弓道女「弓道とは精神を鍛えるための所作なのです(あー……一度でいいから人撃ちてえなぁ)」
- 2019年12月04日 23:10
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ヒュッ!
ストンッ
パチパチパチパチパチ…
取り巻きA「すごい! 皆中だ!」
取り巻きB「流石、高校弓道界の至宝といわれるお方!」
取り巻きC「今度の大会も頂きですね!」
ワイワイ…
弓道女「皆さん、お静かに」
弓道女「弓道とは精神を鍛えるための所作なのです。競うためのものではありません」
取り巻き達「し、失礼しましたァ!」
弓道女(あー……一度でいいから人撃ちてえなぁ)
弓道女(この矢を生身の人間に思い切りブチ込んでみたい……)
弓道女(だけどそんなことしたら、下手をすれば私は殺人罪……それは困る)
弓道女(私の矢に耐えられる頑強な人でなければ……)
弓道女(だけどそんな人いるわけ……)
大男「よっしゃ、筋トレするか!」
弓道女(……いた!)
弓道女(そうよ、思い切って……!)
弓道女「大男さん」ニコッ
大男「!?」
大男(学校みんなの憧れの的であるこの子が……なんで俺なんかに声を!?)
弓道女(いくらなんでも、いきなり『あなたを矢で撃ちたいの』は非常識よね。いきなりシャテーキになっちゃう)
弓道女「えぇっと……」
大男「えっ!」ドキッ
弓道女「筋トレするとおっしゃってましたよね? トレーニング風景をぜひ見学させて頂けませんか」
大男「もちろんいいぜ!」
大男(うおっしゃあ! モチベーション上がってきたぁぁぁ! いいとこ見せてやる!)
弓道女(本当に矢で撃っても大丈夫か、見定めないといけないものね)
大男「ベンチプレスをやるぜ! 見ててくれよ!」
大男「ぬおおおおっ!」グンッ
弓道女「まぁ、すごい! あんなに大きな重りを……」
大男(おおっ、目を輝かしている!)
大男(へえ、この子って案外俺みたいなパワータイプが好みだったのか?)
弓道女(まだ確信したわけではないけど、この筋肉なら矢が一本ぐらい刺さっても大丈夫よね)
弓道女「すごかったです。感動致しました」
大男「じゃあ今度は……弓道やってるとこを見せてくれねえか?」
弓道女「もちろん、かまいませんよ」
大男(おっしゃ、凛々しいところを見られるぜ!)
弓道女(矢の威力がどんなものか、間近で見てもらわなくてはね)
弓道女「射法には、足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会(かい)、離れ、残心」
弓道女「八つの動作があり、これを流れるように行うことが求められます」
大男「へぇ、難しそうだな」
弓道女「……」
ヒュッ!
ストンッ
大男「すげえ……! 全ての動きが美しいぜ!」
弓道女(いずれこの美しい動作で、あなたを撃ってあげるからね)
弓道女(だけどまだ頼めない……。そこまでの信頼関係には至っていない……)
弓道女(少しずつ、少しずつ、大男さんとの距離を縮めなければ……!)ペロリ
弓道女「そうだ、今度映画でもいかがです?」
大男「映画?」
弓道女「はい……ぜひ一緒に見たい映画がございまして」
大男「そりゃもう喜んで!」
『おのれ刺客か! 矢を放ていっ!』
ヒュバババッ!
グサササッ!
『ぐあああああっ……!』
大男「おおおっ、すげえ迫力! 今時のCGはすげえなぁ……!」
弓道女「……」
弓道女「……」
弓道女「映画の中で、刺客が矢の雨に倒れるシーンがありましたが……」
弓道女「あなたはもし、あんな風に矢が飛んできたらどうします?」
大男「なにそれ、心理テスト?」
弓道女「まあ、似たようなものです」
大男(ここは頼もしいとこ見せた方がいいよな……)
大男「そりゃもちろん、俺の筋肉で受け止めてみせるぜ!」ムキッ
弓道女(素晴らしい答えだわ……!)ゾクゾクッ
弓道女「今度のお休み、一緒に遊園地に行きませんか?」
大男「おう、もちろん!」
弓道女(ここで……大男さんの“最終チェック”をする!)
