鬼

自分がついこの前体験した、というか現在進行形で体験している話。

私は虫や爬虫類(はちゅうるい)が好きで、子供の頃からたくさんの生き物を飼ってきた。大人になってから金銭的にも余裕ができ、今うちで三種類の爬虫類を飼っている。

オマケにエサも飼育していて、人から不快害虫とも呼ばれている虫も二十匹近くいて、それに加えて趣味で節足(せっそく)動物も何匹か飼っている。

人からは理解されないけど、私にとっては自分の子のように可愛がっているペット達なので、かなり幸せな日々を送っていた。



そんな生活をして早何年となり、家族や近しい人たちは私の趣味を知っていても普通の関係を築いてくれてる。今思えばみんな優しくて私は恵まれていたんだと思う。

そこで二、三ヶ月前に、私と姉と妹と妹の恋人と出掛けた時のこと。妹の彼氏さんから

「お姉さんは虫ならどんな虫が好きなんですか?」

と聞かれ、なんの考えもなしに素直に

「虫ならつやっぽい見た目の種類が好き。どちらかというと節足動物が好きだから、本当の意味で虫好きじゃないかもね」

「気持ち悪い生き物が好きってこと?」

この時点でちょっと失礼な子だなと感じたけどスルーして「うんそうだね」で笑った。その時はそれで話は終わった。と、思ってた。

それからしばらくして、休日。まだ残暑厳しくて、ペット達の空調管理そうじもかねて外に出してたときのこと。お昼に知らない女性がうちに来た。

独り暮らしだし、極力関わりたくなかったから居留守使ってのんびりペット達と戯れていた。

そしてその日の夜、またうちに来てた。もしかしたら宗教団体の人かもしれないと思い、また居留守。今度はインターホンをならして声までかけてきた。

「タカシ(仮名)の姉ですがー、いらっしゃるなら出てくださーい」

と言ってきた。

タカシって知らないし、夜なのに非常識な人だなとイラだってインターホン越しで対応しようと受話器を取って画面を見た。数秒間固まった。

そこに写っていたのは子供と普通の女性だった。ただ、それだけなら私も硬直したりなんかしないと思う。

お母さんと思われる女性は、小学校低学年くらいガリガリの男の子を一人、前にかかえて立っていた。男の子は明らかにお察しくださいな感じの見た目だった。

画面越しに男の子の奇声と、お母さんの嫌そうな顔を見てすぐに受話器をおいて黙っていた。画面だけはつけたままにして見てたけど、気付いてないみたいで、それからしばらくしたら二人は帰った。

私はパニックだったけどとにかく誰かに言わなきゃとか考えて、多分警察はダメだから姉貴に相談しようと電話して、すぐに出てくれたからことのあらましを話した。

「タカシってだれ?元カレ?」

「知らない、本当に知らない、怖いから来て欲しいんだけど」

「はぁ?お前の家キモいのいっぱいいるからやだ」

それでもなんだかんだ来てくれて、もう一回話をしていたらまたインターホンが鳴った。二人して固まって、息を殺して恐る恐るインターホンの画面を見てみる。何もない。

幽霊だと思った私は、コンチクショウとか言いながら半ば体当たりでドアを開けた。これが一番の間違いだったわけですよ。

昔から怖い映画とか見ると全ての扉を開けて、電気をつけて寝る人だったから、そこでも思わずやってしまったんですよ。要するに馬鹿なんです。

まぁそれはさておき。

開けてすぐ、さっきの子供が口にガッツリ拳を入れながら立ってた。それも背中になんか背負って、赤ちゃん背負ってた。子供増えてるの。

意味わからなくて、またしても固まる私に子供は抱きついて来てアバーとかウバーとか言ってくる。

もうその時点で泣きたいんだけど、ヨダレでベトベトの手を胸元辺りに伸ばして来たときに姉貴が「なにやってんの!?」って怒鳴りながら私を引き剥がした。そんですぐドア閉めて、ついでに私もビンタされた。

「おかしいってわかりきってんのに出るやつがあるか!」

とか

「なにやってんの!?馬鹿じゃないの!このあほたんけ!」

とかなんか色々言われながらも警察に電話することになった。

その間も子供と赤ん坊のなき声が外で聞こえて来るので、近所迷惑になるから中に入れた方が良いかと聞いたら、今度こそ本当に殺されるかと思うくらい怖い目で睨まれたので、心苦しいけど黙ってた。

それから三分もしないうちに警察が来た。そんでまたおかしなことが起きた。

パトカーが来るまでインターホンの画面をずっと見ていたんだけど、パトカーがうちのアパートの駐車場に止まった瞬間、どこからともなくさっきのお母さんが来て、子供かっさらっていった。本当、すんごい速くって。

うちのアパート住んでるの一階なんだけど、私のペット達の部屋は通路側にあって窓があるのよね。そんでカーテンはそのときたまたま閉めてなかったんだ。レースだけかけてたっていったらわかるかな?

