに決まるんだ」
女「だから強いキャラをガチャで当てるまで、何度もダウンロードをやり直すって感じですかね」
男「そうそう。それでさ、俺がくすぶってた時期は、それこそいろんなゲームのリセマラをしてたんだよ」
女「ふむふむ」
男「それこそ長い時だと一日5時間近くかかったりするんだよ」
女「うわぁ」
男「リセマラって本当に単純な作業でさ。決められたパターンに従ってただ指を動かすだけ」
女「教科書読んでる方が楽しいですよ」
男「本当に意味のない時間でさ。疑問に思うんだ。俺何してるんだろう。他にやるべきことって無いのかな。でも、勉強も運動もしたくない。自分を磨くために頑張りたくない。じゃあ俺って、何のために生きてるんだろう」
女「リセマラ一つで考えすぎですよ」
男「むしろ無思考だよ。きっとリセマラしてなくたって、ベッドの上で同じことを考えてたさ」
男「勝つために生きてるんだって思った」
女「どういうことでしょう?」
男「今日という1日の時間は、いつか来るべき戦いの日への備えの時間だって。恋愛とか、仕事とか、夢とか、いつかそういうものを賭けた戦いに挑んだ時に勝てるように、日々の時間は存在しているんだって」
女「気づいてからどうしましたか」
男「何もしなかった。ひたすらリセマラを続けた」
女「そうでしたか。それにしても、あんまり私といるときはゲームをしているところを見たことありませんが」
男「そりゃそうだ。君といる時間は戦いの真っ最中なんだから」
女「あ、あわわ。合戦中だったのですか」
男「戦う場所をくれてありがとう」
女「誰と戦っているんですか?」
男「戦う勇気の出なかった自身と」
女「大変よく戦いました」
女「一本締めでしめますか」
男「外でやろっか」
~外~
男「それでは、今日も学食で晩ごはんを食べていただきありがとうございました」
女「いえいえ」
男「それでは、一本締めでしめたいと思います。お手を拝借」
女「あい」
男「よーお」
パチン
男「ありがとうございました。それでは解散です」
女「ありがとうございました。駅まで一緒ですけどね」
女「何がでしょう」
男「こうやって、成績優秀な後輩の女の子が、留年しかけてる俺と一緒に授業を受けてくれて、晩御飯まで食べてくれる日々がさ」
女「つまり、今日もこうして私と先輩で話していますけど、私という人間は先輩の頭の中にしか存在しない想像上の存在だということですか」
男「そういうこと」
女「嬉しいです」
男「嬉しいのか」
女「失う前から、失ったら悲しむって言ってくれてるようなものなんですもの」
男「やっぱり失うことになるの?」
女「想像上の生き物だったら生殺与奪は先輩が握っています」
男「想像上だったら一生消したくないよ」
女「こういうこと言う時は素直ですね」
女「します」
男「多量の麻薬を持ってるとするじゃないか」
女「します」
男「山奥に閉じこもって、毎日麻薬で快楽を得ながら、寿命が尽きるまで生きることは悪いことなのかな」
女「他人に危害を与えず、他人に利益も与えない生き方をしていいかという問いですかね」
男「そんな感じ」
女「リセマラを繰り返す日々みたいなものですかね」
男「さすがに度合いが違う気がするけど」
女「何のために生きてるか、ということに先輩は縛られてるんですよ」
男「自分に自信がないからこういうことを考えてしまう」
女「周りの人が悲しむ、なんてこと言っても意味ないんでしょうね」
男「うん。だって、俺は生きることが好きだからさ。死にたくない。ただ、生きる理由が見つからないだけ。考えるためだけに、考えてるだけ」
女「宗教が存在する理由がわかる気がしますね」
男「そうだな」
女「勤務地、愛知県になりそうなんですよね」
男「うん。独身寮に暮らすことになる」
女「じゃあ、来年は一人ぼっちかぁ」
男「寂しがるなって」
女「先輩のことを言ってるんですよ。ほら、私はプールもバーベキューも似合うリア充なので、知人なんていくらでも増やせるのです」
男「そうだったな。俺は同期と馴染めるかなぁ」
女「心配ですか?」
男「心配してない」
女「馴染む自信がお有りで」
男「ううん。馴染めなくてもいいやという自信がお有り」
女「無敵ですね」
男「どちらかというと無味方かな」
女「今、新卒の離職が熱いっ!!!」
男「広告の謳い文句っぽくしないで」
女「お仕事無理しないでくださいよ。大学のような自発的な環境では怠惰でも、社会のような強制的な環境ではがむしゃらになってしまうタイプの人っているじゃないですか」
男「がむしゃらな俺も見てみたいけどな」
女「社会人って不思議ですよね」
男「なにが?」
女「男さんが、小学校とか中学校時代に憧れてた女の子がいるじゃないですか」
男「そんな話したことあったかなぁ」
女「その子達も、嫌なおばさん客から紙くずを投げ捨てられたり、意味不明な文字コードの羅列に深夜残業して対応したりしている可能性があるんですよ」
男「幻想的だった存在も、現実に落とされるっていう点では確かに違和感あるかも」
女「私も厳しい会社に入社したら、朝から大声で社是とか読み上げるんですね」
男「うわー、まったく想像できない」