大男(女心は全然分からんが、俺に気があるのは間違いないよな……)
大男(もっとかっこいいところ見せてやるぜ!)
大男「まず、どれに乗る?」
弓道女「ジェットコースターにしましょう」
大男「おっ、いきなり?」
弓道女「私、ああいう乗り物が好きなもので」
大男「へえ、意外だな! さっそく並ぼうぜ!」
ザワザワ…
大男「うへえ、一時間待ちだってよ」
弓道女(行列を見ると、矢で撃ったらどれだけの人数貫けるか、なんて考えるのは私の悪い癖だわ)
ゴオオオオオオオオオッ!!!
弓道女「きゃっ……!」
大男「へへへ……これぐらいへっちゃらだぜ!」
弓道女(なかなかの精神力……最初の審査は合格ね!)
大男(ホントは怖いけど! ビビったらダメだよな!)
お化け「うらめしや~……」ヒュードロドロ…
弓道女「きゃあああああっ!」ギュッ
大男「おおっ!?」
大男「俺がついてるから……心配すんな!」
弓道女「ええ……」ナデナデ
大男(うひょっ、めっちゃ触ってくる! お化けが苦手なんて可愛い!)
弓道女(この筋肉の硬さ、盛り上がり……やはり矢の一本ぐらいは十分耐えられそう!)ナデナデ
弓道女(二次審査も合格!)
弓道女「ありがとうございます」
ワイワイ…
チャラ男「お、ニュース速報! ムショから囚人が脱走したんだと!」
ギャル「え~、超こわ~い!」
チャラ男「心配すんな、俺が守ってやっから」
ギャル「お願い~!」
イチャイチャ…
弓道女(ああいうバカップルも矢で撃ちたくなる……悪い癖だわ)
大男「次どうする?」
弓道女「観覧車にいたしましょう」
弓道女「……」ジーッ
大男(俺のことジロジロ見て……そんなにタイプなのかな?)
弓道女(観覧車が回る間にじっくり筋肉を分析することができた……これも合格)
弓道女「大男さん……」
大男「ん?」
弓道女「突然なんですが、今から高校の弓道場へ寄りませんか?」
大男「かまわねえけど、どうして?」
弓道女「あなたを見込んでお願いがあるのです!」
大男「弓道着に着替えて……いったいどうしたんだよ」
弓道女「私のお願いというのは、実は……」
大男「?」
弓道女「実は……!」
大男(まるで今から矢を放つような表情だ……全然甘い感じじゃねえ)
大男(これはもしかして、“弓道部に入ってくれ”ってことか?)
大男(だよな……そうに決まってる。俺みたいな奴に、この子が惚れるわけがねえ)
大男「……?」
弓道女(なぜ? どうして声が出ないの?)
弓道女(『あなたを矢で撃たせて欲しい』……たった一言いえばいいことなのに)
弓道女(まさか、私ともあろう者が情が湧いてしまったの? この大男さんに!)
弓道女(バカなッ! ありえない!)
弓道女(私は生身の人間を矢で撃ちたいような女なの! さあとっとと――)
大男「ど、どうした?」
大男「!」
弓道女「!」
守衛「今、テレビでここらに脱獄囚が逃げ込んだってニュースがやっててな!」
守衛「くれぐれも気をつけてくれ!」
大男「はい、気をつけます!」
弓道女(脱獄囚? んなもんどうでもいいわ、早く大男さんに――)
守衛「えっ、ドアが壊れ……」
脱獄囚「……」ヌウッ
守衛「うわあああああっ! なんだこいつは!?」
ドゴォッ!
守衛「ぐはぁっ!」
弓道女「守衛さん!」
大男「マジかよ……! 噂をすればってヤツか!」
大男(でけえ……190cmある俺が遥かに見上げるほどだ……)
脱獄囚「オ前タチ、俺ヲ見タ、生カシテオケナイ」
大男「えっ!?」
脱獄囚「俺、オ前タチ、殺ス! ウガアアアアアアアッ!」
大男「ちょっ、人間離れしすぎだろォ! ほとんどモンスターじゃねえか!」
弓道女(怖い……!)
弓道女「お、大男さん……」ガタガタ…
大男(そうだ……ここで俺が逃げるわけにはいかねえ!)
大男「来いやァ!」
ガシィッ!