そこをさ、ササササって人影が通って画面にお母さんが出てきて子供抱き上げて走っていったのよ。

おいまて!って警察の人が言ったのと同時に私も気が付いたら飛び出して走り出しちゃってて、一人の警察の人と私で子供抱えた女の人捕まえた。

だけどかなり暴れられて、予想どおり、差別だー、とかやめてー殺されるー、とか騒ぎ立てられてもう大変で、あとから女性警官が二人来て、女と子供抱えてどっかに行ったんだ。

私はその後警察官に厳重注意されてしまった。当然です、それは私も反省してる。

まぁなんとか女の人捕まえられたし、子供もケガはなかったようで本当安心したんだけど、問題はこの後だった。

女の人は何度もタカシの姉だって言ってて、私達は知らないと答える。そこで、うちの子が障害を抱えてるからって知らないふりをしてる!このヤロウ!
みたいな事を言っててわけがわからないけど、あまりにも情緒不安定で言ってることも支離滅裂。

何より子供を知らない人の家に置いてきぼりにしようとしたというので、捕まるまではいかないものの保護という形で連れていかれた。

子供は家族が迎えに来るそうだと聞いて、私達ももうヘトヘトでとりあえず後は警察に任して家に戻ることになった。一応念書みたいなのも書かされた。それでその日は終わり。

それから次の日、色々あっても会社に行ってた私のところに電話が来る。出たら妹だった。開口一番に

「タカシがお姉ちゃんに会いたいって、なんかやったの?」

ここでタカシが誰だか知った私。名前とかいつも彼氏君って呼んでたから忘れていたんだ。本気で。

そして一応昨日の件もあるし、仕事終わったら外で会うことにした。我が家だとさすがにあれだったので。

そんでタカシと妹と、なぜか姉貴二人も来てて、なにやら重たい雰囲気で来る。(関係ないけど、うちは四人姉妹)

そして一番上の姉貴にさらっと説明を受ける。いつの間にか次女が長女に連絡してて長女がなにやら色々と考えてタカシ君の名前を聞いた辺りからめどがついてたそうで。

まさに開いた口が塞がらないという内容だった。

タカシ君(仮名)は三人兄弟の末っ子なのだそうで。長女はすでに結婚し、子供も最近二人目が産まれたのだそうだ。そしてその人こそが前日うちに子供を置いていった女の人。

子供は長男が重度のアレで、前々からノイローゼ気味だったらしい。

そういった経緯からなのかは知らないが、旦那さんはどこぞの女と不倫して逃げてしまったらしく、お姉さんはどん底まで落ちて、ここ数ヶ月かなりおかしな状況だったらしい。

そして家に帰るたびに子供に怒鳴ったり、泣いたりと、忙しい疲れている姉にタカシ君は自分の恋人の姉の事を思い出し

「彼女のお姉さんがぜひ引き取りたい言ってたから、ちょっと話し合ってみなよ!」

みたいな事を言ったらしい。そしてごていねいに私の家まで何度か車で来ていて、あそこの家だよと教えてたらしい。

なんでタカシ君が私の家を知っているのかというと、私は何回か迎えに来てもらって皆でご飯食べたりとかしたから。

そんときはそんな子だとは思わなかった。今時の子だなって感じで、ちょっと話が噛み合わないけど良い子だと思ってた。

ここまで聞いてやっと声が出た私は「なんで私なの?」って泣きたいのか怒りたいのかわからない震えた声で聞いたような気がする。

「だってお姉さん、気持ち悪い生き物が好きだって言ってたから」

もうね、情けなさと悲しさと、あと彼があまりにも哀れで泣いてしまったよ。

彼は爬虫類とか両生類とかムカデとかヤスデとかゴキブリとか好きなんだからきっと自分の甥っ子も可愛いって言うはずだって本気で思ってたんだと。

彼はどうしてそんなに私が泣いてるのかわからないというような反応で、妹は妹で憤慨して彼氏に謝らせようとするし。

長女はどっかに電話してるし、次女は妹を押さえながら彼氏に罵声を浴びせるしでかなりカオスな雰囲気になった所でお開き。

時間にして十五分とかからなかったと思うけど、すごく長く感じた。

近隣の方に迷惑をかけてしまったので、その日は両隣の人と大屋さんにお菓子買わなきゃとか、謝らなきゃとか、使えない頭で考えて、すぐに家に帰らないでその辺うろうろしてた。

でも、しばらくするとあの日会ったお姉さんの事とか子供達のことを考えてやっぱり泣けてきてしまって、その日からちょっと落ち込んでしまって、しばらく眠れなくなった。

それからだいぶ日にちが経過して、後日タカシ君のお母様から謝礼とお菓子を頂いくことになった。姉達も同伴するって言ってたけど、なんか申し訳なくて一人で話してきた。

難しい話もされたけど、私はどうにも速く忘れたいのと、いたたまれないというので今後一切関係は持たない、今日限りで終わりにしたいと言ったらすんごい謝られた。

機会だったのでその後のお姉さんとタカシ君の事を聞いたら、タカシ君は妹にフラれたらしい。

お姉さんは一時的に入院していたみたいだけど、退院して家にこもりっきり。子供はお母様とお父様が面倒を見てるらしい。

最後に本当に本当に申し訳ありませんでしたって頭めっちゃ深く下げられて。また私も落ち込んでしまい。しばらくご飯を食べれなかった。

なんだかこうして話すと怖い話というか不安になってきた。怖いというか恐ろしく感じたんだよ、虫とか飼ってるとそう思われるのかとか。

虫とちょっとおかしな子供を、しかも自分の甥っ子を気持ち悪い生き物として一くくりにしている彼に。

そしてそれを引き取りたいって言われて、簡単に渡そうとしてくるお母さんがすごく怖かったんだ。

自分にはない感覚の人と出会うことは社会人になってからたくさん会ったけど、こんな風にどこかネジが外れてる人は初めてだったから。

でもとりあえず私の話は終わり。

長くて申し訳ない、一応現在進行形と書いたので話すとまだ姉と妹の方で色々とあったりする。色々とおかしな点もあるだろうけど許して欲しい。

あと蛇足だけど、人と違う面があるからってその人を短絡的に見てはいけない。どんな風に話そうともどんな物を好きでもであってもそれはその人の一面だけで全てじゃないっていうのを覚えておいて欲しい。

私は今回それを学んだよ、これを読んでくれた皆さんも気を付けて下さい!


24 :名無し\(^o^)/2014/11/01(土)  ID:FGbj5L/+.net
何でもいいから怖い話を集めてみない?Part6