大学で日本の風俗を研究している私は、休みを利用して、東北の海沿いの道路を歩いていた。
道路から階段が伸びていて、下には岩場がある。
ふと下りてみたそこには1人の少女がいた。

少女は岩場を、何かを探すように歩いていた。
「何か探しているのですか」私は声を掛けた。
「貝を」少女は言った。

「幸せの丸い貝を探しています」
貝とはまた奇妙だ。

それは希少で高級な貝なのかと問えば違うという。
食用かと問えば、食べる人もいるが、と言う。となると、恐らく貝殻が必要なのだろう。
「祭で必要なのです」と少女は言う。「幸せの丸い貝が無いと、祭が台無しになってしまう」
その話に興味を持った私は祭のことを少女に問うたが、少女はよくわからないという。

親類が詳しいというので、頼み込んで家まで案内してもらった。
少女の家はまさに祭りの前日といった様子で、着くなりたくさんのご馳走で歓迎された。
酒が入っていたからだろう。ろくに質問もせぬうちに私は眠ってしまった。

目を覚ますと、もう祭りは始まっていた。少女はいない。私は一番近くにいた人に話し掛ける。
「幸せの丸い貝は見つかったのですか」
「ああ、もうここにあるよ」
やがて祭りは佳境に入り、私は幸せの丸い貝がどんなものなのか理解した。
ああ、それにしても奇妙な風習じゃないか。