女「嫌でもやることになるんです。現実で生きるというのは、社会が望む人格を構築することなんですから」
男「そんなの虚構だろ」
女「虚構ですよ。idol(アイドル)という英単語だって"偶像"っていう意味じゃないですか」
男「女は女らしくいられる場所で働けるといいね」
女「わたしらしくはたらくくらし」
男「早口っぽい」
男「ごちそうさまでした」
女「最後の晩餐も終わってしまいました」
男「寂しいなぁ」
女「離れて寂しいと思えるような食事相手がいてよかったですね」
男「そうだな。俺は一人じゃなかった」
女「幸運過ぎますよ。このご時世に孤独じゃないなんて」
男「女が勉強も手伝ってくれたおかげで留年もせずに済んだしな」
女「私は図書館で隣で読書してただけですけどね」
男「ああいうのが必要だったんだ」
女「どういたしまして」
女「どんなですか?」
男「俺が大学に爆弾を投げて、テロを起こしている夢」
女「あら、そんなに嫌いでしたか」
男「いいや、そんなことないよ。今ではこんなに愛着のある建物なんてないよ」
女「ならどうして」
男「あり得たかもしれない自分だったんじゃないかな」
女「別の世界線、というやつですかね」
男「俺はSFマニアじゃないから、世界はこの世界だけだと思うんだけどさ。でも、深層心理が、お前はこうなっていた可能性もあるんだからなって警告してくれたんじゃないかと思う」
女「先輩が悪者にならなくてよかったです」
男「よかった」
女「ただ、ひとつ言いたいのは。私なんかがいなくても、やっぱりちゃんと幸せになってくださいよ」
男「明日にでも別の女の子とバーベキューしてたらどう思う?」
女「私がそこに爆弾を投げますよ」
男「だめじゃないか」
女「先輩が悪者にならなければいいんです」
女「はい。今まで楽しい大学生活をありがとうございました」
男「こういう時どういうセリフを言うのがキザなのかな」
女「「手紙送るよ、とかですかね」
男「ちょっとありきたりじゃないか」
女「現金書留送るよ、とかどうでしょう」
男「郵便だったら何でもいいわけじゃないだろ。嬉しそうに言われても困る」
女「ダンボールいっぱいのみかんとか」
男「おばあちゃんか」
男「どうして?」
女「別れ際に振り向くことで台無しになる神話がたくさんあるからです」
男「なるほど」
女「それじゃあ」
男「ああ」
『さようなら』
『……構わないでください』
『学食で泣いてる女の子なんてめったにいないからさ』
『……あなた、確か語学の教室で一緒の』
『そう。一年の時に落として、再履で気まずく受けてる上級生です』
『ほうっておいてください。一緒にされたくないです』
『それはこっちのセリフだよ』
『どういう意味ですか』
『一緒にされるだとか、一緒にされないだとか。存在しない世間様の目を気にしてる女の子と、一緒にされたくないってこと』
『…………』
『群れから抜け出したら楽になるぞ。ひとりぼっちは気楽だ』
『再履してるくせに』
『もう一回受けたくなるほど好きってことなんだよ』
『嘘ばっかり』
『うん、嘘』
『……行きたくないなぁ』
『テンション全然違うな。というか、カラオケ行きたくなくてなく女の子なんて初めて見た』
『複合的な理由なんです』
『複合的なら仕方ないか』
『大学、辞めたくないですか?あなただって孤独で寂しそうですよ』
『孤独で寂しいけど、辞めたくないよ』
『どうして?』
『大学辞めちゃったら、サボる喜びも味わえないだろ』
『罪悪感がわきそうですが』
『俺みたいな常連になるとな。でも、あんたはビギナーズラックで、極度の解放感を得られるかもしれない』
『運試しじゃないですか』
『やってみなくちゃわからないさ、さあ、となれば答えは決まりだ』
『えっ?』
『講義抜け出して、どこか行っちゃおうぜ』
『…………』
『行っちゃおうぜ』
『……カラオケは苦手ですからね』
~fin~
またどこかで。
「男女」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (8)
-
- 2019年01月18日 15:43
- ※1
お前小説読んだことなさそう
-
- 2019年01月18日 15:55
- けっこう好き
ちょっとだけげんふうけいっぽい
下ネタの割合低かったらもっと良かったのに
-
- 2019年01月18日 20:08
- 自分がやりがちな妄想を文字にして客観的に見せられると、すごく気持ち悪いな 。死のう。
-
- 2019年01月21日 12:41
- 面白かった。
リュウリュウ系男子として刺さりまくった。
ただ、台無しになってもいいから振り向いて、もう少しだけ一緒にいたいと思わないのかなと考えて切ない。
-
- 2019年01月21日 12:51
- >5
違った。
リュネリュネ系だった。
-
- 2019年01月23日 08:23
- げんふうけいの系譜だな
タグとか新設しないかな
-
- 2019年01月25日 21:22
- そこまでげんふうけいか?
あの人基本バッド(ビター)エンドしか書かないイメージ
物語の終わりのあとに破滅が待ってる感じの
長編が書きたいなら小説でもかけばいい