大男(なんてパワーだ……!)ミシミシ…
脱獄囚「ガアアアアアアアアアアッ!」
弓道女「大男さん……!」
大男「逃げろぉっ! 俺にかまわず逃げろぉぉぉっ!」
脱獄囚「背骨、ヘシ折ッテヤル!」グググッ
大男「ぐあああっ……!」メキメキ…
弓道女「大男さぁん!」
弓道女(今にも背骨を折られそうな大男さんを見ていたら――)
弓道女(私の体は自然と、あの“八つの動作”を――)
ヒュバッ
ビシュッ…
大男「うわっ!」ドザッ
脱獄囚「痛イッ! 痛イヨォォォォォォォォォォォ!!!」ゴロゴロゴロゴロゴロ
大男「すげえ……一発で肩を……!」
弓道女(あんなに大騒ぎして……みっともない、見苦しい)
弓道女(やはり矢で射るのは的に限るわね。こんなの一度体験すれば十分だわ)
警官「いやぁ、このたびはお手柄だったよ!」
弓道女「しかし、私ったら人を矢で撃つなんて……弓道部員にあるまじきことを……」
警官「いやいや、撃ってなきゃ大男君や守衛さんは危なかったんだし、もちろん不問だよ!」
弓道女「そうですか……安心しました」
弓道女(これで罪に問われるなんてなったら、それこそあんたを撃ってやるわ)
弓道女「いえ、ご無事でなによりです」
大男「守るつもりが守られちまったな。情けねえ……」
弓道女「とんでもない。あの凶暴な脱獄囚に立ち向かうあなたのお姿、とても勇ましかったです」
大男「そういわれると……救われるけどよ」
弓道女「私、今こそあなたにお願いをしたいと思います」
大男(ああ、そういえば俺を弓道部に誘いたかったんだっけ。どうしよっかな……)
大男「……へ!?」
弓道女「私、自分の気持ちに気づいてしまいました」
弓道女「先ほどのあなたの勇ましいお姿を見ていたら……いえ、それ以前から……」
弓道女「私の心はあなたに射抜かれてしまっていたようです」
大男「……!」
弓道女「いかがでしょうか?」
大男「よ、喜んで……」
弓道女「嬉しいっ……!」ダキッ
大男「ほわぁ~!」
大男「脱獄囚には敵わなかったけどな……」
弓道女「いえ、あの男の筋肉など大きいだけのまがい物。すぐ追いつき追い越せることでしょう」
大男「ああ、もっともっと鍛えてみせるぜ!」
弓道女「この体に矢を撃ち込まなくて、本当によかった……」
大男「え、なんのこと?」
弓道女「いえいえっ、何でもありません!」
―おわり―
元スレ
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http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1575459093/
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コメント一覧 (14)
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- 2019年12月04日 23:16
- オチがイマイチ
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- 2019年12月04日 23:38
- 優しく丁寧に見えて内心乱暴な女の子は好きだ
だが作中描写された程度のバカップルは見逃してあげて欲しい
この程度のバカなら愛くるしいのだ
-
- 2019年12月05日 11:21
- でぇじょうぶだ
しばらくすればこいつらもバカップルになる
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- 2019年12月05日 11:39
- よし筋トレだ!
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- 2019年12月05日 11:43
- 射抜くつもりがハートを射抜かれてました的なオチかと思ったらそんなことなかったでござる
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- 2019年12月13日 13:47
- >>5
え?そういうオチじゃん…
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- 2019年12月05日 12:18
- ええ話や(つ﹏<)・゚。
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- 2019年12月05日 12:48
- 人間には自分に無いものを求める性がある。弓道女は大男の逞しい大胸筋や服を破かんばかりの大胸筋や肺や心臓をしっかりと守り抜く大胸筋に惹かれたのだろうて
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- 2019年12月05日 15:32
- これは水野翠あたりを想像したらよろしいか?
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- 2019年12月05日 16:52
- むんっ。
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- 2019年12月05日 19:28
- 190で見上げるってジャック・ハンマーぐらいあるんじゃ
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- 2019年12月06日 01:23
- いい話だったw
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- 2019年12月06日 01:24
- 逆にハート撃ち抜かれちまったか
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- 2019年12月10日 22:43
- うーん